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第十四話 再挑戦、否、初挑戦。上

一ヶ月以上お待たせしました!

多分また忙しくなってフェードアウトすると思います。なるべく頑張ります!(小並感)

 ――教師生活初日、午前七時頃


 眠りから覚めた朝陽が寒秋の冷ややかな大地を温めだした頃、俺はアスをこの背に担いでいた。ほぼ行動不能状態にあるアスを担いでいた。

 何故こんなことになっているのかをご説明しよう。



 俺と俺の生徒である彼女――桜羽アスカのふたりは話していた。

 まだ起きていない人のいる部屋のドアの前で。

 外開きのドアの前で。


 そして、事件は起こる。


 突如、目の前のドアが漢の威勢のいい声と共に猛烈なスピードで開き、アスが突き飛ばされたのである。

 そして、その儚げであまりにも華奢な体躯をした彼女は、石壁に身を打ち付けて地面にばたりと倒れ伏した。一度ぴくりと体を震わせたかと思うと、その後は全く動かなくなった。

 その時の衝撃音と言ったら凄まじいものだった。

 ドガッ! ボガッ!

 とまあ、そんな具合であった。



 それでもって現在、彼女はと言うと俺に担がれてひとつ上の階のミスリルの元へと運ばれている。周りには寝巻き姿のドアを開けた張本人――フェルナンド・セルバドスを従えて。


「これって、この状況ってマズいのか!? なあ、良正!?」


 べつに彼の不注意でこうなった訳でもないのに動揺している。どちらかと言えば、いや確実に俺とアスの不注意なのだが。


「心配は解るよ、フェルナンド。マズくない、と言ったら嘘になるかもな。“伝説の勇者”であるアスが、あの活発ガールのアスがこうなってるからな。一概になんとか言えはしないな」


 声色を落として深刻そうな面持ちで、完璧な演技をして彼の求めているであろう返答を自然な流れで行う。

 彼には「君に非はない。こちらに非がある」などと言ったところで通じないだろう。

 こちらに来てからのごく短い時日しか触れ合っていない。そんな俺でも感じる、感じ取らざるを得ない、そんな性格的特徴。

 兎にも角にも自らに落とし込みやすい人間なのである。

 真偽など関係なく、いついかなる時、誰がなんと言おうと聞かないだろう。これを「責任感」とするなら度が過ぎている気もする。

 しかし、これほどのものがあるからこそ偉業を成し遂げてきたとも考えられる。

『天才と馬鹿は紙一重』ってわりと的を射ているのかもな。


「ま、まさか……死んでしまったりはしない、よな!? もしもそうなったら、どれほど謝ろうにも済まされないよな」


 彼はまた顔面蒼白になりながら継ぐ。それはいいのだが……

 なんというか、彼のは個性が強い。主張が強い。

 無邪気な昭和の少年のような古びれた単色のシャツに短パン、その端々はほつれ切れている。人が着ている姿を見ない限り、ボロボロすぎてただの布切れか何かと思ってしまうと思う。

 色味もくすんだ黒と灰色の中間色、まさに鈍色。

 そこに上から謎の布を被っている。形状からローブらしいのだが、見たことの無いものだ。昔、団内で使っていたものとかだろうか。あと、全体的に筋肉のせいでパツパツで、数センチでも動かしたらはち切れ筋肉カーニバル。そんなに無理してまで着る程のものかよ。

 そんな装いなわけだが、これは個性・主張が強いと言って然るべき。こんな筋肉隆々高身長男が目の前にいる、これだけで吹き出してしまいそうになる条件が揃っている。付け加えて、あたふたと忙しなく動き回っている。それを必死にこらえて演技をしているのである。


 誰か俺の代わりにこの立ち位置やってくれ!


 と、思ったとてそんなことなど出来ようがないので、仕方なく大人しくやっているだけである。淡々と執り行っているだけである。さてさて、もう持ちこたえようにも限界が近い。苦笑いでも浮かべながらさらりと聞いてみようかな。


「お、おい、フェルナンド。なんだよそのよくわからん服装」


 あまりさらりとはいかなかったが我ながら上手く聞けた。彼は呆けた顔でこちらを見ながら、


「ああ、これか。これはだな、寝巻きだな! いいだろ!」


 大きくにっと笑みを浮かべて答えた。俺はその返答に不安になってもっと聞き出す。


「それは見れば何となく解るんだけど、なんでそうなる?」


「なんで、か…… そう言われてもな…… 普通に、なんとなく選んでだしな……」


 困ったなぁ、と首を傾げ顔をぽりぽりと掻きながら答えた。それで正確に理解できた。こいつは本当にファッションセンス皆無の芋貴族だと。

 もうミスリルの部屋の前に着いてしまったし、これ以上話を続けても今は何も仕様がないので、「もういいよ」と、終わらせた。アスが起きた後にでもコーディネートしてやればいいか。


「ん、大丈夫だよこれ。ただの軽い脳震盪のうしんとうだから」


「「うぉおおお!! ……よかった〜」」


 安堵の瞬間であった。俺たち二人は両の手を合わせ、その後おのおの解き放った感情をおもいおもい体現する。


 ビリリッ!!


 と、何やら嫌な音がした。

 ヤツの方へ見やると、案の定、割れた風船みたいな衣服の残骸とはだけて上裸になった筋肉漢マッチョマンがいた。ポージングをしたのが。


「……なにやってんの?」




 ――午前七時半


 夜明けからここまで紆余曲折(?)あったが朝食の時間。

 俺はまだ小さなたんこぶを腫らしているアスの隣でみんなと食事をとる。肝心の話は未だフェルナンドにできていない。


「では、手を合わせて。フォルタナ・ディ・ドラゴ」


「「「「フォルタナ・ディ・ドラゴ」」」」


 シェイルベルの合図で一斉に食べ始める。

 ひとつ言っておくと、この呪文みたいなのは日本で言う「いただきます」的なものだとか。深い意味は「自分で調べろ」とシェイルベルに言われたけど、調べる材料も何もないから調べてない。故になんとなくでやっている。

『ドラゴ』とあるからには龍との繋がりがあったりして……とは考えている。アスガドルとも関係あるのかも。何故かアスは知っているらしい。きっと誰かに教わったんだろう。俺と違って誰からも好かれてるからな!!



 みんながある程度食べ終えようとしているのを見て、俺はあの話を切り出そう……


「みんな、きいてくれ!」


 としたのだが、威勢のいい声に遮られた。なんと、フェルナンドに遮られたのだ。思いもよらない展開に立ちかけていた身体を椅子へと沈める。


「実は……昨晩の大将戦の話なんだが、やはり行うべきかと……」


 暗がった顔で話す。度肝を抜かれる内容だった。夜とは正反対の意見にすりかわっているではないか。


「これには訳があってだな、さっき俺がアスを傷つけてしまうということがあった。直接ではなくても傷つけてしまったのだ。俺のせいだった。だが、こうなったのは昨晩、執り行うはずだった大将戦をなくしたからではないかと。どこかでアスガドル様が俺のこの行いを見ていらしたのではないかとな」


「お、おぉ。そうかそうか。『絶対』とか言ってたのにやってくれるんだな。それはこちらとしてもとてもありがたい。でも、これだけは俺に言わせてくれ」


 そう言って立ち上がり大きく出て、俺はこう言う。


「――俺と戦ってくれるか、フェルナンド」


「ああ、もちろんだ! だが、俺もそれ言いたかったんだ。俺のパターンもやっておこう。俺と戦ってくれるか、良正」


「おうよ……ってやる必要なくねぇか?」


「おおいにある! 俺の沽券に関わる! 俺の筋肉マッスルに関わる!」


 どえらくしょうもない、くだらない話。こんなの続けたところで何が残るわけでも、きっとない。でも、こういうのがいいんだ。誰だってなんだって余計なプラスアルファを、余剰を楽しむものだから。

 異世界、なんて一見物騒で忙しなさを感じるこの場所――ダイアスで余剰を楽しめているのは幸福にもってところかもしれない。それでも今はこの幸福にすがっていよう。


 ところで、沽券はいいけど『筋肉に関わる』って何?

またせた挙句、そこまでですみませんでした。

お時間の方は返せません。ご了承ください。

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