第一話 勇者 転職 [検索]
地獄も地獄、灼熱地獄。
視界右、小洒落た丸い櫛形の装飾の施された硝子窓から見えたのは、さっきの晴天とは打って変わって猛烈な雷雨だった。
「……貴方様は“伝説の勇者”を獲得なされず、此方の方が“伝説の勇者”となられました」
「何ィィィィィィィィィィィィィイイ!?」
衝撃が伝わるのに時間は要さなかった。なんせ音源が至近距離だからな。
じゃあ此処に今俺が(召喚されて)いる意味は?
じゃあ俺はこれからどうすればいい?
てか、先ずその女(多分女子高校生)は誰?
次々泉のように湧きぬ出てくる問は直ぐに俺の器を超え、脳内CPUがオーバーヒートする。そんな俺に気を利かせてかおじさんは話し出す。
「まず、此方に来るだけで“伝説の勇者”だ! ……という訳では御座いません。此方でお目覚めになられた後、五分程お時間を頂き、候補者の方と我々の双方の合意ができ次第、称号の授与へ移るといった形式になっております。ですので、召喚はもはや“ただ候補者を召喚しているだけ”と言ってもいいでしょう。又、召喚は一度に一人まで、その間は十年に一度で御座います」
「……え、でもさっき俺等の間で合意あったよな? てか、彼女俺より年上!?」
「いえ、見ての通り流石に年上ではないでしょう。貴方様の世界と此方では時の進み方が大分違います故、一口に此方で十年といっても……向こうではせいぜい一年程しか変わらないでしょう」
「いや、合意の話は?」
「あ、ああ。申し訳御座いません。その合意についてですが、先着順採用のため、何方が先だったかというのが御座いまして……
あと四、五秒ほど早ければ貴方様がなられていたのですが…… ずっとお目覚めになられなかった此方の方が貴方様と殆ど同刻にお目覚めになられまして……」
「わかった。もう過ぎたことだ、仕方無い。が、俺はこれからどうすればいい? 召喚されてここまで話を聞かされて何もしないのも癪に障るし、何か出来ることはないか?」
自分でも途中から何を言っているのだろうとも思ったが、俺のお人好しがどんどん先行してしまった。
でも、冷静に考えて俺に出来ることなんてあるのか?
そんな不安を抱きながら返答を待っていると、彼女がじっと此方を凝視してきた。暫くすると何を思ってか話し掛けてきた。
「ねぇねぇ! あなたって…… 頭、良いの?」
「俺か? まあ、少なくともお前よりは良いと思うけど」
冗談交じりで返す。それにしても出会って早々騒がしいやつだな。元気があっていい、なんて風に言えばいいのだろうか。
「わたし、こう見えてバカだから“伝説の勇者”だとか“ことのは”とか言われても全然ピンと来ないし、語彙力なんて、無いし……」
「何がこう見えてだよ。もう滲み出ちゃってるよ。で、俺にどうしろと?」
にひひ、と女子高生とは思えぬ豪傑笑いを見せる。そして彼女はまた話を続ける。
「私が勇者で、このへっぽこダメでしょ。
てなわけで、私の教師してよ! その方が強くなれて国にとってもいい事だし、あなたも職が手に入るでしょ……だめ、かなぁ?」
ぶすり。
目の前の女子高生の作り出す雰囲気が、紡ぐ言葉が俺の心に突き刺さる。
「………ノ…まれェ、るッ!?」
(訳:ゔがっ、呑み込まれ、るっ!?)
「えぇ〜、なになに〜。急にど〜したの〜?」
「……お前ぇ、思いを……込めすぎ、だ」
「お願いしてるんだもん。“無理”だよ」
「……下手に……使う、な」
「あ! そういうことね〜! ふふ〜ん。それはね〜バカだからね〜。じゃ喋らないよ〜だ」
は? なんだコイツ?
俺の言ったことの何処をどうやって解釈すると喋らないという結論に至るんだよ。
はぁ……めんどい。喋って説明をしようにもコイツのせいでまだ猛烈に苦しいしな。
そういや、“言の波”と言ったか。
あれ使えんじゃね?
言葉、言葉……あ! この場にぴったりな言葉。これはイケる。
――以心伝心
たった七音に今のありったけをぶつける。
声に出したものの、まぁなんというか恥ずかしい。当然、周りはぽかんとしているし、ちょっとそれっぽく言ってしまった自分がいるし、な。
どうだ? コイツには伝わってるか?
そう思案していると、突然、
「ああぁーーーーっっっっ!! わかったァー!!」
「んだよ、伝わったか。なら良かったわ!」
「説明されるよりなんぼもわかりやすいよ。いや〜、凄いね。こんなことできるんだ」
ちょいと手間を省いて楽してしまったけれど、しっかり伝わっていた。このときの言の波とやらの効果について後で聞いた話だと、相手が今思っていることが直接脳にびびっとくるらしい。
こりゃあ楽だ。コイツとこれからやっていくには必須詠唱になりそうだ。
「……ごめん。わたし、あなたに酷いことをした。いくらわからなかったからって……」
「いいや、俺のことは別に心配しなくて大丈夫だ。まあ、苦しかったんだけど。お前がわかってくれたなら万々歳だ。ところで……ってあれ?」
話の途中、俺は驚くべき光景を目の当たりにした。
少し抜けてくるとも言わず、急に何処かへ行ったと思ったら、何故あいつがおじさん達に謝っているんだ? 何かしでかしてたかなあいつ。
わからない。悪いやつではないということがわかったからなおさら。大丈夫だと思うが、でも。何をしても気になってしまうものはしまうので其方に傾聴すると、
「ごめんなさい。いや〜、まさかさっき説明されてたことがまさか、あんな事だったとはね〜。とっても便利だけど危険も伴うよね〜これ!」
「「「「「「「は、はぁ……」」」」」」」
おいおい。おじさん達が『はぁ』としか言えてないじゃないか。困らせんなよ人を。
あはははは………… は? いや待てよ。あいつなんか引っかかること言ってたような気が。
よし、使っちゃお! と、身に付けたばかりの“言の波”を行使する。
んー、時空系か? まずそんなの存在しないもんな。ならここはゴリ押しでいくしかない。
――時空跳躍
現代物理学の限界を遥かに飛躍した挑戦。
この人生一の恐怖から目を閉じる俺。まさかとは思うけど某“奇妙な冒険”みたくバニラ味のアイスに食われて異次元に飛ばされた後、残ったの腕だけ。で、アップで『バァーン』とか、そんなことない…… よね。
そんな漫画のような想像をしているうち、次第に全身の筋肉が強張ってきた。
微塵も動かせなくなった身体。かろうじて動かせる肘から下を駆使して目の前に指を配置する。入念にマッサージして筋肉と恐怖をほぐす。そしてやっと、怖々と目を開ける。
すると、そこには目を閉じる前までこの目が捉えていたものがほんの少しだけ動いた光景が広がる。
そりゃそうだ。さすがに過去が相手ではどうしようもない……
いや、気になる。やっぱり何言ってたかとても気になる。
まてまて、もう過去のことなんだ。さっぱり忘れよう。
何故過去に飛べなかったのかと思う人もいることだろう。なので、ここで少し解説する。
さっき俺が『さすがに過去はどうしようもない』と言ったのは、“過去”へ行くことは理論上不可能だからだ。その反対に“未来”へなら理論上行けるのだ。
それは、確かアインシュタインの特殊相対性なんとかだったかの話。『すべての物質は光より速く移動することはできず、光速に近づくと時間の流れが遅くなる』らしい。
例えば、新幹線という高速移動するものに乗っている人は乗っていない人=高速移動していない人に対し、光速に近い状況にあり、時間の流れがほんの少し遅い。
故に、外に出た時には時間の流れの速い方に戻ることになり、進んだ時間に行ったとなるわけだ。
つまり、未来へ行ったことになる。
一方、“過去”へとなると話は変わってくる。
過去への行き方として考えられているのは、光速を超えて空間を零秒以下で移動するというものだ。
でも、普通そんなことは不可能だ。それで、さっきの『どうしようもない』という発言に繋がる。
と、思考をめぐらせ続けていた俺は異様な光景を目にする。
「何故、なぜ後ろ歩きしている!? なぜ食べ物が増えてい?!? まさか、時が反転している?」
なんと、『少しだけ動いた』と言ったのは“未来”へではなく“過去”へだったたのだ。
それに気づいてから幾許もなく、世界はコマ撮りのようにかくつきながら動くようになり、次第にパラパラ漫画のような滑らかさになっていく。
次に目を開けたときにはもう動きは止まっていた。よく周りを見渡すと、やはり過去にとんできてしまったらしい。もう一度、何故過去へ来られたかのかを考える。
どんな詠唱をしていたかを考えると答えはすぐそこにあった。きっと、“過去”という言葉を入れずに“時空跳躍”とシンプルに言ったことで助かったのだ。“跳躍”によって光をも超える速さで時空を動けたのだ。過去というイメージだけをすることで速さも過去へ行くことも兼ね備えられた、ということだろう。
「ふぅ……そうか、良かった」
「――ねえ。人が謝ってるのに、な・に・が
『そうか、良かった』なの? おっかし〜!」
「あ、あははは……」
何とか雷は落とさずに済んだ。その後は同じ台詞を言わせるため、なるべく一度目と同じように進める。
そして、遂に待ちに待った場面
「――いや、まさかさっき説明されてたことがあんな事だったとは――」
――さっき説明されてたこと? あんな事?
まさか、俺が受けた説明と似たようなものをあいつも受けたうえで俺に苦痛を与えていた?
これが本当ならば、理解していたとしてもなかったとしてもこれは断罪されるべき大罪だ!
腹の底から怒りがマグマのようにふつふつと煮えたぎり、堪忍袋の緒がぶちりと切れる。
そして次の瞬間、
「ちっ、このアマぁー!! 今すぐに死ね!!!」
身体が動き出してしまった。前に走り出してしまった。アイツに近づいていってしまった。
そして、
「んー、ぽいっ!」
「ふぇ、ふぇぇええ……ぷぎゃぁぁぁああ……!!」
身体が大理石の壁へぽいっと飛ばされる。堅固な壁に打たれた全身がひしひしと痛む。
しかし、俺の心はもうとっくにぼろぼろでへし折れているはずの身体とは裏腹にアドレナリンが過剰分泌されてか、いつになく燃えていた。より確固たる意志を持ち、先の曖昧さを帯びていたものとはひどく乖離している。
「――お前は今、此処で倒すべき存在だッ!!」
「え? なになに? 私を? 冗談よしてよ〜」
――この女との戦いが、ここから始まる。
どうでしょう。読んでくれますかね、私の作品。
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