第六話 帰還、即ち試験
二週間ほど、長らくお待たせしました!
どうぞ、久々を楽しんでください!
俺とアスは、つい先程まで熱烈な勇者教なのか、もの見たさなのかわからないが王都ガルディアの多くの街人達に追われていた。で、言霊を行使することでなんとか切り抜けた。のだが、
「――っひょ〜! とうちゃ〜っく! いや〜、いいですな〜。走ってるわけでもなんでもないけど、疾走感があるアトラクションでねっ!」
とアスは調子の良いことを言う。そして、俺は
「っ、はぁ、はぁ、はぁ…… あのねぇ、お客さん。これ、そんなに、いいもんじゃ、ない、ん、ですよ、激しく、息が、切れる、くらい、に、言の波、を、使って、つらい、ん、ですよ……」
と、疲労感たっぷりに言い放つやいなや、またあっけなくぽくりと行動不能状態に陥った。
先程の瞬間移動の前、二人で天地神明を使った後に、アスが倒れてる俺を回復してくれたというのに。
不甲斐ない、情けない。と言っても、俺の総量から考えると、まだ大技と言える大技を出すには結構無理がある。なら仕方ないか、と諦めた。
そして、今なら三人と一勇者が付きっきりでいてくれるだろうと回復してくれるだろうと思ったから、俺は安心し切って、落ち着きを持って、しばし行動不能のふわりとした眠りを嗜むことにした。
………
……
…
あれ? おかしいな。外部から何も干渉されていない? 何故? 大分時間経ってるけど? もう少しで自然回復しちゃうけど? みんなは何をしてるんだ? も、もう少し待とう。
………
……
…
っああああああああぁぁぁ! もう待てない!
「――っざけんなや! 誰も起こさへんのかい!」
我慢の限界を迎えたことで、関西弁が出てしまった。出身は東京で全然関西関係無いし、住んでいたことがあったり親戚がいたりなんてことすらない。エセ関西弁というやつだ。こんなの生粋の関西人に聞かれたら絶対不味いことになる。そんなことを思っていると、シェイルベルが淡々とした口調で話しかけてきた。
「遅かったな。このまま起きないでいた場合、あと少しで生き地獄にするところだったぞ」
「するところだったって、お前がしようとしてたんだろ! 何を他人事のように言ってんだよ、シェイルベル」
先程も言ったように淡々とした口調で鬼のような語群を並べられ、俺は一瞬にして頭が冴えた。その流れで、いつも通りにツッコミをする。まだシェイルベルは話を続ける。
「別にいいだろう、実際にはしてないのだから。そこに自由は無いのか? 思想に自由は無いのか?」
またも意地悪く責め立てられる。
「あ、あるよ! そう言えばいいんだろ! なんだよ、起きて早々意地悪く責めてきやがって」
「意地悪? この会話がか? これは戯れみたいなものだろう。真の意地悪なんていうのは、こんなことを言うんじゃないのか?」
そう言って会話を途切らせ、シェイルベルたち三人は部屋の壁際から離れる。すると、その奥から異様に広い空間が現れた。街に行く前には、ただの小部屋だったはずなのに。
円形に近いような、二階三階まである石造りの空間。一階の壁際には四箇所程、鉄柵のような仕様になっている。等間隔に配置された数多の石柱。中心には少し小さい円。まるで古代ローマの闘技場、コロシアムのような。
コロシアム?
いやいや、そんな訳……あるわ。構造のどこをどうとってもその結果しか得られない。この状況を考える中、ふと三人が言っていたことを思い出した。あれは、三人から受ける授業初日のこと。
「本当にやるのか? 俺達が教えるのでは駄目なのか?」
アスに直接何かを享受することができないのか、なんて少し悲しそうにシェイルベルが言う。
「あ、あぁ。多分俺じゃなきゃ駄目なんだ。アスは俺が支えてやらなきゃ駄目なんだ。きっとアスもそれしか認めない」
俺は出会ったばかりの年下の女子のことを、さも物凄く親しい間柄かのように堂々と話す。
「はぁ。そうか……」
「シェイルベルのやつはこの調子だが、俺は良い事だと思っているぞ! それは、良正とアスの二人だけではない。俺達や国の民も含め、皆にとっても良いことだ! この状況は、共に高め合うことができる、そんな状況ではないか? なら大丈夫だ! 二人の性格と相性なら、一緒で心配はないな」
「私もそう思いますよぉ。お二人なら大丈夫ですよぉ」
俺の堂々とした発言に少々落胆気味のシェイルベル。そして、それを乱さず、認めさせる方向に持っていこうとしてくれるフェルナンドとミスリル。持っていこうとしてくれる、なんて言ったが、二人は心の底から思ってくれているらしい。言動にブレがない。信頼してくれているなら嬉しいことこの上ない。
「ふ、二人がそんなに言うなら良いことなんだろうな! ならここは割り切って進んでいこう! ここから一週間、良正には俺達の授業をしっかり受けてもらう。そして、認めるかどうかは最終日の試験で決める」
「はいっ!」
俺とシェイルベルは、違う方向とはいえ腹を決めて進むことにした。漂っていた微妙な空気は、シェイルベルがびしっと言ったことと、俺がそれにできる限りの大声で返したことで取っ払われた。
「それで、最終日の試験会場だが…… 無いので、俺達で作っておくことにする。最高の舞台を作ってやる。覚悟しておけよ」
「お、おう!」
こんなやり取りがあったのだった。多分だが、言っていた『最高の舞台』がこの円形闘技場なのだろう。
最高のって、こういうことなのか? 格好良いのだが、これだとどういうことになるのだろう。もしかして、殺し合ったりするのだろうか…… 何が何だか分からなくて、怖くもあるので質問する。
「あ、あのーすみません。これは、どういったことですか?」
「ん? どういったことと言うと、会場完成発表だな」
「最終日の試験のですよね……」
「そうだが。何だ? 何か不満でもあるのか? 言ってみろ」
「いやいや、不満なんてないんだけど…… 今日は無くなったんじゃなかったっけ? 朝の一件で、ね?」
俺は朝のことが真実であると再確認したく、また質問をする。
「無くなったな、授業は」
「え、今なんと? もう一度言ってください」
何を言われているかわかっている。わかっているのだが、上手く飲み込めなくて、またまた質問をする。
「良正、お前みたいな輩がわからぬことではないはずだ。無くなったのは授業、試験はある」
うわああああああああああああああああああ!!
受けたいと思っていた授業が無くなって休日になったのは、本当に休養目的だったのか! 試験を万全の体制で受けさせるためだったのか! ざけんな! 今日は目一杯授業を受けて、試験に備えようと思ってたのに。
こいつら、俺のことを嵌めやがった。あれ、まてよ。そしたら、今日の授業で教える分はどうする気だったんだ? 確か、前回の授業で最後は本格的な実戦形式をとるって言ってたっけ。ということは……ちっ!
――全部、計画だったってわけか。手の上だったってわけか。
この王都ガルディアの街での敵の襲来も、それで厳しい戦闘を強いたのも。最後に、街人達に追われて瞬間移動を使わせたのも。
「俺をなんだと思ってるんだああああああああぁぁぁ!!」
きっと怒らせて、試験に望ませる気なんだろう。本来なら乗らないのが鉄則、定石。でも、ここはあえて乗ってやろう。
「ああ、その調子だ! まずはこの俺、シェイルベルからだ!」
俺の休日は流星のように過ぎていき、隕石級の試験が落下してきた。
俺は、本当に最強三人衆に勝てるのだろうか?
隕石どっかーん!




