教師簿 頁壱 「桜羽アスカという者」
三話と四話の間、召喚日の夜から翌朝までの話。の予定で書いたんだ。
――物語は少し遡って、召喚日の夜から始まる。
「なあ、ところで俺はお前のことをなんて呼べばいいんだ? “勇者アスカ”か、無難に“アスカ”なんてどうだ? 周りの人の呼び名の方がいいか?」
「そうだね〜。じゃあ“アス”って呼んで!」
「アス……いい響きな気はするが、本当にそれでいいのか?なんか“カ”を切っただけで面白みに欠けないか?」
「い・い・の! 私はあなたを“ぐっちゃん”って呼ぶから。じゃあ今からね、よーいはいっ! ほら、は〜や〜くぅ〜」
「え、えぇ……わ、わかったよ。呼ぶよ。呼べばいいんだろ、呼べば」
俺は女子の名前を久々に呼ぶことに対して、しかも愛称で呼ぶことに対して若干の抵抗を感じる。だが、呼ばないとそれはそれでまたボコされるかもしれないという恐怖と、これからやっていく仲であることから、仕方なくではあるが呼ぶことにした。
拍動がどくどく、ばくばくと身体中に響く。これはどうも緊張が抜けないようで深呼吸してリラックスへと精神を向かわせる。っすぅぅー、はぁぁーっ。一通り終えたので、そろそろ呼ぼう。勇気を振り絞り、たった二音をどうにか音として発する。
「…………ァアス?」
「なんで人の名前呼ぶのにそんなに時間かかるの〜、あ、まさか女の子恐怖症とか? にひひ。そんな訳ないよね。年私より上だもんね、大学四年生だもんね。さすがにそんなことは……ね?」
「なんだぁ! そうだったらなんだって言うんだ! ほら、何か言ってみろや! …………すみませんでした。僕、女の子恐怖症です。辛いんです。 許してください。お願いします……」
「え、ねぇ。ねぇってば。ごめん、ごめん。傷付けるようなこと言って。どんな過去があるのか知らないけど、多分相当辛いんでしょ。泣きたいなら泣きな……でも、私はアスってしっかりと呼べるようになるまで寝させないよ!」
「ずびばぜんでじだっ。って何、うわぁぁぁあ、ねぇやめて、やめてやめて、許してぇぇえ!!」
ボガッ!!
結局、この夜、眠ることはできたが、「できるまで練習するから眠れない」というより「できるまで叩くから眠れない」みたいな、そんな夜になった。
直後にあたる話をあえて少し後にするあの手法。
今回使わせて頂きましたが、あの焦らし焦らされがたまらなく好きです。