♡リヴィアと俺の
◆
学園寮の前で馬車を降りたときには、すでに土砂降りになっていた。
雨に濡れながら部屋に入ると、俺は何だか疲れ切った身体をベッドに横たえる。
「あ~……。なんか色々起きすぎて整理がつかんぞ……」
『王を護った英雄から、騎士、男爵、はては王女の婚約者だもんねぇ~』
リヴィアが言いながらクスクスと笑う。
『まるでおとぎ話に出てくる騎士のようですな。姫君がドラゴンにさらわれないように気をつけねば』
ランスロットまでそんな事を言い出した。
「っていうか、お前らずっと静かだったな。聞いてたんだろ?」
俺が顔をしかめながら言うと、リヴィアが『ぶふっ』と吹き出した。
『ごめんごめん! いや、だってなんか面白くて……』
『恐縮ながら私も……。つい展開に心を踊らせ、見守ってしまいました』
「お前らなぁ……」
横たわったままバインダーからカードを取り出して二人を召喚する。
ベッドの傍らに青い人魂が現れ、俺の隣のスペースには頬杖をついて寝っ転がった状態のリヴィアが現れた。
悪戯っぽいリヴィアの笑顔が至近距離に出現して、俺はついドキッとして目をそらした。
「……ったく、好きに笑いやがって。こっちは胃に穴が空く思いだぜ……。こんなの社長に呼び出し食らった時以来――」
「はいはい。お疲れ様」
俺が拗ねたように言う途中で、リヴィアが俺の頭を優しく抱き寄せた。
「むっ……」
ふにゅん、とリヴィアの豊かな胸の間に顔を圧迫され、ほんのりと甘く爽やかな香りが鼻腔を満たす。
リヴィアの指が雨に湿った髪を梳くように撫でて、何だかむず痒く気持ちいい。
――これはいかん。脳内で快楽物質が大量生産されているのが分かる。
「ちょっ、苦しいって」
「えー?」
俺が僅かに顔を胸から離すと、リヴィアが不満そうな声を上げた。
『しかし、主。姫君の件、どうなさるおつもりで? テノン王は、冗談では無いようでしたが……』
ランスロットの言葉に、俺は宙を見上げながら「う~」と唸った。
「ああ言われてもなぁ……。困るよ」
「なんで? 結婚しないの? そしたら、王族の仲間入りだよ?」
「ど平民の俺が、か? 格差婚すぎて現実味無いよ。それに……」
「それに?」
「……俺にはお前がいるしな」
そう言ってリヴィアの目を見ると、急にリヴィアは顔を赤くして再び俺の頭を強く抱き込んだ。
「むぐっ……! ちょっ、ほんとに死ぬっ!」
胸をかき分けるように顔を出してリヴィアを見上げる。
リヴィアは赤い顔をしたまま照れるように目をそらした。
「か、神様にそんなこと言っちゃダメなんだよ」
普段は俺に好き好き言ってるくせに、いざ自分が言われると照れるらしい。
俺はそんなリヴィアが、何だか無性に愛おしく思えた。
「確かに、王族どころじゃない格差だなぁ」
なんせ相手は神様だからな。
「そうだよ。バチが当たっちゃうんだよ~?」
「うわっ」
リヴィアはおもむろに体勢を入れ替えて俺の腰の上に乗ると、『がおー』と両手を顔の横で広げた。
「はは。天罰か。そうだな…………俺はお前に殺されるんだったら、全然良いよ」
俺が真面目に言うと、リヴィアは一瞬驚いたような顔をした後、
「本気で言ってるの?」
「……ああ」
俺がそう返すと、いたずらっぽく笑って、
「じゃあ……悪いコージは、神様が食べちゃおうかな~。色んな意味で」
俺の上に覆いかぶさってきた。
「ちょっ――んっ」
言いかけた俺の口をリヴィアの唇が塞ぐ。
柔らかな唇の感触と甘い香り。
『おっと……私は外の見回りに行かなくては』
わざとらしく言った青い人魂が、どうやってか部屋の明かりを消したあとふよふよと窓を通り抜けて外に消えていった。
「んぷっ……リヴィア、ま、待て」
「だーめ。……ん……」
一瞬唇を離したのも束の間、リヴィアはより激しく唇を重ねてきた。
俺の歯をなぞるように入ってきた彼女の小さな舌が、やがて俺の舌と絡み合う。
その時にはすでに俺もリヴィアの身体を抱きしめ、夢中で唇を重ねていた。
そして互いに、込み上げる愛おしさのやり場を探すように肌を合わせる。
薄暗い部屋。激しい雨音が、二人の声を消してくれていた。




