第一次実技試験③
「次ッ! ……おい。どうした。誰でも良いぞ。早くしろ」
二人の後を嫌がって尻込みをする受験生たちにグレンの鋭い眼光が刺さる。
「よし。お前だ。来い」
その中から一人がグレンに指名されて、ゴーレムの前に引きずり出されていた。
あとは流れ作業だ。
魔術師の他、近接職でも数名かなりの高得点を出すものがいたが、到底ミアとリヒャルトの得点には及ばない。
唯一、若い男剣士がミアと全くの同点を叩き出して歓声を浴びていた。
そして……
「次! そうだな……。そこの〈冒険者の服〉の男!」
グレンが俺をビシッと指差す。
うおおっ……。とうとう来てしまった。
こういうの死ぬほど苦手だ。
周りからひそひそと小声で囁かれる。
「あ、マジに冒険者の服じゃん。どういうことだよ」
「あいつ、付き人じゃなかったんだ」
晒し上げかよ!? 穴があったら入りたい……!
ううっ。やっぱり先に装備買っとくんだった!
「痛っ……! つっ……!」
静電気のような小さい衝撃が立て続けに身体に走る。
受験生たちが「失敗するわけがない」と、遠慮なく〈観察〉を試みてきているのだ。
だが、むしろ成功するわけがない。
俺とここにいる全員とはレベルが300以上離れているんだから。
しかし、状況が針のむしろすぎて優越感に浸れるような感じでは無かった。
「お、お願いします……」
グレンの前に出ると、冷ややかな視線を浴びせられた。
「……一応聞くが、受験生であってるよな?」
その一言に背後から笑い声が洩れる。
「はい。……あの……。これで一位を取れば、筆記が0点の場合も挽回出来るんですよね?」
俺が質問すると背後の笑い声は爆笑に変わった。
グレンがキョトンとした後、呆れたような顔をする。
「白紙回答は、お前か……。まぁ、一応試験システム上はそうなっているが……。聞くだけ無駄だと思わんか?」
「そうですかね?」
俺はそこまで抑え込んでいたドロッとした感情を微かに腹から湧き出させつつ、笑みを浮かべた。
「まあ、いい。始め!」
グレンの合図でゴーレムが起動する。
「リヴィア、起きてるか?」
『ん……ふぁ~。今起きた~』
リヴィアの返答を確認してから、俺はグレンに問いかけた。
「召喚獣を使ってもいいですか?」
「当然だ。早くしろ。時間がないぞ」
召喚師という事で、また受験生たちから笑いが起きる。
「来い。【リヴァイアサン】」
バインダーからカードを取り出し、小声でリヴィアを召喚する。
リヴィアが現れると、生徒たちもにわかに静まり返った。
「人間……? 人型召喚獣か……?」
グレンが訝しげな声を上げる。
リヴィアは気持ちよさそうに伸びをしていた。
「あの人形を攻撃すれば良いんだよね」
「ああ。一位を取らないといけないから、なるべく攻撃力を上げたいんだが……」
俺は脳内に伝わってくるリヴィアの魔法の内、『攻撃範囲が限定されていて、かつ、なるべく打撃力の高そうなもの』を探す。
「……! これが良さそうだ!」
ちょうど良さそうな魔法を見つけ、俺自身がそれを使うように脳内でイメージ。
ゴーレムに右手を向けると、リヴィアがそれにシンクロして同じように動く。
リヴィアから魔力が迸り、ゴーレムの巨体を水の塊が包み込んだ。
「〈圧壊〉!」
言いながら、リヴィアと俺が同時に手のひらをグッと握りしめる。
すると、ゴーレムが軋むような異音を上げ始めた。
『ゴボゴゴ……! ゴガ……!』
みしみしと音がなり、堅牢だった装甲にヒビが入る。
1000、2000と胸のプレートのダメージ表示が恐ろしいスピードで跳ね上がっていく。
――バキッ。ベキッ。
金属が潰れ断裂する音が響き、
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待て! そこまで! そこまでだッ……!」
――ゴシャッ!
制限時間内だと言うのにグレンが止めに入ったときには、〈改良型魔導ゴーレム〉は数分の一の大きさまで圧縮されて、鉄くずと化してしまっていた。
深海一万メートル級の水圧を掛ける攻撃魔法だ。いくらこのゴーレムが硬いといえ、ひとたまりもないだろう。
押し潰れた胸のプレートは【総ダメージ 9999】の表示のまま停止していた。
俺とリヴィアが手を下ろすと、ゴーレムを包んでいた水の塊が弾け消える。
「………………」
受験生全員が顎が外れんばかりに口を開いて、ただ呆然としていた。
「あの……。これで今の所一応トップですよね?」
「ばっ…………馬鹿者! 本当に壊すやつがあるか! お前の得点は保留だッ!」
「えええぇ!? そんな――!?」
グレンは俺の抗議を無視して、
「残りの受験生は代わりのゴーレムが来るまで待機!」
と言い残すと、肩を怒らせながら校舎の方へ向かっていった。




