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冒険者ってのも、社畜よりはアリ

   ◆


 安宿屋のさらに一番安い部屋はキノコが生えそうなほどジメジメとしていた。

 『ただの板じゃねぇか』っていうベッドと、うっすいうっすいタオルケットが今日の俺の寝床だ。

 ところが、そのベッドは現在リヴィアが占拠していた。


「あっはっは。災難だったねー」


 俺の苦労話――というか実際死にかけた話を聞いて、カラカラと笑うリヴィア。


「笑い事じゃねぇよ、まったく。誰かさんは寝てるしよ」

「まぁ、結局無事だったからいいじゃない。お金も借りれたんだし。それに、ギルドっていうのへの紹介状まで貰えたんでしょ?」


 リヴィアに言われて、俺はサイドテーブルにおいてあるメモ紙を手にとった。


「そうなんだよなぁ……」


 意外と綺麗なミアの筆跡を見ながら独りごちる。

 すっかり頭から抜け落ちていたが、当分『俺はこの世界で食っていかなければならない』のだ。

 働かざるもの食うべからず。

 鞄にはもはや役立つものは無し。ここからは完全にサバイバルだ。


「〈冒険者〉か……。合理的ではあるよな」


 宿をとった後いろいろと情報収集に励んだ結果、この街や世界のこともおぼろげながら掴めてきた。



 ――この街の名は〈レッジェーロ〉。

 グランクレフ大陸、テノン王国領の南西に位置する港街だ。

 風光明媚、人口も多く物流も盛んだが、港街特有の荒っぽさと治安の悪さが玉に瑕……だそうだ。

 そして、〈冒険者〉という存在。

 腕に自信のあるものだけがなれるその職業は、命がけなぶん報酬も普通の仕事の比にならない額だとか――。


「どうせ元の世界に帰る方法を色々探さなきゃいけないんだし、情報収集も出来て一石二鳥じゃん! 楽しそうだし!」


 自分が楽しんでるだけじゃないか? こいつ。

 ただ、リヴィアの言葉にも一理あるのは確かだ。

 たとえば、どこぞの酒場のウェイターにでもなってみろ。

 きっと俺は一生帰れない。

 得体の知れない異世界の場末のウェイターとして一生を終えるなんて、さすがにみじめすぎる。

 ってーか、働いて帰って寝ての繰り返しって、それ元の世界と変わらないじゃねぇか。

 だったら、命がけでもこの異世界を冒険したい。その方がまだ夢がある。

 俺はずいぶん昔に心の奥に閉じ込めて鍵をかけていた『夢見る気持ち』が、まるで中二のあの頃に戻ったかのようにうずうずしてくるのを感じた。

 まぁ、チート級の海神様がついてるし、死ぬことはないだろ。


「なるかぁ……冒険者。ミアに借りもあるしなぁ」

「やったぁ! 決まりっ!」


 俺が言うと、リヴィアは目を輝かせて俺に飛びついてきた。


「おいおい。まったく」


 柑橘系のような爽やかで甘い匂いが鼻をくすぐる。

 海色の髪をぐりぐりと撫でてやると、猫のようにごろごろと喉を鳴らした。

 懐いてくれてるのは嬉しいが、この体たらく……ほんとにレベル3万8千の神獣か?


「とりあえず今日は寝て、明日の朝から色々と準備するか」


 服だけでも何とかしないと、目立ってしまっておちおち街を歩くことも出来ない。

 服屋――大通り沿いになんかあった気がするな。

 他にも〈冒険者〉として必要なものがあるかもしれない。

 ミアから借りた金はまだ少し余裕がある。

 俺はリヴィアをカードに戻すと、ベッドに潜り込んで部屋のランタンを吹き消した。


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