キールと連邦の剣士②
その後も、次々現れるアボイドを男は斬り伏せていった。
しかし、アボイドの数は指数関数的に増えていく。
やがて、二人は遺跡の最深部へと到達した。
「ここが……?」
キールがランタンを掲げる。
そこは人工の巨大な地底湖のようだった。
ざあざあと水が流れる音が響いている。
「な、なんだよここは……?」
水深は浅いようだ。
水面には、三角形や多面体などきれいに成型された岩石がいくつも頭をのぞかせていた。
桟橋のような通路が湖を割るように半ばまで伸びている。
あとは入り口からすぐの場所にテーブルくらいのサイズの石台が置いてあるだけで、他には特に何もない。
――いや、違う。
ランタンを頭上に掲げると、湖の上に黒い何かが浮かんでいるのが分かった。
空中に浮かぶ真っ黒な球体。
暗闇を凝縮したような、自然界には存在し得ない暗黒物質だ。
「次元の歪み……!? しかも特大じゃねぇか! おい、ヤバい。逃げようぜ!」
男はキールの言葉に答えることもなく石台の元へ行くと、その表面に手で触れた。
すると、フロア内に青白い光が満ちた。
低い何かの駆動音のようなものが空間を満たす。
「ほう。素晴らしい。まだ起動するのか」
「な、なんだってんだ……!?」
地底湖に沈んでいた巨石郡が勝手に浮かび上がり始めた。
水を滴らせながら浮かぶ巨石は、それぞれが呼応し合うように空中を移動していく。
「ふむ」
男が石台に触れると、巨石が大きく動いた。
すると、男の眼の前にホログラムのように古代文字の文字列が浮かび上がる。
「目的のものは無しか。だが……なるほど、面白いものがうろついているな。あの〈召喚師〉の男とどう呼応するか……」
そう呟いて不敵に笑う。
フロアに満ちる光が次第に弱まってきた。
巨石群が静かに高度を下げ、再び元の暗い地底湖へと戻っていく。
同時に、湖上の〈次元の歪み〉が『パキ、パキ』と音を立て始めた。
「〈歪み〉が活動し始めてやがる……! くそ、わけが分からねぇ! 付き合ってらんねぇぜ!」
キールが男を放って駆け出す。
しかし――
『ギィィィィ!』
地底湖の入り口にはすでにアボイドが溢れかえっていて、キールの行く手を遮った。
「ヤバい……! ヤバいヤバい! おい、アンタ! どうすんだよ!?」
キールは腰のナイフを抜いて狼狽える。
もちろん、キールの短剣術のスキルで万に一つも勝てる相手ではない。
その間にも、地底湖の壁の裂け目や水中から次々とアボイドが現れ、二人を幾重にも取り囲み始めた。
「どうにかしてくれよぉぉぉ!!」
恐慌状態で男に向かってキールが絶叫する。
しかし、男は石台に向いたまま微塵も動揺していない様子で何やらメモを取っていた。
「……よし」
男はメモをパタンと閉じるとキールを振り返った。
キールがその胸ぐらをつかむ。
「なんとかしろよテメェ! このままじゃ二人ともオダブツ――ぐえっ!」
男の膝蹴りがキールのみぞおちに食い込んで、キールは腹を抑えてへたり込んだ。
「あがっ!」
その顎を男のブーツが蹴り飛ばす。
キールがもんどり打つのを見もせずに、男は懐から小さな晶石板を取り出した。
晶石板には、記号のような古代文字が刻まれている。
「転移ルーン……!? 嘘だろ? 頼むよ! なあ!?」
「幸運を祈る」
男はそれだけ冷たく言うと、転移ルーンを頭上に掲げた。
男の身体を淡い光が包む。
「うあ……うあああぁぁぁ!!」
キールが跳びかかって斬りつけたナイフは、その直前に男の姿が消え去ってしまい空を切った。
キールが腰に下げていたランタンが地面に落ちて消える。
何も見えなくなった。
「……ひっ!? ぎゃあああ! く、来るな! 痛い! 痛い痛いぃぃ……!!」
暗闇の中、キールの悲鳴と何かを齧ったり切断したりする音が響いていたが、それもしばらくすると静かになった。
キール視点の話はここまでです。
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