リヴィアさん怖いです
キールは俺を連れて路地裏の突き当りまで行くとその足を止めた。
全くひと気は無い。
「この街は、人死にで騒ぐような街じゃねぇぜ? 覚悟は出来てんな?」
キールが腰から大振りなナイフを抜き放った。
――来る!
同時に俺も腰のバインダーを取り、【リヴァイアサン】を呼び出す。
「来い。【リヴァイアサン】」
聞き取られないように小さく詠唱して、カードを投げる。
俺とキールの間に、光とともにリヴィアが現れた。
今度はちゃんと人型だ。
APが【250/400】に減少。
「がんばっちゃうよー」
リヴィアが腕をブンブンと回す。
「人型の魔獣!? けっ。死体が増えるだけだぜ!」
キールが影のように距離を詰めてナイフを振り上げる。
鋭い……!
「リヴィア……!」
リヴィアはそれを避けようともしなかった。
――ガギッ!
金属質な音が響く。
「ば、馬鹿な……!」
キールのナイフはリヴィアの首筋にぶつかって、ぴたりと止まっていた。
薄皮一枚切れていない。
「そんなただの金属の板で、あたしの鱗に傷が付けられるわけないでしょ?」
リヴィアがナイフを素手で掴む。
「うおおお……!?」
まるで大男とアームレスリングをしているように、キールのナイフを持つ腕が押し返されていく。
「ほいっ」
リヴィアはナイフを掴んだまま、キールを放り投げた。
「うげっ……!」
キールが壁にぶつかって水溜りに倒れ込む。
「ぶー。魔法を使うまでもないなぁ」
リヴィアがつまらなそうに言って、掴んでいたナイフを床に捨てた。
ナイフは刀身が握りつぶされてぐちゃぐちゃに歪んでいる。
「ねー。まだやる?」
「ひっ! ひえぇ……!?」
リヴィアが倒れ込んだキールに近づいて見下ろすと、キールは腰を抜かしたまま後ずさった。
「まだやる? って聞いてるんだけどー」
リヴィアの腕に水流が纏わりつく。
「リヴィア! こ、殺すのはマズイぞ」
俺が言うと、リヴィアは俺を振り返って『にぱっ』と笑った。
なにその会心の笑顔。逆に怖い。
「だってさ。よかったね、あたしのマスター優しくて」
「ば、化け物……! うわ……うわぁぁぁぁ!」
キールは膝をカクカク言わせながら、転げるように路地の奥に逃げていった。
「行っちゃった。手応えないなぁ」
「いや、ちょうどよかったよ。あれくらいビビらせとけば復讐に来ることも無いだろ」
するとその時、時計台の鐘が遠くから時刻を告げてきた。
「やば! 試験の時間だ……! 急ぐぞリヴィア!」
「はーい!」
すっかり忘れていた。
俺は慌ててリヴィアをカードに戻すと、冒険者ギルドへ走った。
酔いは、まだほんのちょっとだけ残っているが……まぁ多分大丈夫だろう。




