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四話 初歩の魔法

 家庭教師4日目、


「今日は火魔法の習得です。姫さま、やけどに注意してください」


 ここはワイン貯蔵庫、再び穴倉授業だ。風があると難しい火関係の練習はここで行う他にない。燭台の上の蝋燭に火を灯し姫さまの前に置く。


「姫さま、目の前の炎は何が燃えていますか?」


ろうです」


「姫さまは蝋燭をじっくり見たことがありますか?」


「……」


 姫さまに火が点いていない蝋燭を差し出し、

「この真ん中の芯の役割はご存知ですか?」


「芯が燃えます」


「蝋ではないのですか?」


「……」


「何が燃えているか確かめる為に実験しましょう。これはガラスのくだです。こうやって見ると向こう側が見えます」

 姫さまにガラス管を渡し見てもらった。ガラス管を返してもらい火傷しない様にガラス管を木の棒に止めた。


「蝋燭の炎の真ん中にガラス管の片方を近づけます。反対側のガラス管の先を見てください。どうなってますか?」


「白い煙が出てきました」


「この火の点いている蝋燭を持って、その炎を白い煙に近づけてください」


 ガラス管の先の白い煙に炎を近づけるとその煙に火が点いた。

「先生、火が点きました」と不思議そうに見てる。


 一旦、ガラス管の先の炎を消し。

「この白い煙のにおいを嗅いでください。ゆっくりと近づいて吸い込まずに火傷や髪の毛を焼かない様に注意して」


姫さまがにおいを嗅ぐと。

「蝋燭の臭いがします。これ蝋です」


「はい、正解です。蝋燭が燃える。それは初めに蝋燭が熱で溶けて蝋の水になります。次に蝋の水が芯に滲み込みます。芯に滲み込んだ蝋が更に熱くなり煙になります。その煙が燃えているのです。蝋燭が燃えることが何となく解りましたか?」


「はい、なんとなく」


「では、少し話を変えます。姫さまは火打ち石を知っていますか? 使ったことがありますか?」


「使っているのを見たことがあります。でも自分で使ったことはありません」


 火打ち石(鋼鉄片と硬い石)を渡した。

「これが火打ち石です。この火打ち石で蝋燭に火を点けられると思いますか?」


 周りを見渡しながら自信無さげに、

「もしかして点けられないのですか?」


「そこのメイドさん、答えて上げてください。そして実演してください」


「はい、お答えします。火打ち石では蝋燭に火が点けられません。普通はこのような火口ほぐちに火を点けます。私は燃えやすい木を細かくした火口を使用してます。火口をこのようにしてここに火打ち石で火花を飛ばします。火が点いたら息を吹きかけ火を大きくし蝋燭に火を移します」と前もって打ち合わせした通りに説明しメイドさんは流れるように無駄なく蝋燭に火を点けて見せた。


「どうです、じっくり見ると面白いでしょう。では火打ち石を魔法に変えて蝋燭に火を点けるとしたらどうしますか?」


「うーん、火口を用意してそこに火を点けてその火を蝋燭に移します」


「面倒ですね。魔法の練習なのか火口ほぐちに火を点ける練習なのか分からなくなります。もっと簡単に火を点けてみせましょう。火打ち石を返してください。見ててください」

 

 火の点いている蝋燭を手前に置きふっと息で炎を消した。芯から立ち上る白い煙に向かって間髪入れずに火打ち石で火花を飛す。見事一発で火を点けて見せた。


「先生ずるい!」とほほを膨らましてる。


「発想の転換です」と煙に巻く。


「初めに火打ち石で蝋燭に火を点ける練習をします。私と同じ様に火を吹き消し火打ち石で蝋燭に火を点けてください。その前にメイドさんに火打ち石の持ち方と前方に火花を飛ばす打ち方を習い練習してください」


 火打ち石を姫さまに渡し始めさせた。


 姫さまは思ったより不器用だった。「痛い!」と言って泣いているし。まだ初めて5分も立っていないのに指に青いところが見える。だけど未だに火花は見えない。不味いと思い、メイドを呼んで少し大きめの火打ち石を提案してみる。

 火打ち石変えたり、椅子に座らせたり、いろいろ試すが全く上手くいかない。メイドはおろおろしてるし、侍女が私を睨みだす。

 これ以上は無理かもと思い、休憩を伝えし少し考えることにした。


「休憩にします。皆さん(ワイン貯蔵庫の)外でお茶をしてください」


 いつもの侍女に残ってもらい、

「どうしましょうか? 続けても大丈夫ですか?」


「できるならこの練習は止めてもらいたい。姫さまの手が傷だらけになってしまう」


「でも刺繍ししゅうとかパッチワークとか針を使ったりハサミを使ったりしますよね」


「まだ先のことです」と侍女が目をそらす。


「始めてないんですか?」


「……」


率直そっちょくに聞きます、半日練習して蝋燭に火を点けられるようになると思いますか?」


「……」


「無理なんですね、分かりました。変えます。少し考えます」



 姫さまのところに行き「午前の授業は終わりにします。その代わり午後は少し長めに授業を行います」と告げその場を後にした。


 姫さまがあからさまにホットした顔するのでもう痛い思いさせられないと痛感した。


 その足で城を抜け出し鍛冶屋で鋼鉄の板を購入した。鍛冶屋で大きな火打ち石が欲しいと告げると、一軒の商店を紹介された。鍛冶屋がそこに鍋や釜を下ろしている店でそこにあるはずだと言う。

 その店に行くとその店は簡単な修繕も行うと云うので、木の棒に火打ち石を取り付けてちょっと不格好な金槌に仕上げさせた。


 午後の授業では床に小さな絨毯を敷きそこに姫さまを座らせた。姫さまの前に鋼鉄の板を置き火打ち石の金槌を握らせ鋼鉄を叩かせる「初めは優しく、だんだんと強く叩いてください」


 初めは顔が強張っていたがだんだんと強張りも解けた。リズミカルに火打ち石で叩き奇麗な火花を安定的に飛ばしている。


 叩くのを止めさせて。蝋燭と銅の管を持って姫さまの正面に腰を下ろした。


「今度は一回ずつ叩いてください。火花が飛ぶ場所に管の先を運びますので火が点く瞬間を見てください。さあ、叩いて」


「はい」と言いながら叩き、自分の打った火花で蠟燭に火を点けた姫さまはすごく嬉しそうだった。


「おお、上手くいったね。どんどん繰り返そう」とうながし続けさせた。


「はい、止めて。次は火花を魔法で出そう。火打ち石を叩いた『パチン』と云う感じで火花を銅の管の先に飛ばして。じゃあやってみて」


「はい」と元気よく返事をした姫さまは「パチン」と自ら言い火花を出した。なんと一発で成功した。


「凄い。おめでとう」と言うと。


 大声で「やったー」と叫び。僕の手を取りぶんぶん振り回している。


 私は笑いながら「姫さま、落ち着いて。魔法を確実にする為続けて練習しましょう」と促す。


「はい」とニコニコしながら頷くので二十回ほど続けさせた。


「お茶にしましょう」と、休憩を宣言した。


 お茶を飲みながら侍女と楽しそうにおしゃべりをしてる姫さまの手元を見て、『やってしまった』と、戦々恐々だ。姫さまの小さな手は包帯代わりの布が幾つも巻かれ、また青あざが幾つも見えるではないか。これはしっ責は確実だなと思い誰に怒られるか考えていた。本命が女王陛下(姫さまの母上)、対抗が宰相、大穴が国王陛下(姫さまの父上)、お小言は短めが良いな等と考えていた。話が終わり姫さまがこちらを見てる。


「どうか致しましたか?」


「先生、蝋燭に火が点けられない火魔法でも火魔法と呼べるのでしょうか?」


勿論もちろん火魔法です。ラグアルコールのランプなら姫さまの火魔法で火が灯せます。火口を使えば蝋燭に火を点ける事も可能です。今回蝋燭を使ったのは純粋な火魔法を知り習得するためです。魔法の上達にはこの純粋な火魔法が不可欠なのですよ。姫さまは、風魔法、水魔法、土魔法、火魔法が使える立派な魔法使いです。もっと自信を持ってください。あと一歩で初歩の初歩を卒業できます」


 姫さまは侍女と話した後にこちらを向いて膨れながら、

「せっかく褒めてくれたのに何で最後に落とすんですか?」と怒っている。


 良く分からず「何が?」と聞くと。


「初歩の初歩です」と言う。


「ああ、先日ここの学院を見ましたせてもらいました。学院の中に初歩に到達してる人は両手を超えてません。中級の入り口に到達した人は私の教え子しか見たことがありません。本当の魔法はずっと先にあるのです。これは憶えておいてください」


 姫さまがしゅんとしてしまった「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんです」


「いや怒っていないから。そうだ初歩の魔法を見せてあげよう。先日の緑とオレンジの炎の色の種明かしもしますね。晩餐の後、王宮の中庭でどうかな? 侍女さん、中庭使っても良いかな? 大丈夫なら後で呼びに来てください?」


「はい、確認します。他の方もよろしいのでしょうか? 宰相とか?」


「もちろん大丈夫です。どなたでもどうぞ。覚悟はできてます」と姫さまの手を見て話す。


 侍女がクスッと笑い、姫さまはキョトンとする。


「では、もう少し練習を続けましょう」


 二十回ほど火を点ける魔法を繰り返させた後今日の魔法の授業を終了した。



 王宮、夕食、


「お父様、お母様、ジョセフィーヌは火魔法を覚えました。今日から火の魔法使いです」


「おお、それは素晴らしいな。よくやったさすが私の娘だな!」


「ジョセフィーヌ、私は風魔法と聞きましたよ」と女王エマンが訊ねる。


「昨日は水魔法と言ってなかったか?」と兄のルイが聞いてくる。


「お母様、それは三日前の話です。兄さまは一昨日の話です。私は今日の話をしてるのです」


「ジョセフィーヌ、それは火魔法と風魔法と水魔法を覚えたと言うのか?」


「いいえ、お父様、私は風魔法、水魔法、土魔法、火魔法の全てを覚えました」


「エマン、私は魔法に詳しくないが四日で四つ覚えるものなのか?」


「私も聞いた事がございません」


「ジョセフィーヌ、それで何ができるのか?」


「いえ、それがまだまだです。先生が話すには初歩の初歩だそうです」


「ふーん」とロイは興味を無くし食事に戻った。


「ジョセフィーヌ、その手はどうしたのですか?」とエマンが見咎める。


「魔法の練習でちょっと怪我しただけです。あ、そうだ。この後に先生が中庭で初歩の魔法を見せてくれます。一緒に見ませんか? 私は用意があるのでお先に失礼します」とそそくさと逃げてしまった。


ファーラ(侍女)、待ちなさい」

 ジョセフィーヌと一緒に食堂を後にしようとしたファーラを捕まえ。


「ジョセフィーヌの手がいつもより白く見えました。どうしたのですか?」


「魔法の練習でけがをされたので」


「先ほど聞きました」


「白粉で隠しました」


「なぜ?」


「切り傷が三か所、青あざが五か所ほどあります」


「なぜ、魔法の練習でそんなに怪我をするのですか? その教師をここへ呼びなさい」


「姫さまは望まないかと」


「何をしたんですか?」


「火打ち石で火花を飛ばす練習をされて」


「……何時間も練習したのですか?」


「いいえ、ほんの十分ほど」


「なんで怪我をするのですか?」


「私にもわかりません。ただ石を打とうとする毎に怪我が増えました」


「ジョーは隠したいと思ってるのかしら?」


「はい、そうだと思います」


「この話は終わりにします。それから私も魔法を見に行きます」



 王宮の中庭、


「皆さま、姫さまの魔法の授業がどの様な内容でどの様な方向に進むか簡単な説明と実演をいたします」


 姫さまと宰相ぐらいと思っていたが、ふたを開けると女王と第一王子、学院長、学院長の子分らしき教師、近衛隊長、確か軍務大臣、なぜこんなことに?


「まず最初に姫さまの現在の魔法は、魔法の初歩の初歩です。魔法の初歩の初歩とは、風水土火の緻密で正確なコントロールした動作です」


 手の上で炎を再現する。


「皆さんは、この魔法が普通の火魔法だと勘違いされてます。この魔法を細かく見ていきます」

 僕は左手の指さきから蠟燭の煙を再現させた。


「左手の指さきから燃える煙を作り出しています。右手の火魔法で火花を発生させ着火させます」

 左手の煙に火花で着火させ炎を作り出した。


「この左手の燃える煙を作りだす魔法が初歩の魔法です。今日はこの初歩の魔法の実演をしたいと思います。何か質問がございますか?」


 王子が質問を投げかけた、

「私も炎の魔法は見たことがある。そんなに細かい説明が必要なのか?」


「必要です。魔法を知り、何が出来、何が出来ないかを知るためには大変重要なことです」


「……」


「先日の魔法の種明かします。ランプ、これはラグ酒のランプです。蠟燭等に比べて青っぽく暗い炎です。これは銅貨と貝殻です。この粉末はそれぞれ銅貨と貝殻を削ったものです。この粉末をランプの炎に焼べます」


 銅の粉末は緑色に発光し、貝殻の粉末はオレンジに発光した。


「先日の魔法はこれを再現したものです。次はこれを魔法で再現します」


 僕は右手に火のついた蠟燭を持ち。左手の指さきから煙を発生させ、そこに蠟燭で火を点けた。


「どうでしょうか? 緑色とオレンジの炎の種明かし、ご理解いただけたでしょうか? 炎の魔法は、燃える煙を作り出す魔法と、火花で着火する火魔法の組み合わせです。次はラグ酒を作り出す魔法と風魔法を組み合わせてみます」


 僕は右手に火のついた蠟燭を持ち、左手の指さきからラグ酒を風魔法で霧状に吹き出した。そこへ蠟燭の炎で着火した。僕の指先から炎が噴き出ている。


 姫さまは無邪気に喜んでいるが、他の皆さんは目を丸くして何を言えばよいか分からないような顔をしている。



「皆様、如何でしょう。魔法の初歩は? 姫さま、姫さまは明日の授業でこの魔法ができるようになります。頑張ってください。今日は私の拙い説明と実演にお付き合いいただきありがとうございました。何か質問があれば承ります」


「うちの学院で教師をしないか?」と学院長が。


「既に他国で教師をしています。今は休暇中でご希望には添いかねます」


 第一王子が、

「今の魔法が魔法の初歩というなら中級や上級はどのような魔法ですか?」


「勿論、始まりの王達の魔法です」


「そんな、おとぎ話じゃないか」


「幾つかの魔法は再現できます」


「報酬は何を要求するのじゃ?」と女王が聞いてこられた。


「初めにお約束した通り、姫さまと宰相、学院長、近衛隊長が教育結果に納得すれば子ミャウ(ねこ)を頂ける約束です。間違いありませんよね」


「はい、そう約束しました」と姫さまが答える。


「そうか」と女王。


「面白いもの見せて頂きありがとう、先に失礼する」と女王が退席する。

 と皆が連れだってぞろぞろと戻り始める。


 姫さまも「お休みなさい」と言って戻られた。


 侍女が寄ってきて、

「姫さまの手の件でおしかりはありません」


「ありがとう。明日、姫さまの家庭教師の今後について相談したい。どなたが適任だろうか?」


「どのような件で?」


「家庭教師はまだ必要ですか? 学院は休んでも大丈夫しょうか? 姫さまの学習等の指導者の方と姫さまを交えてお話をしたい」


「特におりません。いつもは女王自らが決めております」


「女王陛下と姫さまと話し合いの場を設けることは可能ですか?」


「はい、スケジュールを調整してご連絡します」


「お願いします」



 家庭教師5日目、


「今日は炎の魔法の習得です。今日もやけどに注意してください」


 ここはワイン貯蔵庫、またまた穴倉授業だ。


「昨日は火花を再現しました。今日は炎を再現します。蠟燭の煙を再現するのですよ。姫さまの前にある蠟燭を吹き消して煙を吸い込まないように匂いを嗅いでください」


「はい、……けほ、けほ、けほ」


「姫さま、大丈夫ですか? 誰かお水持ってきて」

 メイドさんがお水を持ってきて飲ませてあげてた。


「姫さま、落ち着いたらもう一度匂いを嗅いでください」


「はい」


「私の真似をしてください。手のひらを上に向けて、蠟燭の煙を想像して、蠟燭の炎を想像して下さい」


「はい。……うまくできません」


「大丈夫です。1回で上手くできる方が珍しいですよ。目を瞑ってください。手のひらが熱くなってきますよ、熱くなってきますよ」と言って姫さまの手のひらに暖かい空気を上からゆっくりと押しあてた。

「炎を想像して、はいっ、炎を出して」


「はいっ」姫さまの手のひらに炎が現れすぐに消えた。


 姫さまは暗示に掛かりやすいと思う、根が真面目で人を信じやすい良い子だ。

「ほとんど成功だね、続けて練習しよう」


 数回後には手のひらに蠟燭の炎が再現できていた。


「次は火の魔法の練習を行います。 火の魔法と炎の魔法が混同しないように、自分が今どちらの魔法を使用しているかはっきり意識して魔法を使ってください。では、火の魔法を発動してください」


 15分おきぐらいで交互に練習を繰り返させた。

「それでは、午前の練習を終わりにしましょう」


 一人の侍女が、

「シオン様、女王が昼食を一緒に取りたいと申しています。時間になりましたらお部屋にお向かいに参ります」


「はい、ありがとうございます。部屋でお待ちします」


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