一話 赤い鉱石の調査
「空を飛びたい魔法使い」の続編です。ぜひ前作をお読み下さい。お願いします。
見渡す限りの荒野、まるで昔のアメリカの西部劇そのままだ。人影は全く見えない、それなのに僕は岩陰の身を潜めてじっとしている。何故ならここは立ち入り禁止の場所だから、この国、サイトフィート王国がこの場所の重要性をどれだけ理解しているか分からないので慎重に行動している。
もう少ししたら……。この荒野で夜を過ごす人間はいない、夜は皆宿場町か鉱山で宿泊する、野宿する人間は皆無だ。そしてここは宿場町から2時間近くかかる街道の脇。
僕は岩陰から這い出し、隠してあったハンググライダーを組み立てた。程なく組みあがったハンググライダーで偵察開始だ。
昼間にこの道なき道を進んだ馬車を探す空の探索が始まる。上空から微かな轍跡を辿り荒野の一角に数棟の掘っ建て小屋を見つけた。素早く太陽の位置、山の位置、目印を探し、この場所から充分離れ、夕暮れの中安全な場所に着陸した。
翌日は僕の希望通り晴れた。まあ、この辺りは九分九厘毎日晴れるから当たり前だが。
十分日が昇ったのを見計らって飛行開始だ。十分高度を上げ、太陽と自分と掘っ立て小屋が一直線になるように飛行している。これだけ日差しの強い地域だ人は太陽を直視しない。僕は掘っ建て小屋周りが露天掘りの鉱山なのを確認した。ここがボーキサイトの鉱山だ。
次は現物の確認だ。轍跡の道なき道の上空から馬車を視認でき隠れられる場所を探し身を潜めた。予想通り馬車が近づいてきた。まあ、御者や護衛の人件費を考えたら二泊以上はしない筈だと思う。馬車は普通の馬車だった。鉱石運搬用の馬車を使わずありふれた馬車を使用している。しかし御者の顔を覚えた。次の大きな街の入城門で見張れば補足可能だろう。
あの道からならこの街を使うに違いないと城門の内側で見張っている。近くに馬車を止め準備万端だ。
来た! あの御者だ。馬車に乗り追跡開始だ。御者台のすぐ後ろに陣取り、
「御者、この道は何処に向かう道だ?」
「この先は、上流階級のお屋敷が続く道です」
分からん、
「この辺りのお屋敷に詳しいか?」
「ここいら辺は分かりませんね、皆さんご自身の馬車をお使いになるから」
追っていた馬車はあるお屋敷の中に吸い込まれるように入って行った。
「二軒ほど先の屋敷で降ろしてくれ」
「はい、分かりました」
僕は馬車を降りゆっくりと道を引き返した。見つけた!
「君、ちょっと良いかな」
農家の兄ちゃんを見つけた。野菜の配達をしている。
「はい」
僕は金を握らせ、
「あのお屋敷は誰の屋敷か知っているか?」
「ああ、フィント商会の旦那様のお屋敷だな」
「古くからあるお屋敷なのか?」
「いや、できたばっかりだよ」
「フィント商会は何処の在る?」
「表通りの〇〇〇の△△△だよ」
「ありがとう」
僕は踵を返して表通り目指して歩き始めた。
僕は屋台で果物を品定めしながら、
「すいません、少し話を聞いても良いですか?」
「ああ、良いよ」
「あそこのフィント商会は何のお店ですか?」
「あなた、何してる人?」
「内装の営業です。新しい店だから食い込めないかと思いまして」
「ああ、穀物関係らしいよ。お店と言うよりこの国で買い付けて本国のノックフィートに送る窓口と言っていたよ」
「見込みがあると好いな」と屋台のおばちゃんに呟き、果物を多めに買って屋台を後にした。
赤い鉱石を流通させてる国が分かった。それも商会を通さず王国自身で差配してるみたいだ。これでは現物の確認は無理だろう。馬車から鉱石を抜き取るのは諦めて状況証拠だけで我慢しよう。
必要としている国もノックフィートで予想通りだ。初めはロングフィートの可能性も考えたが鉱山の場所を確認してその可能性はなくなった。
ボーキサイトの鉱山は北西に40~50キロメートルでロングフィート王国、東に数キロメートルでバルミフィート王国、3か国の狭間にあり、どの国もこの荒野で容易く鉱山を見つけられるだろう。サイトフィート王国のボーキサイトの鉱山は、ただ単に鉱山が街に近く、街道に近く見つけやすかっただけだ。ロングフィートもバルミフィートも探せば自領で鉱山を容易く見つけられると思う。
これ以上の調査は無用と判断して調査を終了した。