十一話 帰還
姫様お迎えの旅、十一日目、
「宰相、サイトフィートを抑える良い手がありませんか?」
「シオン君、君がなんとかできると言っていたみたいだが」
「私は、買収が妥当だと思います。それに案外ずさんな国ですから、ごまかしても大丈夫でしょう。でも、もっと穏便に収まるなら尚良いかなと」
「買収か?」
「お金は伯爵に出させれば良いと思います。確実に責任の一端は伯爵にあります」
「うーん」
「どうしても脅すならひとつ弱みを持ってますが、サイトフィートに使うと恨まれますよ」
「うーん」
「じゃあ、護衛騎士に泥を被ってもらいましょう。ならず者に負けたので事を大きくできない、と言ってお金を包み有耶無耶にしましょう。実際に彼らは守りきれずに敗走したのだから我慢させましょう」
「うーん、そうしよう」
姫さまの部屋で魔法の練習を見ていると、
護衛騎士の隊長が怒鳴り込んできた、
「おい、シオン、なんで我らがならず者に負けたことになっているのだ?」
「事を収めるための犠牲だ、我慢しろ」
「ふざけるな、死んでいった騎士たちを考えろ!」
「私は警告した、人員を増やせとも言った、君たちは姫さまを守れなかった、君たちは責任を取らなければいけない。この屈辱が責任だ、甘んじて受けてください。ここは姫さまのお部屋です、退出しなさい」
隊長は顔を真赤にして戻っていった。
「先生、今のは言い過ぎです」
「何事にも責任があります。彼等はその責任が果たせなかった。我々が逃げ出す状況になってはいけなかった。姫さまはご自身が如何に危険でしたかお分かりですか? もう少しで死ぬところでしたよ、姫さまに何かあれば彼等は縛り首ですよ」
「……」
姫様お迎えの旅、十二日目(帰路)、
全て片がついた。帰路についた。
姫さまの魔法の練習はお休みにした。スペイフィートから来ていた宰相達も今日スペイフィートに戻り。道中のシャーリー姫様のお相手をジョー姫さまが行う必要がある。ほっぽっておけませんから。
ふたりとも襲撃の恐怖が薄れてきて時折笑顔が見える。七日も部屋に閉じ込められていたから馬車の旅も嬉しいだろう。
ようやくサイトフィート王国の国境の町についた。帰路の旅は宰相や多くの騎士が参加してごちゃごちゃしている。姫さまの護衛は元の護衛騎士が外され、王都から来た騎士と国境騎士団から抽出された騎士で混成されている。またこいつらが仲が悪くてどうしようもない。他国の姫様の前だというのに怒鳴り合うことさえあったのだから。
シャーリー姫様の居ない時に、
「この騎士の編成を変えるのは誰に進言すれば良いか分かります?」
「わかりません、こんなに規律が緩んでいるとは思いもしませんでした。帰ったらお兄様にお話しします」
「そうですね、頑張ってください」
「え、そんなもっと考えてください」
「いや、私は他国の人間だから」
「そんな、私達を救ってくれたじゃないですか」
「それは命が掛かっていたから。騎士団内部の話に他国の人間が注意でもしたらもっと拗れます」
「そうですね、やっぱりお兄様に頑張ってもらいます」
「そうだ、この旅の途中で気付いたのですが残ってる赤ちゃんミャウ、そのうち二匹は私が頂けるのですよね」
「え、そんな」
「いや、そんなに驚かれても、あと四匹残っていますよね」
「昨日、宰相に言われたんです。赤ちゃんミャウのうち二匹をお詫びとしてサイトフィートに献上しますと」
「なるほど、宰相も考えましたね。お金よりもっと喜んで貰える賄賂だ」
「私のミャウがいなくなりました!」
「大丈夫だよ、女王陛下がなんとかしてくれるさ」
「なんでですか?」
「娘を危険な目に合わせたんだから、おねだりしなさい。いままでにミャウを贈った家から赤ちゃんミャウが生まれたら貰えるように女王様に頼んでもらえばすぐに見つかりますよ」
「そうだと良いのですが」
「まあ、明日の夕方にはお城に戻れるから聞いてみてください」
「はい」
姫様お迎えの旅、十三日目(到着)、
「姫様、王都が見えてきました」
「シャーリー、あれがシャロフィートの王都です。ようやく馬車から開放されますね」
「はい、ジョー、私もルイ様と早くお会いしたいです」
「まあ」
等と、姫様二人はテンションが上ってきたようだ。良かった、良かった。
王宮の正面入口には人が一杯いる。国王自らもお出迎えみたいだ。
「お父様、お母様、ただ今戻りました。こちらがスペイフィートの第二王女殿下のシャーリーズ様です」
「ようこそ、遠いいところご苦労。我が国でゆっくりと楽しんでくれたまえ」
「はい、ありがとうございます。国王陛下」
「女王のエマンです。いろいろご免なさいね、まずはゆっくりして、その後いっぱい楽しんでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「シャーリーズ、無事で良かった。心配したよ。でも、再び逢えて嬉しいよ」
「はい、ルイ様に逢えて嬉しいです」
「さあ、みんな中に入ろう」
やっと、ぞろぞろ中に入っていった。
帰還翌日、
「先生、一日ぐらいお休みをください」と、姫さまがわがままを言ってくる。
「だめです。どれだけ遅れたか分かりますか? もうすぐ夏休みですよ! 私の休暇も終わるのですよ」
「大丈夫です。私もようやく分かってきました。ちゃんと計算したら二日程余ります」
「これだけ予定が狂ったのです、今後なぜ狂わないと思うのですか?」
「分かっています。だから今日も練習していますよ」
「本当に? 女王陛下に呼ばれているので席を外します。練習は続けてくださいね」
「この度は、本当にすまなかった。シオン殿がいなければジョーの命が無かったと聞いた。ありがとう」
「いいえ、するべき事をしたまでです。それよりスペイフィートに支援した方が宜しいかと。彼の国は泥を被り過ぎました。シャーリーズ姫の母上の立場を良くするためにも目に見える支援が必要と思います。陛下のご友人なんでしょ」
「はい、彼女には迷惑を掛けてしまいました」
「ロクスフィートにスペイフィートのシルクを紹介してください。女王陛下の名前でスペイフィートの有力な貴族と大きなシルクの商会を幾つか招待してください。ロクスフィートはハースウェイ侯爵が歓待するように段取りを付けます。良い方法だと思いませんか?」
「下心がありそうですけどスペイフィートは喜びそうですね。誰に頼みましょうか?」
「伯爵か陛下《女王》の兄上にやらせればどうですか?」
「兄上ですか?」
「伯爵が適任だと思いますが高齢だから兄上が尻ぬぐいで接待をやらせれば良いと思います」
「分かりました、父と兄上と相談します」
「それから、赤ちゃんミャウ、サイトフィートに贈る前に私に選ばせてください」
「何ですか? スペイフィートに贈る?」
「まだ宰相からお聞きになっていません? スペイフィートに渡す賄賂にミャウを使うつもりですよ。自国の街道でならず者に他国のお姫様二人が襲われたのです。スペイフィートの治安維持の責任者の面目は丸つぶれですよ。丸く収めるためミャウ二匹はお安いと思います」
「……しょうがないですね」
「ですから、私の分のミャウを選ばして下さい。よろしいですね」
「分かりました。どうぞ」
女王陛下の居間を出ると、
「宰相がお呼びです、ついて来てください」
「はい」まだ解放されなかった。
「すまない、忙しいだろうが少し時間を頂きたい」
「はい、私からもひとつお話があります」
「そうか、では君からどうぞ」
「先ほど女王陛下にお願いし了承されたのです、伯爵にスペイフィートのシルク関係の貴族と大きなシルクの商会を招待してもらいロクスフィートに紹介して頂きたい。ロクスフィートはハースウェイ侯爵がもてなします。どうでしょうかスペイフィートも喜んで頂けると思います」
「うまい方法だね、労は伯爵が被り、スペイフィートは喜び、君もシルクの販路ができる。もう少し下心を隠したほうが可愛げがあるが、スペイフィートの溜飲を少しでも下げられるならやるべきだな」
「ありがとうございます。了解したと思ってよろしいのですね」
「ああ、しかし伯爵は高齢だ大丈夫か?」
「その時は次期当主にお願いします。親の尻拭いだからやらせてください」
「分かった、陛下に伝えておく」
「次は私の話だ。チャーベス侯爵の話からいろいろ思い当たることが見えてきたよ」
「失敗しました。少し動揺してしまいましたね。あそこは知らぬ存ぜずで突っ張るところでした」
「空を飛ぶ魔法や炎の魔法について教えてもらえないかね?」
「できかねます。空を飛ぶ魔法は姫さまが努力すれば2、3年後になんとかなると思います。炎の魔法は一切教える気はありません。だいたい姫さまと自分の身に危険がなければ使う気など全くありませんでした」
「君にはいろいろ知られたら不味いこともあるみたいだが?」
「ありません、私自身にはひとつも。でも不用意に話すと幾つも敵を作りますよ」
「……」
「この話はこれで終わりにしましょう」
「そうだな」
夕方、
「姫さま、練習を終わりにしましょう。お疲れ様でした」
「はい、ありがとうございます」
「姫さま、この後予定ありますか?」
「いいえ、何ですか?」
「子ミャウを選びます、手伝ってください」
「はい」いきなり笑顔だ、本当にミャウが好きなんだな。
「どんな子にします?」
「まずは番だから男の子と女の子一匹ずつ、次がモコモコ度合いを考慮します」
「そうですか、男の子に一匹モコモコで耳が小っちゃい子がいます。私が狙ってたんです」
「それは良い、ねらい目ですね」
「そうです、可愛いです」
と言ってるうちに女王陛下の部屋に着いた。
扉の侍女に、
「赤ちゃんミャウを選びに来たのですが」と、告げ。
「はい、女王陛下から聞いております、どうぞ中にお入りください」
姫さまと中に入り侍女が大きなバスケットに入った赤ちゃんミャウを連れてきた。
「この子がさっき言った耳のちっちゃなモコモコの男の子です」と、言って手渡してくれた。
眠いのか男の子なのに大人しいミャウだった。
「今日は大人しいですね、眠いのかな?」
「そのようですね」いっぺんで気に入ったのでリボンで首輪を作り付けてあげた。
「先生、それなんですか?」
「ん? これは首輪だよ、僕のミャウの目印だよ」
「可愛いですね。シャルルに付けようかな」
「付けるときはきつくしちゃ駄目だよ、でも緩くても駄目なんだ緩すぎるとすぐに何かに引っかかるから。それからシャルルにリボンは駄目だよ、簡単に食いちぎって間違えて食べちゃうから。革か丈夫な布で作らないと」
「そうですね、考えてみます」
「あと一匹は、二匹の女の子のどちらか。二匹の子ミャウを自分の膝の上に乗せ、逃げないで残った子ミャウにした。この子にもリボンを結び付け。さあ、姫さま、魔法の練習を頑張ってください」
「ええ、なんかちょっとひどい」
「ははは、でも本当に頑張ってくださいね」
「姫さま、シオン様、伯爵が到着しお待ちです」
「はい、すぐ参りますとお爺様にお伝えください」
「はい、私もすぐ参ります」
部屋に入ると伯爵がすばやく立ち上がり姫様の前で片膝を突き、
「申し訳ありませんでした」と、告げると動かなくなってしまった。
「お祖父様、私は大丈夫です。どこにも怪我ひとつしませんでした、だからお立ちになってください」と、言って、お祖父様の手をとって立ち上がらせた。
伯爵を椅子に座らせ、
「伯爵、もう終わりましたスペイフィートやサイトフィートともほぼ関係の修復ができました。これから両国との関係強化に努めれば良いと思いますよ」
「そうです、お兄様のフィアンセの王女殿下も無事ですし、お兄様と仲良く過ごしていますし上手くいってます」
「ありがとう、今日は失礼する」と、言って下がってしまった。
「どうしましょう?」
「女王陛下に頼んでください。伯爵に名誉挽回の機会を与えてもらうのが一番ですよ」
「そうですね、お母様に頼んでみます」
翌日、
「シオン、色々と仕事を振ってくれたみたいだな」
「名誉挽回にちょうど良いでしょう、伯爵。引き受けてくれますね?」
「ああ、国王陛下にご迷惑を掛けたままでは済ませられなからな」
「私がロクスフィート王国のハースウェイ侯爵に手紙を書きます。その返事が届き次第、スペイフィート王国に赴いて頂きたい。なるべくお偉い人を捕まえてください。後々いろいろ遣りやすくなりますから」
「何だ? 何がやりやすくなるんだ?」
「もちろんシルクの事業ですよ」
「ふざけるな! 今回の騒動がどれだけ国に痛手を与えたと思う」
「与えたのは貴兄じゃないですか。他国の事業を盗んじゃいけませんよ。お金を出して買わなければいけませんよ」
「何?」
「桑畑は既にあります。使わなければ勿体無い。蚕を購入しましょう。そして売りげの一部、5%なり10%を支払う約束にしましょう。嫌だといえばこの話をノックフィートに持っていくと煽れば食いつきますよ。もちろん話をする時に既に桑畑があるなんて言わないでください」
「……」
「交渉です。交渉術ですよ、これで名誉挽回しましょう」
「分かった、宰相と話してみるか」
「頑張ってください」
「君に言われた通りに陛下《国王》にロクスフィートの国王陛下に協力を依頼する親書を書いて頂いた。これで女王陛下と伯爵の面目が立つならと喜んで書いていただけたよ。君は何でこんなに深入りするのかね、私には不思議でしょうがないよ。いや、はっきり言えば君の魂胆を聞かなくては怖くてしょうがないよ」
「簡単ですよ、シルクが欲しいからですよ。そのうちに分かることだから話しますが他言無用ですよ。シルクを使えば飛行道具の扱いが簡単になるのですよ。だから大量に安価に入手したい。目的がちょっと違うけど初めから言っていることは変わっていません」
「そうか、これで君はうちとスペイフィートからシルクを安価に大量に優先的に入手できてバンザイという訳か」
「そうですよ、伯爵の領地で桑畑を見たときから考えていました。女王陛下と伯爵があんな不味い方法で事を起こさなければ穏健な方法で済みましたよ」
「まあ、納得したよ。丸く収まりそうだし、国としても利益が出そうだから反対する理由もないからね」
「では、失礼します」
「……」




