十話 襲撃
ご指摘の通り十話の内容が間違いでした。修正致しましたので改めて読んで頂けると嬉しいです。
本当に申し訳ありませんでした。
姫様お迎えの旅、五日目(帰路)、
ここまでは何事もなく進んだ。そして今日襲撃がなければこの先も襲撃は無いだろう。スペイフィートの姫様が合流したので危険が少し減ったが、最悪の予想通り蚕を密輸している。
少し早い昼食を済ませた一行は、この道中で一番人気のない場所を進んでいた。
何もない場所で馬車が停まった。俺は二人の姫様に突進し窓辺から引きはがし馬車の中央に伏せさせた。侍女たちの喚き声を無視し外を見ると襲撃が始まっていた。
「伏せろ、襲撃だ。騎士はドアを守れ」
窓から外を伺うと、劣勢だった。なんだこいつ等、威張ってた割にからきし弱いじゃないか。
俺は御者台に出て亡くなっている御者を押しのけ馬車を走り出させた、シャロフィートに向かって。最悪の場所、俺も襲撃するならここで襲うだろう。ここは街道沿い小さな漁村が続くだけで騎士や兵士は全くいないはずだ。北は荒れ地?砂漠?そんな感じの大地が広がっている。幾つか北に向かう街道があるが全く隠れるところが無く逃走には向かない。どう考えても今日の宿泊予定のバタンの町に行くしか無い。しかしあそこも兵士の数は少なかった。八方塞がりだ取り敢えず逃げて迎撃しやすい場所で対峙するしかないと考えていた。
「おい、家庭教師、こちらに逃げても味方はいないぞ、反対に逃げるべきだ」と騎士の一人が言った。
こいつバカじゃないか、あんな場所で馬車を反転できるわけがないだろ。
「無理言うな反転できないし、どこに逃げてもすぐに追いつかれる」
「誰か、何人追ってきてる?」
「はい、きゃー」
「馬鹿、窓から顔をだすな。殺されるぞ」
「じゃあどうやって?」
「隙間から覗け」
「十人以上います」
「シャーリー姫さま、追手を見てくれ。そこの騎士、姫様を守りながら後ろを見せろ」
「なんで?」
「いいから、言うことを聞け」
「はい」
「私の国の兵士がいます」と、泣きながら告げてくれた。
「うちの騎士もいる」と、騎士が喚く。
内通者がいたのか、最悪だな。
「きゃーっ」侍女が叫ぶ。
「横に並ばれた」騎士が怒鳴る。
「姫様を真ん中に、窓から離れろ」と俺が怒鳴る。
俺は左右に風の渦を作り出して追手の矢を避けていた。背中は馬車で守られているのが救いだ。
見つけた。右に海岸に降りれる下りの道を。馬車の右側にいた敵を巻き込み落馬させ、右側の下りの道に入り込んだ。左は切り立った岩肌が続き、その岩壁ギリギリに馬車を停めた。
「馬鹿野郎、こんなところに停めたら包囲されるぞ」と、騎士が怒鳴る。
「包囲されても片面だけだ、ここで迎え撃つ」
姫様と侍女を馬車の左の岩壁側に集め、右のドアの隙間から、
「お前たちの要求は何だ?」と、怒鳴る。
「分かってるだろ」
「蚕の卵を渡せば立ち去るか?」
「ああ、見逃してやる」
「俺達が何個の卵を持っているか知っているのか?」
「卵じゃない繭が二十個だ」
「分かってるじゃないか、今そちらに放る」
「それは母上から預かった繭です。渡すわけには行きません」
「誰かこの姫様を押さえてろ。こんなもの持ってきちゃいけなかったんだ」と、言って繭を取り上げた。
「シオンさん、女王陛下の命に背くことですよ!」と、フィーラが叫ぶ。
俺は繭の入った箱を放った。
「どうだ、確認しろ」
箱を拾った男は中を確認して大きくうなずいていた。
「確認できたようだな、お前たち去れ!」
「馬鹿だな、王族を襲って顔を見られたままにするわけがない。ハハハ。馬鹿が」
「おまえたち、俺は魔法使いだぞ。五体満足のうちに去れ!」
「火吹男の手品程度でどうする?」
「裏切り者!」と、騎士が叫ぶ。
「姫さま、あいつ、中庭で実演した時いなかったですか?」
「先生、何を呑気なこと言ってるのですか?」と泣いてる姫様に怒られてしまった。
「姫さま、魔法使いは強いんですよ」
ドアを開け外の男たちめがけ炎の魔法を放った。まるで火炎放射器のような激しい炎に包まれ、固まっていた五人の男が火達磨になり転げ回っている。
一瞬で状況が変わった。残りの男たちは火だるまで転げ回っている男たちを助けること無く立ちすくんでいる。
「どうする? そこの転げ回っている男たちの火を消して引き上げるなら見逃してやるぞ?」
「わ、分かった」と、言い。
転げ回っている男たちの火を消して馬に乗せ立ち去った。
後ろの侍女たちも驚愕の目つきで俺を見てる。
「おい、そこの騎士二人、お前たちは馬に乗ってこい」
二人の騎士は素直に黙ったまま指示に従った。
「お前は前、お前は後ろを見張れ、このまま止まらずに次の街まで進むぞ」
「……」
「おい、返事しろ」
「はい」
「はい」
自分が馬車を操り、次のバタンの町を目指し走らせた。
少し時間がたち落ち着いてきたのか、馬車の中から話しかけてきた、
「先生、なぜ始めの襲撃の場所で退治しなかったのですか?」と、姫さまの質問。ちょっと声が硬い。
「言いたいことは分かるよ、なぜ騎士たちを助けなかったと思ってるのでしょ?」
「うん」
「前から剣を持った敵が来ました。後ろからも剣を持った敵が来ました。先生の魔法で勝てるでしょうか?」
「え、勝てないのですか?」
「ひとり倒してる間にもうひとりに切られてしまいます。だから背中に障害物、あそこは岩壁でしたね、が必要なんです。そうすれば後ろから斬られませんから」
「ああ、そうですか」姫さまの声から少し険しさが抜けた。
「なぜ繭を渡したのですか? あの繭はシャロフィートに必要なものじゃないのですか?」とシャーリー姫様に詰問された。
「敵の男は繭の個数も把握していました。彼に繭を渡したので彼の面目も立ちます。彼はこれ以上の死人を出してまで我々を再び襲うことはないでしょう」
「でもシャロフィートに必要なんでしょ?」
「私は必要ないと思ってます。まあ、他国の人間なので説得力はないですけど。シャロフィートの女王陛下の間違いですね。そしてあなたとあなたの母上の間違いでもある。あなたは自分の国の国状を知るべきだ。スペイフィートの国力、ロングフィートの国力、シャロフィートの国力を知り、歴史を知れば容易く間違いに気付けます。学院の勉強は良い点を取ることが目的ではありません。正しい行いをするための指標を見つけることだと思います。特に王族の方は」
二人の姫さまは黙り込んでしまった。
バタンの町に辿り着いた。
代官に話をしてサイトフィートのお偉方に知らせてもらった。早馬が出たみたいだ。二人の騎士のうち元気な方にシャロフィートに知らせるよう馬を走らさせた。二人の姫様が他国で襲われたのだから急いで知らせなければいけない。
この町の代官は魂消たでしょう。自分の管轄地で他国の王女様二人が襲われたのだから。
その日から一番上等の宿で全室借り上げ姫様二人を軟禁状態にしてシャロフィートから人が来るのを待っていた。
翌日、姫様お迎えの旅、六日目(帰路)、
「先生、少し外でお散歩したい」等と呑気なことを言う姫さま達と部屋にこもっていた。
「姫さま、魔法の練習しますか?」
「そうですね、暇だから練習しましょう」
「ごめんなさい、冗談でした」
「ええ、なんで?」
「今日一日なにもない訳がありません。サイトフィート、シャロフィートからお偉いさんが来ます。もしかしたらロングフィートからも来ます。暇な訳がないでしょ」
「ごめんなさい、そうです」
昼過ぎ、残りの馬車と騎士たちが到着した。
生き残った隊長は、
「姫さま後無事で、良かったです」と泣き崩れていた。まあ、可愛そうだから、もう虐めはしなかった。
スペイフィートの騎士や侍女たちも到着し、みんな喜んでいた。
シャロフィートは、御者四名、騎士七名、侍女一名、その他二名が亡くなり。スペイフィートは、御者三名、騎士四名、その他一名が亡くなった。この他寝返ったのがシャロフィート一名、スペイフィート四名。
次はサイトフィートの騎士隊長や宰相代理が到着し私が相手をした。取り敢えずならず者に襲われたで通した。姫様二人とシャロフィートとスペイフィートの人間に何も喋るなと命じた。姫様二人には余計なことは絶対喋らないで、喋ってよいのは怖かったとお礼の文言だけときつく命じた。他の人間は接触もさせず部屋から出ないように指示した。
夕刻、
国境の街からシャロフィートの騎士の一団が到着した。
「姫さまの家庭教師のシオンです。姫さまから一任を受け王都から責任者が来るまで私がこの場を取り仕切らせていただきます」と、宣言し、騎士を一行の部屋の前につかせた。
「わかっていると思いますが、部屋の人間の護衛ではありません。外部の人間と接触させないでください」と、国境騎士に告げた。
どうも自分の命令を聞きすぎると思ったら魔法で火だるまにした話が広がっているようだ。口止めできる時期を逸したので愕然としていると、ロングフィートのお偉方が到着した。
ロングフィートのお偉方は国境の町の領主だった。シャーリーズ姫様を連れて会談に臨んだ、
「現在の責任者のシオンです。ロングフィートの姫さまのためにもお力をお借りしたい」
「君は、シャロフィートの姫様の家庭教師じゃないのか?」
「そうです、姫様から一任を受けてます」取り敢えず言い切っておく。
「はい、シオン様に一任しました」良かった、しないなんて言われたら首が飛んじゃうからね。
「この件は、なるべく事を荒立てないで済ませます。我々はならず者の一味と遭遇して切り合いになり死者がでた、で済まそうと考えてます」
「そんな事できない。済ませられるわけがない」
「シャロフィートとスペイフィートは抑えてみせます。ロングフィートが協力していただければサイトフィートも抑えられます」
「なぜ、ロングフィートが協力しなければならんのだ?」
「原因はシャロフィートの女王陛下とスペイフィートの女王陛下の考え無しな行動が原因です。事が公になればスペイフィートの女王陛下の責任は免れなくなります。それは避けなければいけない、何としても。そうですよね?」
「なぜ、そんな事になったのだ?」
「ここでは言えません、王族か宰相を呼んでください。他の方には話せません。そうですよね姫様」
「はい、申し訳ありませんでした。お願いします」と、シャーリーズ姫様が頭を下げてくれた。
「分かりました、取り敢えず協力します。後のことは王都の指示を仰ぎます」
「シャーリーズ姫様、ジョー姫さま、これでなんとかなります」
「良いのですか? 襲撃犯は野放しになりますよね」とジョー姫さま。
「良いのです。荒立てたら最悪戦争になります。もっといっぱいの人が死にます。そんなことは誰も望みません」
「スペイフィート王国と母上は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫にします。スペイフィート王国には何もなかったことにしてもらいます。蚕の密輸もなかった。襲撃もなかった。これはシャロフィート王国から圧力をかけます。シャロフィートの王女を襲撃したのだから嫌とは言わせません。あなたの母上は自国の現状をもっと知ってもらいロングフィートから支援を出させる頑張りを見せてもらいたい。これで丸く収まると良いのですが」
「先生、最後に力が抜けていましたよ」
「うまくいくことを願ってます。姫さまも願ってください」
夜遅く、日にちが変わった頃、
「宰相、お風邪は大丈夫ですか?」
「それより何があったのだ、陛下はお怒りだし女王陛下は取り乱して何を言ってるのかわからん」
「シルクのお話覚えていますか?」
「女王もシルクがと言っていた」
「女王のご実家は古王国初期シルクの産地でした。先日の旅でその痕跡を見つけました」
「宰相はピンと来ないと思いますが、シルクは産業なんです。きちんと再現できればシャロフィート王国のコメより税収が多いと思います。そんな産業なんです。なぜこの国からシルクが失くなったかは、想像ですがこの領地が富みすぎるのでジョージ初代国王が取り上げたと思います。その代りに貧しいノックフィートとスペイフィートに与えた。それでシャロフィートとノックフィートとスペイフィートの国力が同じになると思ったのでしょう。現実は古王国が滅びノックフィートとスペイフィートにシルクは根付かず、二国は他より一段貧しい国になった。最近シルクが売れだしていると学院長が話してましたね」
「そんなときに女王陛下が四匹の赤ちゃんミャウを急遽スペイフィートの友人の女王陛下に贈る。誰でもわかっちゃいますね」
「それでか、自分が原因で娘が襲撃されたら女王も取り乱すか」
「この件は無かったことにします。我々は偶然盗賊の一味と遭遇して切り合いになったことにします。この件はシャロフィートとスペイフィートの女王陛下の考え無しな行動が原因です。シャロフィートがスペイフィートに圧力を掛けロングフィートが娘可愛さに無かった事にしてくれれば丸く収まります。収めましょう」
「ロングフィートが協力するか?」
「国境の街の領主に協力を要請しました。理由はお偉いさんが来てから話しますと伝えてあります。協力すると思います。これでシャロフィートとスペイフィートの恩が売れるのですから断る理由はありません」
「そうだな、ロングフィートを待つしかないな」
姫様お迎えの旅、七日目(帰路)、
我々はロングフィートとスペイフィートのお偉方を待つためここに留まることになった。
ジョー姫さまには女王陛下と国王陛下に手紙を書かせ、魔法の練習を再開させた。
「姫さま、魔法の練習再開してください。ファーラさん、そんなに落ち込まないで姫さまの練習の監督おねがいします」
姫様お迎えの旅、九日目(帰路)、
姫さまは練習、
正午近くにスペイフィートの宰相が訪れた。それから昼食も取らずシャーリーズ姫様、騎士、侍女から事情を聴取しているみたいだ。
夕方、宰相に会談が申し込まれた。宰相は食事と休憩が必要と判断し、夜の10時から会談が行われた。
「そちらは?」スペイフィートの宰相が訪ねた。
「これは、今回襲撃された中にいたひとりです」シャロフィートの宰相が答える。
「ジョセフィーヌ王女殿下の家庭教師をしていますシオンと申します」
「ああ、君か。この度は自国の者がご迷惑をお掛けいたし申し訳ない」
「いえ、我が国の女王がご迷惑をおかけしました」
「首謀者はすでに拘束しております。が何卒寛大な処置を」
「我々考えは決まっております。今回の件は我々の一行が盗賊と遭遇した不幸な事故です。誰にも責任はないただの事故です。貴国が誰かを罰するようなことがあれば我が国も女王を罰しなければならなくなる。そんな事態は避けて欲しい、あってはならないのです。ロングフィートにも今話しを通している最中です。近日中に回答がもらえると思います。よろしいかな、何もなかったということで」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「少しよろしいですか?」
うちの宰相は良さそうだ。
「シャーリーズ姫様のご遊学はこのまま続けていただきたい。宰相もそれでよろしいですね」
「ああ、そうしてください。王子が首を長くして待っています」
「分かりました。国王も女王も安心すると思います」
「もうひとつ、シャーリーズ姫様に女王陛下からお手紙をいただきたい。国内は諍いは収まり前のように平穏になりましたと。真実を書いてください。姫様を安心させるためにも」
「承りました」
姫様お迎えの旅、十日目(帰路)、
「姫さま、もう少し身を入れて練習してください」
「でもシャルルに会いたいです」
「そうですね、だいぶミャウから遠ざかってますね」
「そうでしょ、そうでしょ」
「姫さま、練習を再開してください。シオンさんも邪魔しないでください」
「ごめんなさい、静かに見ています」
「シオン様、ロングフィートから一行が見えたみたいです」
「分かりました、すぐに行きます」
すぐ宰相のもとに向かった。
「宰相、ロングフィートから人が見えたそうですが」
「侯爵がお越しだ。なんでそんな大物が来るんだ?」
「お忙しいところ、お越しになりありがとうございます。シャロフィートの宰相のネイル・シラノ伯爵です。こちらは襲撃に居合わせたシオンです」
「ロングフィート王国 イノセント・チャーベス侯爵です。早速ですが、なぜ我々が協力しなければいけないのかな?」
「今回の騒動の原因が当方の女王がスペイフィートの女王に国外持ち出し禁止の品を持ち出させたことが原因です。当方の女王とスペイフィートの女王の責任を、いや騒動自体をなかったコトにしたいと考えています。ロングフィートの姫様の為にも、ここはご協力して頂きたい」
「その品とは?」
「蚕の繭です」
「分かりました、ご協力いたします。国王陛下も当然賛成してくださるでしょう」
「ありがとうございます」
「そこの君、君が王女殿下の家庭教師かな?」
「はい、ジョセフィーヌ王女殿下の魔法の家庭教師をさせて頂いています」
「君は不思議な炎の魔法を使うそうだね」
「はい、少々魔法が得意ですので」
「昔、ある国に何種類もの炎の魔法を使う王子様が居たそうだよ」
「そうですか、炎の魔法は使い手が沢山いますよ」
「確かその王子は空を飛べたと噂が流れました」
「そうですか、貴国も空を飛ぶ魔法のために赤い鉱石をお探したみたいですね」
「話を戻そう、君はいつまで家庭教師を続けるのかね?」
「予定では夏休みまでです」
「その後、うちに来ないかね?」
「何方ですか?」
「ん? 王都だが」
「? お子さんは王都にいらっしゃるのですか?」
「ははは、失礼。家庭教師ではなく、ロングフィートの王立学院の教師に来て欲しい」
「それは、ありがとうございます。私も説明が不十分ですね。私はロクスフィートの王立学院の正式な教師です。今は長期休暇中で縁あって王女殿下の家庭教師を短期で受けさせ頂いています。夏休みに戻り、来季からはロクスフィートで授業を行います」
「そうか、君がロクスフィートの魔法の先生か。噂は色々聞いているよ。それなら、なお君に来て欲しいな」
「申し訳ありません。またの機会がありましたら」
「そうだね、近い内にまた会おう」
「はい、できましたら」