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八話 襲撃の予感

 離宮の一室で姫さまの魔法の練習を見ながら、


 ミャウの洞窟から帰還して三日目、練習を再開して二日目、予定が狂ったが今日姫さまの魔法レベル(同時発動)が上がるはずだ。だけどもし上がらなかったらと考えると胃が痛くなってくる。当の姫さまは何も知らず、いつもと変わらず魔法の練習を続けている。


「シオンさん、お顔をがすぐれませんが体調がお悪いのでしょうか? 大丈夫ですか?」とファーラ(姫さまの侍女)に訊ねられた。


 しかし、姫さまの魔法が上達具合を心配してるなど言えないので、

「いいえ、何でもありません。気のせいです』と誤魔化すしかなかった。


 今の自分は姫さまの練習方法に不備があったとか、船中の練習で集中力が欠けたのではないかなど碌な事を考えていなかった。


「そうですか? 最近城下で病気が流行っていると聞きます。気を付けてくださいね」


「はいありがとうございます」



 もう諦めかけた4時過ぎ、

「きゃーっ、できた、できた、できた」と姫さまの絶叫が轟いた。


 あまりにもホッとしたのでその場に座り込んでしまった。


「先生、何座っているのですか? できました。できたんですよ。喜んでください!」と何時もの倍くらいの音量で話しかけてくる。


 座り込んだまま、

「おめでとう。良かった。良かった。ホッとしたよ」


「何故ホッとするんですか? 変な先生? ファーラ、母様は何処にいるか聞いてきて、すぐ知らせに行かなきゃ。先生、今日は終わりですよね、皆に知らせに回らないと」

 姫さまは言いたいことを言うと風のように去ってしまった。



 今日は一日中、姫さまの練習を見ていた。姫さまはさぼらず真面目に練習を行っていた。なのに姫さまは練習時間が七時間を過ぎて同時魔法を習得した。僕は姫さまの練習の要領の悪さに愕然としていた。今まで何人もの生徒を見てきて最終日(18日目)の練習時間で1日の練習時間を決めてきた。早い者は6時間少々、遅い者も6時間30分程度だった。だから余裕を大きくとって8時間にしていた。それが姫さまは7時間を超えてしまったのだ。これは練習で気が緩むと1日の練習時間が足りなくなると危惧しなくてはいけない。これは今後の生徒は練習時間を8時間30分間にする必要がある。


 姫さまは苦労が報われて嬉しさいっぱいだ。女王陛下や国王陛下、その他の沢山の人に報告して回っていた。しかし周りの反応が芳しくないことに徐々に気が付いている。


「先生、私魔法が上達したんですよね?」


「そうですよ、でも皆の反応が薄いことに気が付きましたか?」


「はい、お兄さまからはっきり言われました。両手で魔法が使えたら何か変わるのかと?」


「変わりますよ、劇的に。しかし2つ同時ではあまり変わらないのです。3つ目からは世界が変わります。私を信じて続けてください。できますか?」


「本当に変わりますか? 信じても良いのですか?」


「大丈夫です。ちょっと不謹慎かもしれませんが私のモコモコのミャウをかけても大丈夫です。それくらい自身があります。モコモコのミャウですよ」


「ふふふ、それなら大丈夫そうですね」


「そうです、大船に乗ったつもりで練習を続けてください」


「はい」



 同時魔法の習得の翌日は休みにするつもりだった。しかし今日からまた頑張ると言って三重の魔法の練習を開始した。


「姫さま、練習は昨日までと大して変わりません。昨日までは左手に塩の玉をひとつ作り、右手でもう一つ作る練習でした。今日からは左手の手のひらに二個の塩の玉を作り、右手の手のひらに塩の玉を作る練習です。取りあえず私が見本を見せます」


 私は左手に塩の玉を二個作り右手に塩の玉を一個作った。

「同じでしょ、同じようにやって下さい。焦らないで、三重の魔法習得も同じくらい時間が掛かります気長に練習しましょう。では、初めて」


 姫さまは真剣な顔で左手をにらみながら、塩の玉を容易く二個作りだした。途端に姫さまの顔から緊張が抜けていった。周りの侍女も皆拍子抜けしたみたいにホッとした表情をしていた。


「姫さま、片手に二個玉を作るのが練習じゃありません。練習はもう片方の手に玉を作ることが練習です。頑張ってください」


「はい、頑張ります」と普段通りの姫さまがそこにいた」



 一週間後、


「ファーラさん、姫さまはどうされたのですか? 目に下にクマができていますよ」


「寝不足です。昨日、お爺様さまから生後一か月のミャウが八匹も届いたのです。遅くまでミャウと一緒に遊んで、子ミャウが寝てからは寝顔をずっと眺めていました。朝も早くから子ミャウの朝ご飯を見に行っていたみたいです」


「大丈夫ですか? 倒れそうですよ」


「大丈夫でしょう。練習させましょう。今日お休みにしても子ミャウのところに行くだけなので何も解決しないと思います」


「そうですね。練習を始めましょう」


 姫さまは眠そうな顔をしながら練習を開始した。


「ファーラさん、何で伯爵は子ミャウを姫さまに送ってきたのですか? 手に余りませんか?」


「いいえ、女王陛下に送られてきたのです。姫さまは関係ありません」


「ああ、そうですか。でも女王陛下のところはミャウ一杯いますよね」


「贈り物にされるみたいです。なぜか内緒にしているみたいですけど」


「それを話しても良いのですか?」


「それも良く分からないのです。何が内緒なのか? なんで内緒なのか? おおやけには何もお達しは出ていないのです。狐につままれたような気分です」


「でも、一度に何匹もの子ミャウを贈り物とするならお相手は偉い方でしょう」


「そうなんです。雰囲気は隣国のサイトフィートにミャウを送られたときみたいです。しかし今はそんな相手はいませんから余計わからないのです」


「まあ、気にしてもしょうがないですね。姫さまは子ども扱いすると怒るのに、ミャウが絡むとお子様ですよね」


「シオンさん、姫さまに聞こえます。また姫さまの機嫌が悪くなるので控えてください」


「はい、すみません」



 子ミャウが来てから、姫さまは子ミャウの部屋と魔法の練習をしている離宮の往復だけで生活でしている。私は魔法の練習をしている離宮と自分の部屋の在る離宮の往復だけで、自室では伯爵から届いた古代語の本を読んで過ごしている。そんな僕等以外の世間では夏風邪が流行していた。


 数日後の朝、離宮の練習部屋で待っていると、

「シオン様、姫さまは国王陛下に呼ばれておりますので少々練習に遅れると申しております」と、侍女が告げてきた。


「はい、大丈夫です。ここでお待ちします」と告げ、お茶を頂いていた。



 姫さまは到着すると開口一番、

「私、お兄さまのフィアンセの方をお迎えにロングフィートの国境まで行くことになりました」


「あ~、またスケジュールが」


「大丈夫です。往復の馬車の中で練習しますから」


「はい……、何で姫さまが行くのですか?」


「お兄さまと、お母様が風邪で体調が悪いからです。私も知らなかったのですが王宮や城下町で夏風邪が流行っているみたいです。それで元気な私が行くことになりました」


「ああ、なるほど。王子さまは結婚なさるのですか?」


「いいえ、お姫様は私のいっこ上でまだ学生だからご結婚は再来年の予定です」


「でも、御結婚前の姫様が遊びに来るのは珍しいですよね?」


「そうですね、でも去年の夏休みにお兄さまが遊びに行って誘ったみたいですよ」


「あ~、お熱いことですね」


「本当に、ふふふ」


「で、何時出発ですか?」


「明後日です」


「それは急ですね」


「昨日まではお母様が行く予定でしたから。それが今朝熱が出て急遽私に変更です」


「それは、何と言ってよいか。女王陛下にお大事にと伝えてください」


「それからお父様からの伝言です。私と先生は風邪を引かないように今日、明日は外に出てはいけないと命じられました」


「宰相からでなく国王陛下からですか?」


「宰相も寝込んでいるみたいです」


「分かりました、大人しくしています。それでは大人しく魔法の練習をしましょう」


「はい、始めます」



 姫様お迎えの旅、初日、


「シオンさん、行きの道中は姫さまの魔法の練習は無理だと思います」


「そうですね。きれいに練習のこと忘れてますね」


 馬車の中には大きなバスケットが置かれ四匹の子ミャウが「ミャウ、ミャウ」と鳴いていた。この四匹の子ミャウはフィアンセのご実家への贈り物らしい。こんな状態で同じ馬車に乗っている姫さまが練習などできるはずがない。


「帰りは子ミャウがいなくなりますから」とファーラさんがフォローしてくれる。


 自分も諦めて可愛い子ミャウの相手をしていた。


 寝ている子ミャウを膝の上に乗せている姫さまに、

「姫さまの兄上のフィアンセはどちらの国の方なのですか?」


「あれ、言っていませんでした? スペイフィートの第二王女様ですよ」


「え、スペイフィートですか?」

 スペイフィートの名前を聞いた途端悪い予感が走った。シルクの話をしていた時、女王陛下はニコニコしていた。そのスペイフィート(シルクの生産国)の王家に子ミャウを四匹も進呈する。


「姫さま、女王陛下はスペイフィートの王家の方と親しいのですか?」


「はい、スペイフィートの女王陛下はロングフィートのお姫さまで、お母様がロングフィートの王立学院に留学している時に親しくして頂いたそうです。その縁でお兄さまとスペイフィートのお姫様の縁談が決まったそうです」


 状況証拠、真っ黒じゃないか! 女王陛下は不正な手段で蚕を入手しようとしていないか? もしそうならこの道中は危険極まりないぞ!


「姫さま、女王陛下から何か聞いていませんか?」


「いいえ、何も聞いていませんよ」


 俺はこの道中を頭の中で検証し始めた。

 スペイフィートの姫さまだスペイフィート領内で問題は起こせないだろう。起こせばすぐに露見するし首謀者も判明しやすい。ロングフィートの姫さまの娘にロングフィート領内では問題は起こせまい、ロングフィートは唯一の大国だロングフィートを敵に回すことはないだろう。

 もちろんシャロフィート領内で問題を起こせるとも思わない、王都から国境までの距離も短いからまず無理だ。そうなれば事を起こすとしたらサイトフィートの国内で起こすのが一番合理的だ。

 蚕の密輸阻止ですませるのか? スペイフィートとシャロフィートの国交まで潰すのか? どちらだ? 国交を潰す気ならスペイフィートの姫様の危険を避けて行きの道中で事を起こすだろう。

 もう一つスペイフィートだけなのかノックフィートが絡んでくるかによっても変わる。

 *ロングフィートは立ち行かなくなった大公家を併合したので唯一の他の国の二倍の国力を持つ大国。


「ファーラさん、少しよろしいですか」


「はい」と、言って馬車の隅に向かった。

 その場にいた侍女に姫様の元に行ってもらった。姫さまはミャウに夢中で全然気がついていない。


「なんでしょう?」


「護衛騎士の隊長を紹介してください。今すぐに」


「今すぐにですか? 隊長は馬に乗っていますよ」


「今すぐ話し合いがしたい。誰か馬を貸してもらい馬上で話しをします。段取りを至急付けてください」


「はい、わかりました。少しお待ちを」と言って御者台の方に向かった。



 しばらくすると馬車が止まり一人の騎士が馬車に乗り込み、

「あれが私の馬です。どうぞお使いください」


「ありがとう」



「あなたがこの一行の隊長ですか?」


「そうです。もう少しで国境なので手短にお願いします」


「もう少し皆から離れてくれませんか?」


 少し離れて、

「どうぞ」


「単刀直入に言います。我々は襲われる可能性が高い」


「まさか、何を言ってるのですか?」


「女王陛下が危険な橋を渡ってしまった。サイトフィート国内で襲われると思います」


「そんなことはありえない。馬車四台に護衛騎士が四人乗車、馬上の騎士が十人の十四人の騎士がついているんですよ」


「そんなことはない、襲う気になればそれ以上の人を集めれば済みます。何も難しいことはない」


「王国の騎士を襲うなど聞いたことがない!」


「相手も騎士か兵士か傭兵ですよ、国境で護衛の増強ができませんか?」


「できない。国境警備の騎士と護衛騎士は所属が違う。配置換えできるのは国王陛下だけだ」

「大体根拠は何だ?」


「女王陛下がミャウを四匹贈り見返りに密輸を企てている」


「貴様、不敬だぞ。姫様の家庭教師じゃなければ叩き切るぞ」


「ああ、分かった、分かった。そんなことより兵力を増強する方法はないか?」


「貴様、何を言っている。そんな方法は無い。この話は終わりだ」



 隊長とは物別れに終わった。まあ、初めから無理だと思っていた。しかしこれで少しは注意するだろう。馬車に戻って女王陛下に襲撃の恐れがあることを手紙で知らせることにした。国境の町で依頼をしよう、今日中に女王陛下の手元に手紙が届くことを祈って。


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