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その鍵の番号、覚えていますか?

作者: 虹野雨中

「鍵の番号はどうしますか?」

 昔、自転車屋に鍵を買いに行った時に店員に聞かれて困ったことがある。

 私は基本的に物忘れが激しい方なのでパスワードの単語や番号は、ある程度共通のものを使用している。それなので、とっさに4桁の数字の暗証番号を聞かれても、即座に返事をすることができる。

 しかし、この時の私は戸惑いに戸惑った。と言うのも、その鍵はサドルの盗難防止につけるいわば保険のようなもの、小さな錠は3桁分しかダイヤルが取り付けられていないのである。そうすると途端に困ったのが若年性健忘症もかくやという私である。自転車のパーツにこだわりなど持たない私が、なんの用事もなくサドルを取り外すなんて機会に頻繁に巡り合うビジョンが見えるはずもなく、なにか必要に迫られるまでその鍵の存在そのものを忘れるであろう私に暗証番号を決めろというのだ。この時私は、できるだけ忘れないように簡単な数字の組み合わせを店員に告げた。

 さて、なぜ急にそんな話になったのかといえば、案の定といえば案の定。必要に迫られた今、当の簡単な数字の組み合わせが思い出せずに困っている私がここに鎮座ましましているからである。

 自転車を購入して幾星霜。通学はもとより、せっかくのスポーツ車ということで普段は屋根の下から頑として動かない私がサイクリングに興じることも増えた。何かに打ち込み始めれば、それらに関する身の回りの環境を整えたいと思うのが人心。自転車のパーツとやらにも興味が出てきたのだ。

 備え付けられていたサドルに大きな不満は無かったが、漕ぎ方が悪いのかポジションが悪いのか、どうにも下着がよく破れる。擦れたように薄くなった生地が八の字に避けてしまうのだ。原因がサドルにあるのかは定かでないが、出不精の私は自転車に乗っている時以外は地蔵の如く静止していると言って過言でないので要因が他に浮かばない。しかし自ら至らぬ点に目を背けて道具のせいと言い切るのも恥ずかしく放置してきたが、流石に下着を買い換える資金も馬鹿にならなくなってきたので遂に交換を決意したのだ。

 さて、話は自転車の錠を目の前にして唸る男へと戻る。いざ3桁の数字となると意外と難しい。3桁というのがまた困る、まだ4桁の方がいくらか候補も浮かぶというものである。生年月日一つをとっても西暦やら日付やらで覚えやすい組み合わせも多い。しかし、3桁というのがこうも難しいとはいざ番号を聞かれた時には悩んだものである。悩んだまでははっきりとおぼえているのだが、その先が浮かばない。一体私が考えた簡単な数字の組み合わせとは何だったのであろうか。私は、その答えでなくペンチを探しにその場を去った。


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