表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こうしてボクは今に至る  作者: 朱本来未
【6】『現実は夢を騙りて』
40/41

◇無力なボク

ボクは学校へ行くことになるまでの間に、アスタの事をどうにかしようと思っていた。しかし、ふたりの話から彼女が青峰第二に通っているのだと知って方針を変えた。今でもアスタは術後経過を診てもらうために病院へ来るらしい。その際に、ここも訪れるのだという。だったらとボクは彼女たちにも手を貸してもらうことにした。


手を借りる段になって、ユカちゃんさんを何と呼べばいいか困った。彼女は普段から初対面で誰とでもフレンドリーに話す所為か、名を名乗らずに済ませてしまうことが多いらしい。海部さんに指摘されて、「そういえばそだね。あたしは七咲紫ってんだ~」といった感じでおざなりに名乗ったくらいだ。この様子だとアスタにも名乗っていないのかもしれない。それを指摘してみると、案の定そうだったらしく「次、来たとき名乗るよ」と言っていた。


ふたりの協力を得たものの、それからボクが青峰第二へと転入をする日を迎えても彼女が病院へと顔を出すことはなかった。そうして転入したボクに割り振られたのは、幸いなことにアスタと同じクラスだった。アスタは長く綺麗な髪をバッサリと切り落としていたので、初見時は気付かなかった。驚きはあったものの、この時ばかりは表情が変わらないことに感謝をした。そして髪を切ってしまった理由が、自分にあるのだと悟った。


ボク以外も含めてないものとして振る舞うアスタを目にして、迂闊に近付いたところで拒絶されてしまうことは明白だった。だからボクは事情も何も知らぬ第三者を演じるために記憶喪失を装うことにした。海部さんから聞いた祖母の話の中に出てきたボクの描写はそう取られてもおかしくはないような表現だったから問題無いと思った。実際のところは、アスタはボクに見向きもしていなかったので意味があったのか怪しいところだった。


転入して数日、周囲の人達がアスタを敬遠しているわけではないのだと透けて見えた。


かといって、すぐにアクションを起こすことはできなかった。現状でボクの歪な立ち振舞では、クラスに溶け込むことすら困難でどうにもならなかったのだ。


次第に孤立していくボクに手を差し伸べたのは、普段アスタが行動を共にしている唯一の人物である宮野月詩だった。転入から既に二ヶ月余りが経過し、打つ手のなくなっていたボクは、彼女の手を借りることにした。彼女からアスタへと伝わってしまう可能性もあったが、躊躇っていられるほどの余裕はもうなかった。


ボクは事情の一切合財を宮野に打ち明けると、彼女は渋い顔をした。何となく感じたことだが、彼女はアスタとの関係の中にボクという異物を紛れ込ませたくないようだった。おそらく善意でボクに手を差し伸べたのだろうが、ボクがアスタと繋がりがあったとは思ってもみなかったのだろう。それを理解していながらボクは彼女の善意に付け込んだ。


今更引き下がることもできなかった彼女は、協力することを承諾してくれた。


余り無理なことをお願いするわけにもいかなかったので、彼女にはアスタに噂という体で話をしてもらうだけに留めた。いつそれを話してもらうかは彼女に任せた。その頃にはもう、夏休みが間近に迫っていた。


クラスメイトの協力も仰ぎたかったが、そちらはアスタ自身の問題が解決すればどうにでもなるだろうと後に回すことにした。そうして迎えた夏休み最後の週末、アスタと同じバスに乗り合わせたらしい七咲さんから、彼女が病院に来ているとのメッセージを貰った。校外で彼女と顔を合わせられる機会を逃すわけにはいかなかった。急いで身支度をし、病院へと向かった。


ボクはバスの時刻表を確認し、もう間に合わないかもしれないと諦めかけた。病院まで行くバスが一時間後にしかなかったのだ。半ば諦めかけながら、病院坂下まで行くバスへと乗った。その路線で一番病院に最寄りのバス停で降りた。ここから病院までは2km近い坂道が続いていた。交通手段がない以上、ボクは徒歩で病院を目指した。


日差しは暑く、じりじりと肌を炙る。まともに言うことを聞かない身体はどうしようもないくらいに役立たずだった。あと少し、あと少しと自分に言い聞かせながらも足を進めた。坂の半ばまで来たところで、再び七咲さんからメッセージが届いた。内容は「彼女、歩いて帰ったよ」というものだった。


病院には間に合わなかったけれど、運はボクに味方をしたらしい。さすがに限界を感じていたボクは、木陰に入ってアスタが通りかかるのを待った。待つ間、ボクは彼女に何を言うべきか考えを巡らせた。その結果として、妙な謎掛けとなってしまった。素通りされてしまうかとも思ったが、アスタは立ち止まって応じてくれた。ただボクを顔見知り程度のクラスメイトといった感じで扱った。


拒絶されないのだとわかっただけでも、十分な成果だった。ボクはアスタを見送ることなく、距離感を維持するために彼女とは逆へ足を進めた。そして夏休み中、どう動くか計画を練りながら病院を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ