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こうしてボクは今に至る  作者: 朱本来未
【6】『現実は夢を騙りて』
37/41

◆私達の傷痕

棄てて 拾って 嘘吐き 重ね

こうして ボクは 現在に至る

自分がバカな行いばかりをしていたのだと思い知らされ、頭を抱えたくなった。頭を左右に振ってそれを払い、ちょっと気になることがあったので天野に尋ねた。


「なぁ、何で私が藤岬にいるってわかったんだ」


天野は本当にわからないのかとでも言いたげに、肩を竦めた。


「何を今更、アスタがお盆に藤岬に行くのはいつものことじゃないか。毎年、私と顔合わせてただろ」


「あんな事があった後なんだ、今年の夏は行くとは限らなかっただろ」


焦らしているわけではないのは理解しているものの、彼女が応答をするために必要とする間は私をやきもきさせた。


「簡単な話だよ、アスタが藤岬に向かってるという話を聞いたからだよ」


「結城か?」


「ねこもそのひとりだけど、他にもアスタは誰か顔見知りと会ってるんじゃないか」


そう言われたものの、私が藤岬に行くことを話したのは結城くらいしか思い当たらなかった。


「結城以外には話してないぞ」


「藤岬に行くこと自体は話してないだろうけど、その道すがら会ってるよ」


天野と共通の知り合いに会った覚えはなく、私は首を捻るばかりだった。何かと私に答えを導き出させようとする天野だが、お手上げだと示すと「紫さんだよ」と今回はやけにあっさり答えを教えてくれた。


意外な人物に「キャロットハウスの?」と聞き返すと彼女はこくりと頷いた。よくよく考えてみれば、天野も青峰ヶ丘病院に入院していたのだから別に七崎さんと顔見知りでも不思議ではなかった。


七崎さんが私と天野に接点があるのだと知る程度には、彼女に私の事について話していたのだろう。


「なんなら彼女もここに呼ぶかい?」


少なからず誘惑に駆られたもののすぐに首を横に振って「今回は遠慮しておくよ」と言った。


天野は「そうかい」とだけ言って、この話題を終わらせた。本題である重要案件は済んでしまった私たちは、特にやることもなくふたり並んでソファに腰掛けてテレビを見ていた。見ていたバラエティ番組が終わり、ニュースへと切り替わる。始まって最初に報じられた内容は、私たちにとって少なからず関係のある事件だった。


名門女学校に通う多数の生徒たちに自殺を唆した女が逮捕されたとの報道。ぱっと画面に映し出された校門前の映像にはモザイクこそかけられていたが、晴桜で間違いなかった。思わず私は隣に座る天野と顔を見合わせた。結城のあれは狂言だとわかっていたが、彼女がこの事実を知ったらどうするだろうかと少し心配になった。


それを察したように天野は「心配ないさ、ねこはバカげたことをしたりはしないよ」と言った。


たった二度しか顔を合わせていない結城に関して私にはわからないものが、長年付き合ってきた彼女にはわかるのだろう。彼女の言葉を信じ、私は胸を撫で下ろした。そんな私へ、気分転換でも促すように天野は「お風呂にでも入ってきたらどうだい」と薦めた。気遣いを素直に受け入れ、風呂へと向かった。


着ていた衣類をぽんぽんと脱いだ側から洗濯機へと放り込む。今日はもう誰の洗濯物も出ないし、と洗濯機を回す。ぐおんぐおんとうるさい洗濯機の動作音に苛まれながら、洗面台の鏡に写る肩の火傷痕をじっと見つめる。この火傷を負う原因となった天野は、ひとつ屋根の下にいる。しかし、心がざわつくようなことはなかった。


ふーっと息を吐き、浴室へ。いつも通りに烏の行水を済ませ、脱衣所に戻ってから手痛い失敗に気付いた。天野とのわだかまりが、ある程度解消されていたことで変に心が緩んで日常的な習慣が出てしまっていた。普段、この時間はひと目を気にする必要がないからと上着を羽織ることもなく下着姿で過ごすことが殆どなのだ。しかも今はよりにもよって天野が滞在している。天野に対する拒絶感は薄れたものの、彼女が原因で残ってしまったこの傷痕を見られてしまうのはどうしても避けたかった。


かと言って、洗濯機に放り込んだ衣類を再び羽織ろうにも洗濯中でどうにもならない。困り果てた私はバスタオルを肩に羽織って脱衣所から出て、着替えを取りにすぐさま自分の部屋を目指した。


部屋の前へとたどり着き、シャツを羽織るのに邪魔になってしまうバスタオルを手元に巻き取って扉を勢い込んで開く。すると、どういうわけか思いがけず天野と顔を合わせることとなった。何で! と思うよりも先に私は手元に丸めていたバスタオルで肩と首周りを隠した。


だが、既に手遅れだった。目の前に立つ彼女に、ばっちりと火傷痕を見られてしまっていた。想定外の出来事に混乱して硬直する私へと彼女は近付く。表情の変わらない彼女の顔からは、感情を読み取ることが出来ない。


どう対応するのが正しいのかと視線を泳がせながら模索するが、何の対処法も浮かばなかった。天野の小刻みに震える手は、ゆっくりと私の右肩へと伸びる。思わず私は、ぎゅっと目を閉ざした。


天野は私の火傷痕を愛おしげに優しく触れた。そして私の胸元へと頭を預け、そっと「ありがとう」と囁いた。

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