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こうしてボクは今に至る  作者: 朱本来未
【5】『教室は逃げ出した』
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◆出会と再会

知って 忘れて 独りで 逃げて

それでも ボクは 夢をみている

結城と別れ、私はその足で待ち合わせ場所である灯台の元へと向かった。


防波堤にはぽつぽつとだが、釣り竿を海へと垂らす人が少なからずいた。その後ろを素通りし、灯台のそびえる防波堤の端にまで歩みを進める。


たどり着いたそこは海風が強く、まともに音が聞き取れないほどに風がうるさい。私は話ができる程度には静かなところを求めて移動する。そうして灯台で風を遮るような位置取りをし、そこに背を預けた。


そこは海岸線の方を見渡すには都合が悪く、待ち合わせの相手がすぐ側に来るまで気付きそうもない場所だった。それはもう仕方がないと諦め、ぼんやりと早回しで流れていく夏雲を目で追った。最悪、待ちぼうけすることになるかもしれないが、祖父母の家にいるよりはマシだ。


時間を確認しようとスマホをチェックする。祖父母の家を出てから、かれこれ2時間経過していた。時刻は13時37分。約束の時間まであと20分程の余裕があった。


立っていることに疲れを感じ、灯台に背を預けたままずるずると地べたへと腰を下ろす。そして待っている間、何もすることのなかった私は空を仰いで今回の一連の出来事の発端となった人物のことを思い返していた。


彼女が初めて私の前に姿を現したのは、約三ヶ月前の若葉が色を深める季節だった。


5月という半端な時期に転入してきた彼女の名は『天野唯理』と言った。


名門校と名高い晴桜からの転入生ということで、天野は爪弾きにされてしまった私と月詩よりも浮いた存在だった。


ただ原因はそれだけではなかった。


話しかけられても、長いこと考え込み話題に対してワンテンポ遅れて回答するような具合で、会話が成立する者は少なかったのだ。


それは授業でも同じで、教師に解答を求められると長考してなかなか口を開こうとしないのだ。


晴桜からの転入生だということは知れ渡っていたので、授業を参加することを拒んでいると教師には認識されていた。


舐められていると感じた一人の教師は、彼女に対して執拗なまでに固執して晒し者にでもするように毎度のように席を立たせていた。


そんな天野だったが、いざテストになると全ての筆記試験において上位を獲得していた。


それが教師のコンプレックスに火を付けてしまい、公然であるにもかかわらず、教師は授業の度に彼女を罵倒した。


だけど、そんな日々は長くは続かなかった。


教師として品性に欠ける行為が、保護者からの苦情という形で学校側に言い渡されたのだ。


厳重注意を受けたその教師は、理性を手放して暴力行為に訴えてしまい免職へと追い込まれてしまった。


成り行きが成り行きだけに、彼女が逆恨みされるのではとの懸念はあったが、彼女の知人が手を回したのか何事も起こることはなかった。


そんな経緯もあり、彼女は周囲の人間からさらに敬遠されることとなった。


私もまた彼女を敬遠する人間の中のひとりだった。


なのに私は現在進行形で、彼女の招いた厄介事に巻き込まれていた。


結城の件などは、その最たるものだった。


天野は何の狙いがあって私と結城を引き合わせたのだろうと考えてみるものの、私には何の答えも導き出すことはできなかった。


そんなことを思い返しているうちに、時間はあっという間に過ぎ去っていた。


再度スマホで時間を確認すると、既に14時を回っていた。


私の勘は外れ、結城は来ないまま待ちぼうけかもしれないと思いつつも腰を上げる気にはならなかった。


目を閉じ、吹きすさぶ風の音に耳を傾けた。


その風の音に混じって「待たせたな」とかすれた声が聞こえた。


ゆっくりとまぶたを押し上げると、目の前にはつば広の帽子とワンピースを身にまとった白ずくめの少女が立っていた。


彼女は風で帽子が飛ばぬように片手でしっかりと抑え、もう片方の手でばさばさと煽られるワンピースの裾を抑えていた。


あまりにも居心地の悪そうな彼女に向けて「場所、移すか」と進言すると、こくりと小さな頷きが返ってきた。


私は彼女と連れ立って、防波堤を離れた。


海岸線にまで戻っても、まだ海風の影響は強く、落ち着いて話せるような状態ではなかった。


どこか話すのに都合のいい場所はないかと思索を巡らしていると、彼女が「こっちだ」と私の手を引いた。


そうして彼女に手を引かれてたどり着いた先は、結城と予想外の遭遇を果たした場所だった。


萎れた花の生けられた水差しの横を通り過ぎ、私たちは山道を通って雑木林へと踏み込んでいった。


確かにここなら雑木林が防風林となって風の影響はほとんどない。しかし、いい気はしなかった。


この道の先にあるのは私と同世代の少女たちが命を捨てた場所なのだ、落ち着けるはずもない。


なのにもかかわらず目の前の彼女は、躊躇うことなく足を進めていく。


嫌な気配を感じながら歩む長いようで短い時間が終わり、私は噂の原点となった場所に立っていた。


「どういうつもりなんだ、天野」


問いかけるものの、天野はこちらに背を向けたまま答えようとはしない。


焦れた私は彼女の肩に手をかけた。すると彼女はようやくこちらを振り向いた。


「アスタ、質問の答えはわかったかい?」


いつも通りの無表情で、天野はそう言った。

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