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こうしてボクは今に至る  作者: 朱本来未
【4b】『延命する虚偽』
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◆無言の拒絶

「それで、本当は何が知りたくてアタシに会いに来たの?」


『結城桜子』について暴露したことで、結城は不快感を隠すことをやめ、露骨に顔をしかめた。


「親戚の家を抜け出したかったのは本当だよ。まぁ、他に要件があったことは否定しないけどさ」


「もうさ、そういう前置きはなしにしない?イライラするだけだしね」


「それもそうだね。で、他の要件ってのはわかってるとは思うけど天野のことだよ。結城は、あいつの茶番に手を貸してるのか?」


そう言うと結城は心当たりがないのか、眉根を寄せて首を傾げた。


「茶番ってどういう意味?」


「例のカード、あれって結城が天野に貸したものなんじゃないのか?天野は図書室で偶然見つけたように装ってたけど。あれ、実際は私に本を取らせてそこに挟まってるように見せかけただけっぽいんだよね」


「それはない、と断言してもいい。アタシはあのとき初めて妹宛のあのメッセージカードを目にしたからね。それに唯理は、妹と親しかったからね。あのカードを手にするとしたら、そっち経由でだろうね」


と言ったあたりで彼女は、手の甲が白くなるほどに強くぎゅっと拳を握った。そして「何でアタシじゃなく、唯里だったんだ」と小声で吐き捨てた。


「そもそも何で、結城の妹が例のカードを受け取ってるんだ。結城と同じで新入組ってわけじゃないんだろ」


言った瞬間、結城は苛立たしげに私を睨んだ。


「アタシのことを結城って呼ぶのやめろって以前言わなかったか」


結城と顔を合わせるのは今日で二度目。大して親しいわけでもなく、話の内容が内容だけに愛称で呼ぶのは控えたのだが、却って彼女を煽る結果になってしまっていた。それでもやはり愛称で呼ぶべき状況ではないと判断し、「悪い、茜子」と名を呼び捨てにすることにした。


彼女はしかめっ面でふんっと鼻を鳴らし、どうにかそれで妥協してくれた。


「あの子は在来組じゃないわよ。新入組ってわけでもないけどね。幼稚舎の入学試験時に水疱瘡になって、試験受けられなかったしね。あの子が改めて入学試験を受けたのは中等部へ上がる時よ」


深く押し込めていた記憶を掘り起こすように、彼女は途切れ途切れながらもゆっくりと妹の桜子について語りだした。それを私はじっと口を閉ざして耳を傾け続けた。


「妹はアタシなんかより余程優秀だった。元に中等部への入学試験なんて簡単にパスしてたからね。それでも両親は、妹に一度張った出来損ないのレッテルを剥がすことはなかったわ。それはあの子が亡くなったときの対応でハッキリとしたわ」


ぎりっと歯噛みし、彼女は忌々しげに空を睨みつけた。


「さっきアタシがした噂を黙認してるって話、あながち妄想って訳じゃないよ。実例を間近で見たからね。内々に行われた妹の葬儀の段取りはほとんど私がやったわ。両親は何もしようとはせず。人目のあるところでは取り繕っていたけど、妹の亡骸に向かって罵倒を浴びせかけ、一切手を触れようともしなかった。葬儀後は、妹の私物を執拗なまでに焼却処分して、存在そのものをなかったことにしようと必死だった。だから、出来損ないと見限った妹は人生における汚点でしかないとでも言いたげにね。とても人の親とは思えないほどの醜悪さに吐き気がしたわ。あの人達にとって子供は単なるステイタスのひとつでしかないのよ」


そこまで語ると彼女は自嘲し、黙って話を聴いていた私に暗く淀んだ瞳を向けた。


「何で妹が命を絶たなくちゃいけなかったと思う?」


私は答えることが出来なかった。私の答えなど端から期待していなかったのだろう。彼女は、すぐに解答を紡いだ。


「誰よりも優秀だったからだよ。あの子は両親に認めてもらおうと何に対しても必死だった。元々優れた才能を持ってるあの子はどんなことでも人並み以上にこなすことが出来た。それでも両親は、あの子に見向きもしなかったわ。結果、どうなったと思う? 妹は、自分はどうしようもないクズだから両親に認めてもらえないんだと卑屈になったわ。その態度が、異常なまでの謙遜へと姿を変えた。なまじ優秀すぎたせいで、それが人目には相手を見下す皮肉に見えたんでしょうね。在来組でなかったことも影響して、私の目が届かないところであの子は陰湿な目に遭ってたらしいわ。アタシがそれを知ったのは全て終わった後、あの子の遺品整理中に出てきた日記を読んでからだった。そこに例のカードについても記述されてた。日記の終盤なんて、そいつらの事を盲信している内容ばかりだった。しかも、普段のあの子からは考えられないような汚らしい筆跡と気が狂ってるとしか思えない文面で埋め尽くされてたわ」


一呼吸置き、彼女は言った。


「どう? これが、あんたが知りたかったアタシの妹の全てよ」


返せる言葉などなかった。黙り込む私を見て彼女は、侮蔑した。人の暗部を掘り起こそうとした私への当然の報いだった。私を置き去りに去りゆく彼女の背は、もう二度とアタシに関わるなと暗に言っていた。

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