◆亡霊の真相
そもそも、だ。
結城の話はおかしなところがいくつかあった。
彼女が最初の犠牲者だったといった天野は今も生きている。
そこからして前提が違っているのだ。
平静を装おうとしても、私が訝しく思っていることはすぐに彼女に伝わった。
「まぁ、今の話は噂と矛盾してるんだけどね。
イリーは生きてるんだしさ。
でも、実際に彼女が死にかけたの事実だよ。
そういう意味で彼女は亡霊の被害に遭いながら唯一生存した生徒ってことになるんだよねー」
気付けば私達は歩みを止めていた。
彼女は私の反応でも楽しむかのように首を仰け反らせて意味深な流し目を送ってくる。
冗談でしょとでも言うように、ため息を吐き肩を竦めてそれに応じた。
「ま、そうよねー。で、本当は何の用があってアタシに会いに来ようと思ったのー。親戚の家がこの近くだからって言うだけじゃないんでしょ?」
「本当にそれだけだよ。あそこに私の居場所ないからさ。肩身狭くて息苦しいんだよね」
「ふーん」
「もしかして疑ってる?」
「いや、そんなことはないよー」
とは答えてはいるものの、彼女は納得しかねているようだった。
そういう態度を取られると、いっそ藪をつつきたくなる。
「で、ねこはあんなところで何してたの?」
一瞬、結城が険しい表情を浮かべたように見えたが、すぐに表情を普段のものへと取り繕った。
彼女は私に比べたら余程ポーカーフェイスをつくるのに慣れているらしい。
「イリーが見つけたっていうあのメッセージカードと関係の有りそうなことを調べてたんだよ」
「さっきの場所って、例の集団自殺した生徒たちが発見された場所だろ?
何の関係があるっていうんだ」
「それが改めて亡霊騒ぎの犠牲者を調べてみたら関係大有りだったんだよねー。犠牲になった子のほぼ全員が新入組の生徒だったんだよ」
「ほぼってことは全員じゃないんだろ。それにその子たち全員が例のカードを受け取ってるとは限らないんじゃないか」
「まぁ、そうなんだけどねー。でも、ないとも言い切れないだろ? あとさ新入組じゃなかった例外って言ってもひとりだけなんだよねー。誰だと思う?」
そう言われて気付かない方がおかしい。
「天野だろ」
「ご名答ー。つまりイリーは例外中の例外だったんだよね。イリーの事は元々予定外だったんじゃないかなー」
「亡霊とやらがそんな都合を考えるのか?」
「考えないだろうね。だからさ、それをやったのが亡霊じゃないとしたら?」
「それって──」
私が何か言う前に結城は言葉を被せた。
「あのカードをバラ撒いてる連中が、その子たちの中から犠牲者を選んでるとしたら?
犠牲者になった子たちが本当は亡霊の呪いでも何でもなく、自殺だったとしたら?」
「それなら何で亡霊がやったなんて噂が流れて……」
と言おうとして気付いた。
噂を流しているのも、そのカードをバラ撒いてる者たちなのかもしれない。
言葉の途中で口を噤んだ私を見て、彼女は私が答えに至ったのだと察して「そういうことだよ」とその考えを肯定した。
「例の噂さ、風邪みたいな症状を発症した後に命を落としてるって話したよね。あれ今はインフルエンザが流行ってて隠れ蓑になってるけど、実際には一酸化炭素中毒なんじゃないかな。一酸化炭素中毒の初期症状は風邪っぽいって聞くしね。それに集団自殺した子たちも練炭を使った一酸化炭素中毒に拠るものだしね」
「それなら何で、その子たちがインフルエンザで亡くなった事になってるんだ」
「世間体ってやつでしょ。良くも悪くも晴桜に通ってる子たちって、みんなそれなりの家柄の子たちが殆どだしね。娘が自殺だったなんて、親からしたら知られたくないんじゃない? だから、噂も黙認してる。現実なんてこんなものよ。ただ、何でそいつらがその子たちを自殺に追い込んでるのか理解不能だけどね。それに応じる子たちの行動も理解不能だけどさ」
「それじゃあ、天野も自殺しようとしてたってことか?」
「だろうね」
結城の理論は余りにも突飛すぎて、とてもじゃないが信じられなかった。バカバカしいと首を振り、それを覆すように言った。
「最初の、集団自殺した4人も新入組の生徒だったのか?」
「そうだよ」
結城は即答した。嘘だ、と思った。あの『結城桜子』が新入組の生徒だとはどうしても思えなかったのだ。だから思わず、彼女に揺さぶりでもかけるつもりで言ってしまった。
「天野が見つけたカードをもらった『らっこ』って子も犠牲者の中にいるのか?」
結城は鋭い目つきで私を射抜く。
「その子は、亡霊の噂に利用されてる内のひとりだよ」
と言ったあと、彼女は空を仰いでため息を吐いたかと思うと、がくりと頭を垂らして俯いた。それからゆっくりと頭を持ち上げると、自嘲気味に口の端を歪めてじっと私の目を見据えた。
「もうやめよう、こんな探り合い。本当はさ、知ってるんでしょ? 集団自殺した4人の中に結城桜子って子がいたって事をさ」
言葉を返さず、私は無言でこくりと頷いた。わざとらしいくらいに大きなため息を吐き、彼女は観念したように口を開いた。
「結城桜子は私の双子の妹だよ」
結城は濁った目で私を睨みつけ、そう言った。




