◆疑念と打算
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長期休暇ということもあって日付や曜日の感覚がおぼろげになっていてすぐにはわからなかったが、今日は10日だった。
やることもないのだし明日早速行ってしまおうか、と思うもののあまり気は進まない。
理由は単純に何故私だけ呼び出されているのかということだった。
そのことについて触れて探りを入れたほうがいいのだろうか?
まともに返答が来るとは思えないが、警戒しているのだと牽制の意味も込めて送っておいたほうがいいのかもしれない。
そう思い立った私は率直に【なぜ、私だけ?】とメッセージを送る。
すぐには返答はないと思っていたが、5分と待たずに応答があった。
【理由、わかってるんじゃない】
その返答を見て、眉根を寄せる。
彼女もまた私同様に何かを疑っているようだった。
疑念が募る。
煩わしい短文のやりとりでは、どうにも要領を得ない。
電話で話せないかと【電話できない?】と持ちかけた。
するとその後すぐにスマホが鳴った。
通話を受けると、結城は開口一番に『今ひとり?』と言った。
何故かはわからないが、彼女は私以上に何かを警戒しているようだった。
「ひとりだよ。何かあったのか?」
応答はなかった。
ただ電話口からは少し乱れた呼吸音が聞こえるばかりだ。
「ねこ?」
「あ、ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてたよー」
言葉尻こそおちゃらけたように振る舞ってはいたが、明らかに普通ではなかった。
「ツッキー、私宛に妙なメッセージ送ってこなかった?」
「ねこに連絡入れるの今日が初めてだよ」
と答えると、ねこはぶつぶつと何か呟いていたが私には聞き取れなかった。
電話越しにはっきりとわかるほど、彼女はかなり神経質になっているようだった。
しかし、演技ではないとは言い切れない。
あの曖昧な日時指定が、その疑いに拍車をかけている。
「そう、それならいいわー。でさ、ひとつ聞きたいんだけど。最近、イリーに会ったかい?」
結城はほっとしたように装いつつ、今度は天野の話題へと飛んだ。
私からしてみれば、顔を合わせてたった数日の結城は今の天野以上に得体が知れず疑わしかった。
かと言って、天野もそれほど信用できるわけではない。
それに加え、結城の口にした妙なメッセージというのが気にかかったのだ。
私の脳裏には真っ先に意図不明の空白のメッセージが浮かんでいた。
それらを天秤にかけた結果、少しの嘘を交えて彼女の質問に応じることにした。
「ショッピングモールですれ違った程度だよ。話すらしてない」
「親しいわけじゃない、のかねー?」
戸惑ったような彼女の返答に苦笑する。
「元々、夏休み限定でつるんでるだけだしね。あの日が特殊だっただけだよ。休みが開けたらたぶん、天野とはあまり話すことはなくなるんじゃないかな。クラスも離れてるしね」
「そうなのかい?随分と親密な様子だったから、アタシはてっきり学校でもベタベタとつるんでるのかと思ってたよー。そういう事なら、さっき送った例の約束流してくれちゃっていいよー。変な疑いかけて済まなかったね、それじゃ──」
とあっさりと彼女は引こうとしたので、待ったをかけるように言葉を挟んだ。
「近々、遊びに行ってもいいかな?」
「いいよー」
拍子抜けするほどにあっさりと、承諾を得られた。
彼女からすれば私はもう用済みのようだっただけに意外だった。
「でも、いいのかい?
お盆も近いし、家族での予定もあるんじゃないかねー」
「ねこはお盆に家には帰らないの?」
「色々と面倒だからね。
今年は寮で過ごすつもりだよー」
「それなら良かった。
一応家族の予定はあるんだけど、行き先は藤岬だからね。
合間を見て、晴桜には行けると思うんだよね」
行き先を聞いた結城は納得したように応じる。
「あぁ、そういう事ならアタシが迎えに行くよー。
帰らないからといっても、ずっと寮にいても暇だしねー。
日程とかもうわかってる?」
「12日の夜にそっちに行くから、13日の午後2時頃でいいかな」
「OK、OK、13日だねーっと。
待ち合わせ場所は、岬の灯台かな」
「だね」
「かしこまりー。
じゃ、楽しみにしてるよー」
どうにか約束を取り付け、通話を終えた。
直後に【待ってるよー】とメッセージが送られてきた。
彼女に対する疑念が完全に晴れたわけではないが、私に害が及ぶことはないだろう。
そう考えると、晴桜にいる彼女の存在はありがたかった。
藤岬にある母方の祖父母の家には、三日間滞在することになっている。
あまりあの場所に長居したくなかった私からすれば、彼女を口実に抜け出せることになり本当に助かった。
藤岬は先日使った駅とは、晴桜を挟んでちょうど反対側の位置に当たる。
藤岬から晴桜までは大体徒歩で10分程度で、灯台までとなるとその半分の時間で充分だった。
以前なら、祖父母の家の近くに住んでいた友人を誘っていたところだが今はもう居ない。
それを思うと、知らずため息が口からこぼれた。
私は部屋に戻り、手帳に結城との予定を書き込むとぱたりとそれを閉じた。




