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こうしてボクは今に至る  作者: 朱本来未
【3】『ひとりきりの迷夢』
20/41

◆嫌悪の理由

なんとなく読書する流れになって、月詩は例の映画の原作本を読み耽り、私はというと付録目当てで買ったばかりのファッション誌をぼんやりと眺めていた。


そうしてどれくらい時間が経った頃だろうか、月詩が急に立ち上がる。何事かと顔を向けると「お手洗いに行ってくる」との事だったので、口頭で場所を説明すると彼女はそそくさと部屋を出て行く。


ふと彼女が読んでいた文庫本に見やると、栞紐が抜かれており、もう読み終えているようだった。


程なく戻ってきた月詩は読書を切り上げたようなので、益体もない話を交わして過ごす。そうしているうちにすっかり夜は更けて、時計は22時を随分と前に回っていた。


「なっちゃん、昨日から変に混乱させちゃってごめんね。今も気を使わせちゃってるし」


言うなり月詩はぎゅっと目をつぶって顔の前で両手を合わせ、そしてこちらの反応を窺うように恐る恐るといった感じで片目を開いて躊躇うように口を開く。


「話、聞いてくれる?」


「月詩を呼んだのは私だよ」


一度切り出してしまえば抵抗感はなくなったようで、月詩はゆっくりと語り始める。私は彼女のこれまでの発言から、安直に彼女自身か身近な人の誰かが記憶喪失になったのだと想像していたが、違った。


「なっちゃん。あたし、清森館に行きたかったって話したじゃない」


月詩の語りの邪魔をしないように口を閉ざしたまま、黙って相槌を打つ。


「一応ね、推薦で清森館への進学は決まってたんだ。だけどね、取り消してもらったの。清森館へ行く意味がなくなっちゃったから」


そこで一度間を置いて記憶を遡るように、彼女は天井を仰ぐ。


「あたしね、推薦決まって浮かれてたんだ。もう受験勉強もしなくて良くなったって言うのもあったんだけどね。今でこそなっちゃんと同じくらいの学力だけど、部活やってたときは全然勉強してなくて散々な成績だったんだよね」


と言って月詩は鼻の頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。それもわずかのことで、彼女はふっと暗い表情になった。


「受験勉強でピリピリしていたみんなを見ていて、ちょっとは息抜きした方がいいんじゃないかって思ったんだ。それで、ちょっとしたお遊びでも身体を動かしたら少しは気が晴れるかと思って、ダメ元でバスケに誘ってみたの。まぁ、当然断られちゃったんだけどね。でも、私は完全にバスケをしたい気分になってて、何よりバスケでのスポーツ推薦だったから感覚を鈍らせたくなかったんだ。


体力作りは毎日やっていたんだけど、バスケは一人じゃできないでしょ。だから、引退した部活に顔を出して混ぜてもらうことにしたのね。先生も承諾してくれたし、後輩のみんなも喜んでくれた。これでも一応エースだったからね。で、早速下級生たちに混じって3on3やることになったんだ。あたしさ、後輩たちにいいところ見せようとして無意識に力んじゃってたと思う。リングに弾かれたボールを無理な体勢で取って、着地のときに変な感じで足首を捻っちゃったんだよね。そしたら急に立てなくなっちゃってさ。そのまま病院に連れて行かれることになったんだ。


診察の結果は、膝蓋骨骨折。いわゆる、膝のお皿が割れちゃったんだよね」


言葉を切って、彼女はそっと右の膝を擦った。


「膝は曲げられないし、欠けた骨で靭帯も損傷しちゃってさ。お医者さんには、治っても今までみたいに飛んだり跳ねたりするのは難しいって言われちゃったんだよね。それに二次成長期で骨が伸びている最中だったから、簡単には処置できなかったっていうのもあったんだろうけどね。だからさ、もうダメかなって思って推薦を取り下げてもらったんだ。本当に部の後輩の子たちには申し訳ないことをしちゃったよ」


月詩は眉根を寄せて、はははっと乾いた笑いをもらす。


「入院してる間さ、やれることなんにもなくて、あたしにはバスケ意外何もなかったんだなと思い知らされちゃったよ。でも、他の人にもそう思われるのはすごい悔しかったから、必死に勉強してたんだ。ただ、それだけじゃいつまた何かの拍子になくしちゃうかわからないから、やれそうなことはなんでもやったよ。料理もその一環で身に付けたものなんだ。一年前くらいまではなっちゃんと同じでお湯沸かすくらいしか出来なかったしね。だからさ、あの映画みたいに話の都合で登場人物が今まで積み重ねてきたことを唐突に消されちゃうのって好きになれないんだ。あたしの場合は、自業自得みたいなものだけどね」


そう昔話を締めくくった月詩は、重々しさを感じさせないように話の間ずっと浮かべていた微笑を引っ込めた。そして、きゅっと口を引き結び真剣な眼差しを私へと送りながら呟く。


「あの映画観ようって誘ったのあたしだったのに、雰囲気悪くして本当にごめんね」


謝罪の言葉に対して、私は迷った末に「大丈夫だよ」と、ただそれだけしか言うことができなかった。

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