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こうしてボクは今に至る  作者: 朱本来未
【3】『ひとりきりの迷夢』
18/41

◆只今準備中

なんとも言えない気まずさの中、スマホの音が響き渡る。月詩の方を見ると、彼女は首を横に振った。


私は自分のスマホをチェックすると、母から「今日、帰れそうにない」とメッセージが送られてきていた。


都合がいいのか悪いのか、明日まで私と月詩はこの家でふたりきりで過ごすこととなった。


「今日、母さん帰ってこないみたい。月詩、何か食べたいものある?」


「もしかして、なっちゃんがつくるの?」


「まっさか、私料理なんて出来ないよ。お湯くらいなら沸かせるけど、火を使うのは苦手なんだ」


おどけるように肩を竦めると、月詩はくしゃっと眉を歪めた。


「じゃあさ、あたしがつくろうか?」


「えっ、いいの?」


「その方が、何だかお泊り会っぽいじゃない」


「あー、それもそうだね。それじゃ、カレーがいいかも。なんか、それっぽいしさ」


「じゃあ、決まりだね。材料とかある?」


「なーんにもないよ、冷蔵庫も空っぽだしね。だからさ、これから買い物に行こっか?」


気まずくなっていた空気はすっかり霧散していた。


とりあえず買い物に行くため、先に月詩を玄関先へと行かせてから着替えを済ませた。


スマホをポケットに押し込んで急いで1階へと降り、リビングへと行って冷蔵庫横の戸棚から食費を収めた財布を持ち出した。


そうして玄関で待っていた彼女と合流し、施錠に使った鍵はプランターの下には置かずそのまま持って行くことにした。


西日のキツい街並みを歩く。先を往く月詩の後ろ姿を眺めながら、思う。


彼女もしくは親しい知人が記憶を失うような経験をしたのだろうか、と。


いっそ核心に触れてしまったほうがいいのだろうかと迷う。


でも、不用意にその事について触れて今の関係が修復不能になってしまうかもしれないと思うと、知らず口を引き結ぶこととなった。


程なくして近所のスーパーへとたどり着き、入口で月詩がカートへとカゴを載せていた。


ぼんやりとしていた私は急いで彼女へと駆け寄った。


自動ドアを抜けると、冷たい空気が身体を包み込んだ。


入ってすぐの場所に並べられた青果類の中から、じゃがいも・人参・玉ねぎを適当に選びとる。


バラ売りされていなかったので、無駄に量が多くて困りものだが仕方がない。


残ったとしても根菜なのでそれなりに日持ちもするだろうし、大丈夫だろう。


余ったもので今度は肉じゃがでもつくってもらえばいいだけなのだ。


野菜はこれで充分だと思っていたら、月詩は更にきゅうりをカゴの中に放り込んでいた。


「きゅうりなんてどうするの?」


「野菜どれも余るだろうし、それでポテトサラダでもつくろうかなって思ってるんだけど。でも、考えてみたらちょっと重いかなぁ」


「うーん、どうなんだろ。うちはいつもカレーだけって感じだから」


「え、そうなんだ。もうしかしてうちの食卓ってかなり食べ過ぎな感じなのかな」


と驚いたように呟きながら月詩は、むにむにと自分のお腹に触れていた。


傍から見た感じでは、彼女がふくよかという印象はなく、むしろ痩せている部類だった。


「いいよ、つくっちゃおう。食べきれなきゃ、明日食べればいいんだしさ」


「そだね、今日は特別ってことでそうしよっか」


野菜はそれで全部。次は何をっと思っていると、彼女は魚肉ソーセージを手にとっていた。


料理の主導権は彼女にあるのだから、変に口出ししない方がいいだろうと判断し、私は口出ししなかった。


「なっちゃん、カレーのお肉は何がいい?ビーフ、ポーク、チキンどれがいいかな?それとも魚介にする?」


うちはいつもチキンカレーなのだけれど、彼女の家の味が気になった私は「いつも月詩が食べてるのでお願いしようかな」と答えた。


「そっか」と言って彼女が手にしたのは豚バラ肉だった。


ひと通り材料が揃い、最後に彼女はカレールウ、マヨネーズ、牛乳をカゴに入れてレジへ。


支払いを終え、レジ袋に商品を詰め込んでみると、結構な重さになった。


それを私達は二人で持ち、暮れなずむ夕日の中を、なるべく車通りの少ない路地を選んで家へと戻った。


早速、買ってきたものを台所へと運び下準備にとりかかる。料理下手な私は、野菜を洗ったりピーラーで野菜の皮を剥くのを任された。手際よく調理を進めていく月詩に感心し、思わず吐息をもらしてしまう。


あとは野菜に火が通るのを待つくらいしかなくなり、私は台所から退くこととなった。長時間火を扱っている場所にいると心が不安定になってしまうので、正直助かった。


待っている間やることのなかった私は、雑音欲しさにテレビをつけようとしたが、時間が時間だけに、どこのチャンネルもニュースしかやっていなかった。


ポケットに入れていたスマホが新着メッセージを受信し、振動する。確認すると、【店屋物頼んでもいいよ】という母からのメッセージだった。返信しておくべきかなと思い、【今、月詩とカレーつくってる】と送ると、数分と置かず返事が来た。


【お母さんの分も取っておいて】という返事に、ゆるキャラのスタンプで【OKです】と手早く返した。


そこへ月詩が「なっちゃん、おいも潰してもらっていい?」と、じゃがいもの入ったプラスチック製のボールと木べらを渡された。それを受け取って、まだ温かいじゃがいもを無心にごつごつと荒く潰す作業に取り掛かった。

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