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こうしてボクは今に至る  作者: 朱本来未
【2】『約束は一方通行』
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◆管理不十分

月詩は足を痛めているのか、右足をかばうようにして遠ざかっていく。そんな彼女を呼び止めようとしたが、こちらに向けられた背はそれを拒絶していた。今はそっとしておいた方がいいのかもしれない。


そう思った私は、遠ざかるその背を黙って見送った。そうしているうちに、すっかり日が落ちてしまったので帰りを急ぐべく自転車へとまたがる。電灯を点けているため重くなったペダルを踏み込むものの、なかなか速度は上がらなかった。


程なくたどり着いた自宅には灯りが点っていなかった。昨晩よりも早く帰ってきたつもりだったが、母はもう仕事に行ってしまったらしい。一緒に夕飯を摂れなかったことを申し訳なく思いながら、いつもの手順で玄関の鍵を開ける。


とりあえずリビングへ行き、ソファへと歩き疲れた身体を投げ出す。そして電源を切ってポケットに入れっぱなしだったスマホを取り出して通知の確認をする。映画館に入った時に電源を落としたままだったので全く気付かなかったが、1件だけメッセージが入っていた。


確認すると母からの【適当にあるもの食べて】という夕飯に関するものだった。スマホを座卓の上に放ってソファから起き上がった。何かあったかと冷蔵庫の中を確認すると、主菜になりそうなものは私が昨晩食べ残した刺し身くらいしかなかった。傷んでないかと冷蔵庫から取り出して見るが、まだ変色もしておらず綺麗な赤色をしていた。それを冷蔵庫へと戻し、先にお風呂を済ませることにした。


烏の行水でささっと汗だけを流し、普段通りに下着姿でリビングへ。炊飯器を開けるとご飯が若干黄色っぽくなっていた。たぶん母が朝炊きあがるようにと昨晩多めにセットして炊きあがったものをそのまま保温し続けた結果だろう。今朝、私がパン食だったこともあってかまだかなり残っていた。


昨晩よりも固めのご飯を茶碗によそい、鼻を近づけて匂いを嗅いでみたが特に異臭がするということはなかった。あとは汁物かなとガスコンロを見ると、昨晩と同じように味噌汁が用意されていた。昨日と違ってこちらはまだほんのり暖かく、作られてそれほど時間が経っていないのがよくわかった。


お椀によそった味噌汁とご飯を盛った茶碗を両手に持って座卓へと着く。手始めにご飯を口にしたが、思った以上に固くなっていてかなり咀嚼しないとまともに飲み込めそうになかった。


仕方なく私は、行儀が悪いとは思いつつ味噌汁を固くなったご飯の盛られた茶碗へと注ぎ込み、ねこまんまにした。本日の食事は主菜も赤身魚の刺し身と完全に猫の餌の様相を呈していた。


ご飯が味噌汁で少し柔らかくなるのを待ちながら、刺し身を口にする。わさびが切れていたので醤油のみで口にしていたためか、味に少し違和感があったが気にせずぱくぱくと口の中へと放り込んだ。


先に刺し身を片付けてしまい、もう頃合いかと流し込むようにしてねこまんまを胃の中へと流し込んだ。


おざなりな食事を終え、洗い物を済ませているとスマホが鳴った。吸盤で冷蔵庫に貼り付けられたタオル掛けから手拭きを取って、そのまま座卓へと向かう。持っていた手拭きと入れ替えるようにスマホを拾い上げ、画面へと目を落とす。


【今日はごめんなさい】という月詩からのメッセージだった。正直、謝るべきはこちらだと思っていただけに複雑だった。私はすぐさま返事をと思って早速メッセージを送る事にした。


ただメッセージではなく、言葉で直接伝えた方がいいかと思って【電話できる?】と送った。返答はすぐにあったものの、【今日は無理だよ】と断られてしまった。


その返答が家庭の事情によるものなのか彼女の心情に拠るものなのか判別がつかなかった。更にこちらからメッセージを送ろうとしたが、先手を打つように【今日はもう返信できない】と送られてきた。


明日に持ち越すことになってしまうだろうが、今メッセージを送っておくべきだと判断した私は急いで【明日遊べる?】と送信した。


スマホの画面に表示された時刻は、まだ20時を回っていなかった。もう今日はやることはなくなってしまったとリビングから部屋へ移る。2日続けて長時間歩き通したことで足の疲労はかなりのものだった。


さっさと休むべくベッドの上に身体を投げ出したものの日中に日差しを浴びすぎたためか身体から火照りが抜けない。寝苦しくタオルケット一枚ですら暑苦しく感じた私は、邪魔だとばかりに足でタオルケットを押し退けた。


火照る身体に苛まれながらも、押し寄せる疲れのほうが上回っていたようで、程なく私は深い眠りへと落ちていた。


そうして迎えた翌朝の目覚めは最悪だった。下着姿でタオルケットすらかけずに眠ったことでお腹を冷やしてしまったのか、酷い腹痛で目を覚ますこととなった。


痛むお腹を押さえつつ、トイレへと駆けこむ。額からは嫌な汗が滲み、ほとんどトイレから離れることが出来るような状態ではなかった。


数時間に渡り腹痛に悩まされ、トイレを出たり入ったりしていると、10時を過ぎた頃にスマホが鳴った。受信したのは月詩からのメッセージで、【今日は誰もいないから遊びに来てもいいよ】というものだった。それは昨晩、私が最後に送ったメッセージへの返信だった。


けれど、私は自分で約束を持ちかけておきながら、それに応じることは出来そうもなかった。余りに格好悪くて腹痛を理由に断りのメッセージを送ることも出来ず、私は体面を繕うように「ごめん、急な用事で行けなくなった」と返信していた。

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