◆思わぬ遭遇
月詩は「じゃ、行こっか」と駅へと向かっていく。
昨日とは違い時間に余裕があるため、慌てて構内へ駆け込むことはなかった。
ふたり並んで電車を待つ。ほどなくして下りの電車が姿を見せた。
私たちはそれに乗り、ガラガラの車内に席には腰を下ろさず、扉のすぐ側のつり革につかまった。
10分ほどで隣町にある静森の駅へ到着し、私たちは降車した。
昨日、天野を見送った駅だ。
静森の駅前には数年前にできたばかりの巨大ショッピングモールがあり、休日にはかなりの人でごった返す。それにも関わらず、駅の利用率は驚くほど少ない。
その理由は単純で、この辺りがベッドタウンなためどこの家にも自家用車が一台は必ずあるからだ。そのため大量に買い物をする可能性の高い家族連れは車で訪れる。それ以外の層、特に私たちのような学生はわざわざ電車にお金をかけることはせず、基本的には運賃のいらない自転車を使う。
公共の交通機関を使う場合でも、電車ではなくバスを利用することがほとんどだ。ショッピングモールには直通のバス路線もあるため、電車よりも早くて安価だ。その中で私たちが電車を選んだのは、バスより少し高くても車内が空いていたからだった。
暑い日差しと蝉の鳴き声の中、歩いて5分で目的地のショッピングモールに到着した。
この道のりでの会話の結果、私たちはまず映画を見ることになった。
「月詩は何が見たい?」
「ん~、これにしない? 話題になってたけど、あたしまだ見てないんだ」
彼女が指さしたのは、繰り返しCMで流れていた泣けると話題のラブロマンスだった。
甘ったるいかもしれないが、それを見ることに同意した。
上映時間まであと10分ほどだったので、私たちは早速チケットを買い、館内へ入った。
上映期間も終わりが近いためか、席はかなり空いていた。
選び放題の席の中から、私たちは中央付近に座り、腰を下ろした。
月詩はハンドバッグを膝の上に乗せ、中に入れていたスマホの電源を切った。
「思ったより空いてるね」
「だなぁ、リピートしようってタイプの映画じゃないのかもな」
そう答えながらスマホの電源を落とす。それにあわせるようにして館内の照明が落ちた。スマホをポケットへとしまい込み、肘掛けへと手を掛ける。
上映開始から数分、そっと私の左手へ月詩の右手が重ねられた。ちらりと隣へ目をやると、彼女は真剣な様子でスクリーンに見入っていた。ふっと笑みをこぼし、スクリーンへと視線を戻す。
物語がクライマックスに差し掛かった頃、月詩の手にぎゅっと力が込められる。彼女は随分と感情移入して見ているのかもしれない。対して私はというと面白くないとは言わないまでも没頭するまでには至っていなかった。結局、物語にノリきれないままエンドロールが流れ始めてしまった。
上映が終わり館内の灯りが点る。それでもまだ月詩の手に込められた力は緩められていなかった。どうしたのかと彼女の様子を窺う。彼女はスクリーンにではなく、俯いて膝元へと視線を落としていた。体調が悪いのかと「月詩」と名を呼ぶと、彼女ははっとしてしどろもどろな返事をして落ち着きなく視線を泳がしていた。どうやら体調が悪いというわけではないらしい。
彼女は大丈夫だからと言って、決めていた予定に従って先を急ぐようにフードコートへと移動した。時刻は13時半過ぎ、昼時という事もあってかなり混んでいた。そんな中から私達は長く待つ必要のなさそうなうどんを選んだ。
座れそうな場所はと見回すと、日差しの強い窓際に数席空いていた。月詩の体調が万全ではないようなので別の席を探すべきかと思っていたら、先立って彼女自身がその席へと向かっていた。更には私へと向けて「なっちゃん、こっち空いてるよ」と手招きする。その様子からは空元気なのかどうかさえ判別がつかない。迷ったが、他の席も空きそうにもなかったので私もそちらへ。
照りつける日差しを眩しく反射する白い丸テーブルをはさんで向かい合う。つるつるとうどんを口にしながら、話題として先刻見たばかりの映画を持ちだした。かなり感情移入してみていたようだし、話題としては申し分ないだろう。そう思っていたのだが、どういうわけか彼女の顔は急に曇った。
「あ~、うん。悪くはなかった、よね」と小首を傾げて微妙そうな反応を返してきた。
もしかしたら結末が彼女好みじゃなかったのかもしれない。確かに終盤は唐突にヒロインが記憶喪失にされ、ラストで無理やり感動話に仕立てられていたような感じは否めなかった。
これ以上この話題を広げるのは難しそうだと切り捨てることにして「この後どうする?」と早々に次の話題へと移った。
食事を終え、私たちは小物を見るためショップを巡る。そして何店舗目かで見知った人物と顔を合わせることとなった。
その人物、天野は昨日と変わらぬ無表情で小さく会釈してきた。




