2.ヒヨコは可愛いよね
馬車に乗り込んで、ゆっくりと街道を進み始めたところでエリナが訊ねた。
彼女はヒヨコを抱きしめたままである。
「セイ君、この子何の雛なの?」
ヒヨコの姿では、何の雛か判別できない。
「さあ? 森の中で木から落ちてた巣を見つけて…その中に卵があったんだ。
何の卵かな~って覗いてたら、卵が割れてね、そしたら、この子たち刷り込みで僕についてきちゃった」
寂しくなくていいけどね~、とセイはのんびり答えた。
森の中という不穏な言葉が聞こえたが、エリナは別のところに食いついた。
「この子たち?」
キラリ、とエリナの目が光った。
「他にもいるの?」
ずいっとセイに迫ってきた。
「あ、え~っと。この子とこの子」
セイはローブの両ポケットから更に二羽のヒヨコを取り出した。
ピイ!
ピヨ!
「イヤ~! か、カワイイ~!」
セイの手の平の上にぽっちりと座り、こちらをつぶらな瞳で首をかしげながら見ているその姿にエリナは悶えた。
「ねぇ、一羽譲ってくれない? 大事にするから」
エリナはぐいぐいセイに迫る。
(かわいい、すんごくカワイイ! 欲しい。癒される~)
「いや、あの……」
「エリナ。何の雛かも判らないのに、無責任なことを言うんじゃない。それにその子たちはセイ君を親だと思ってるんだよ。それを引き離すのかい?」
タジタジとなっているセイを見かねたザイルが娘を諭した。
「あ……。ごめんなさい、セイ君」
シュンとしてエリナはセイに謝った。
「ううん、いいよ。この子たち可愛いもんね~。でも、この子たちを引き離すのも可愛そうだから、ごめんね」
きちんと謝ってきたエリナにセイも申し訳なさそうに言う。
可愛いヒヨコに夢中になってセイに最接近していたエリナ。ここであることに気付いた。
「ねぇ、セイ君。ちょっとフードとってくれないかな」
「ああ、ごめん。馬車の中だったね」
「「!!」」
そう言って、フードを外したセイを見たエリナとザイルが硬直する。
「…セイ君、女の子だったの?」
薄茶色の髪に深い蒼い瞳。白磁の肌にほんのり色づく頬。小さな桃色の唇。どこから見ても美少女だ。
セイは旅に出るときに髪の色を変えている。銀髪は珍しいからとじい様とばあ様に言われた。
瞳の色は特に変えていないが、明るさ次第でその時々で微妙に色合いが変わるのだ。
「え? ぼく男だよ」
キョトンとセイは目を見張る。
「えぇ~! こんっなに可愛いのに?
このサラサラの髪。星の瞬くような蒼い瞳。この滑らかな白い肌。小さな愛らしい唇。
---どこをとっても美少女じゃない!」
セイの髪や肌を触りながら、信じられない、とエリナは力説する。
ザイルは目の前で娘と話しているたった一人で旅をしているという子供をしげしげと観察した。
年齢を聞くと十歳になったばかりだという。
こんな小さな子供が一人で旅するなど聞いたことがない。
成人するまで子供は親の庇護をうけるのが当たり前だ。
貴族の子供なら十歳になれば王立学園に通うため、地方からも王都へ集まる。この場合は必ず保護者が付き添い、護衛もいる。
そもそも、大人でも一人で街や村を出ることなど殆どないのだ。
何故なら、街から出れば森や草原には魔獣がいるし、街と街を繋ぐ街道には盗賊が出る。
とても一人では危なくて旅など出来ない。
ましてやこんなに小さな美少女、いや美少年。身を守るすべなど持ち合わせていないだろう。
「セイ君。ご両親はいないのかい?」
「う~ん。生きてはいるらしいんだけど、ずっとじい様とばあ様に森で育てられてたんだ」
「森? そんな危険なところに住んでいたの?」
エリナが割り込んでくる。
「危険? ぼくずっと住んでたから、そんなに危険だと思わなかったけど…」
「いやいや、森には魔獣がでるだろう?」
「危ないのはじい様がやっつけてくれてたから」
「セイ君のおじいさんって何者……」
森に住む魔獣は危険なものが多い。それをたった一人で処理できる腕前を持っているとなると、かなりのものだ。
「若いころはあちこち冒険者として旅してたって言ってたよ」
「まあ、それなら大丈夫か」
とザイルは一応の納得を見せた。
そのじい様とやらは高ランクの冒険者だったのだろう。でなければ森には住めない。




