こんな日常 3
『∞』
それがスクイに与えられた魔法名である。
通常、魔法名というのは、偉大な功績を残した者や特異な能力を持った者に与えられるもので、努力すれば誰もが貰えるというものではない。
だから、有名な騎士団の団長でも無名だったり…かと思えば、初等部に通う子供なのに『魔人』と呼ばれたりする事も有るのだ。
それをスクイは入園してすぐに与えられた。
たまたま来ていた有名な予言師の
「こ……この子供からは無限を感じる!!」
という一言によって。
それが全ての始まりだった。
そしてスクイは特別教室に入れられてしまった。
英才教育を施し、超エリートに育て上げようとしたのだ。
教師達の思惑通り、スクイは教えを吸収していき、着実に成果を出していった……唯一つの教科『実技』を除いて。
最初は英才教育の甲斐有って、他のクラスの誰よりも早く魔法を発動させる事ができるようになっていった。
やがて使いこなせるようになり、次のステップに移ろうとした時、異変が起きた。
上達しなくなった。
低位の魔法は問題無く発動するのに、それが中位に上がらないのだ。
そこに至って、教師達はスクイの才能を改めてみた。
その結果判った事は、スクイの魔力が並み外れているという事だった。
それこそ『無限』なんじゃないかと思う程に……しかしながら、発動できる魔法は低位だけ……
例えるなら、スクイは超長距離マラソン選手といった所だ。
何km走っても疲れないが、その代わりスピードは最低という。
そして残念な事に、この社会には超長距離走なんて競技は無く、求められているのはそこそこの距離を超速で走る選手なのだ。
中等部に上がると同時に、スクイは特別教室から一般教室に移された。
そこでスクイを待っていたのは、特別教室には無かった定期試験だった。
スクイにとって幸いだったのは、先にも述べた様に試験の判定を総合評価で決めるという事だった。
そう、スクイは他の教科で補う事が『できる』のでは無く『しなければいけない』のだ。
「と……とにかく、もう一回です!」
ミニーオは両手をブンブン振ってスクイを促した。
「きっと、カーディナル君はまだ壁を破れてないだけなんです! 低位から中位になるなんて、些細なキッカケでできる様になったりするんですから!!」
それを聞いたスクイは小さく溜め息をつく。
(……その些細なキッカケってやつは、いったいいつ訪れるんだか……)
そんな事を思いながら、スクイは再び掌に魔力を集中させ始めた。
ミニーオが言っている事はかつて特別教室で聞いた様な事ばかりで、ミニーオ自身それに気付いているのかもしれない。
けど、ミニーオは決して諦めず、根気強くスクイに授業を受けさせようとする。
スクイにはそれが少し嬉しかった。
◇
「うぉ~い! スカー!!」
授業が終わった直後、スクイは背後から呼び止められた。
「……別に、俺には刀傷とか無えんだがな……」
うんざりした様に応えた。
「いやいや~スクイ・カーディナルっしょ? なら、略してスカーじゃ~ん?」
「なら、テメーはサマル・ネットだから、サネッだな?」
「いや、ちょ……名前の語尾が『ッ』て無いでしょ!?」
「じゃあ、サルだ」
「人じゃないじゃん!? ってか、それなら後一文字『マ』を入れたっていいじゃん!!」
サマルと呼ばれたこの少年は、シュース同様クラスメートで、スクイの悪友でもある。
喋る事全てが胡散臭く聞こえ、誰に対しても気兼ねしない。
思えば、特別教室から移って顔見知りがいなかったスクイに最初に話しかけてきたのもサマルだった。
もう三年近くの付き合いになる。
「んで、どうだった~? ミニーオ先生の個人レッスンは~?」
サマルはスクイの肩にぐるっと腕を回してきた。
「どうもこうも無えよ……できねえモンはできねえんだから、今更一回位授業に出たところで」
「ちがーう!!」
スクイの言葉を遮る様にサマルが怒声を上げた。
「……あ…?」
「そんな事はどうでもいいんじゃあ! ミニーオ先生だぞ!? あのミニーオ先生と個人レッスンなんて、全男子生徒の夢だろうが!!」
「………は?」
「解ってない! スカーは解ってない!! そのポジションがどれほどの価値が有るのかを!! くそー! こうなったら、俺も次の試験で赤点を……」
「……………」
こんな日常が明日も続くのだと……疑いを持つ事すら無かった。
ちなみにミニーオ先生はゆるふわ緑髪のロングで黒のタレ目。
サマルはちょいボサ茶髪の赤のツリ目。
どちらもいただいた大切なキャラであります。