こんな日常 1
「……あ゛~だりぃ……」
雲一つ無い青空を見上げながら、少年はこの天気に相応しくない不健全な呟きをもらした。
「こんな日に授業に出るなんて間違ってるよな……」
なにやら自分に言い聞かせるようにウンウン頷くと、芝生の上に寝転んだ。
◇
「お?」
学園の庭師であるグリアはいつもの様に校舎裏の手入れに来て、芝生の上に何かを見つけた。
老眼ではっきりとは見えないものの、陽を浴びて黄金色に輝いているソレは既に見慣れた物だった。
「こーら! またか坊主!!」
その声に反応し、その黄金色がもそもそと動き出した。
「なんだ……じーさんか」
黄金色の正体は少年の髪だった。
少年は面倒臭そうに起き上がると、その金髪をガシガシ掻いた。
「なんだじゃない! 今は授業中だろう!」
そう、今の時間は三時限目の真っ最中なのだ。
だからこそグリアは学園の庭を廻って手入れをしているというのに。
「いや~天気が良いからさ~」
少年は悪びれる様子も無く、人懐っこい笑みを浮かべながら弁解する。
「何がだ! 天気が悪けりゃ、どっか別の所で寝てんだろうが?」
「いや~」
苦笑いを浮かべつつ、少年は目を逸らしていく。
(まったく……)
呆れつつも、グリアはこの少年とのいつも通りのやり取りを楽しみにしていた。
そう、この少年がここで眠っていたのは今日が初めてでは無い。
グリアが庭の手入れをするのは週に二回だが、いつも同じ時間、同じ場所で少年は寝ているのだ。
以前、気になってサボる理由を聞いてみたら
「出ても出なくても、結果は変わんねーし……」
という答えが帰ってきた。
「たまには出ないと進級できなくなるぞ?」
「へーきへーき、一つ位教科落としても他で挽回できるし」
いくつかパターンは有れど、やり取りの内容は大低こんな感じである。
そして、なんだかんだ言いつつもグリアは少年をその場に残して他の場所の手入れに向かうのだが……
「見つけたわ! スクイ・カーディナル!!」
この日はいつもと違った。
「うぇっ!? 委員長!?」
スクイ・カーディナルと呼ばれた少年は、奥歯で何かをジャリッと噛み締めた時の様な顔をした。
「今日こそは出てもらうわよ!」
少年を呼んだのは、白い詰め襟を着た銀色のショートカットの少年……っぽい少女だった。
キリッとした眼差しは確かにクラス委員長という事を納得させる。
わたわたとその場から逃げようとするスクイだったが、怒りを露にズンズン迫ってくる少女の方が速かった。
「ぐぇっ!」
奥襟を掴まれたスクイは、そのまま引きずられる様に連れて行かれた。
「く……くるしっ離し……!」
襟を掴まれたまま引きずられているスクイは、引きずっている少女の腕をペシペシ叩いた。
「そうはいかないわ! 貴様は離した瞬間にまた逃げるんだから!」
「当たり前だ! あんな授業受けて何になるって……ぐがっ!」
少しも反省していない無断欠席常習犯のやかましい口を閉じさせる為、少女は浚に襟を捩り上げた。
「く……け……」
もはやまともな呼吸ができなくなったスクイは、少女の腕をバシバシ叩いた。
「まったく……毎回毎回サボりまくって……」
ぶつくさ言って、少女は手の力を少し緩めた。
「ぶはぁっ! …ぜぇぜぇ」
ようやく酸素を取り戻したスクイは、朦朧とする意識の中で辛うじて生を実感する。
「……ったく、なんて暴力的な奴なんだ……
こいつの名前は シュース・クレイン。名家クレイン家の跡取りにして、俺のクラスの委員長だ。一応、女ではあるが、騎士道精神に溢れ、正義感が強く、毎度の様に授業をサボる俺にとっては天敵の様な……ぐぇっ……!」
「誰に何の説明をしているの!?」
再び襟をひっぱって、シュースはスクイを黙らせた。
◇
連れて来られたのは、屋外修練場だった。
「連れて来ました」
シュースはスクイを教師の前に突き出した。
「やっと来ましたね!」
生徒達の前に立って何かを話していた教師 ミニーオ・クレッティスはスクイの姿を確認すると、グオッ!! と迫って来た。
「今日という今日はちゃんと授業に出てもらいますからね!!」
「いや、けど……」
「大体、どうしてカーディナル君は私の授業だけサボるんですか!? 何か、私に至らない所が有るんですか!? 有るんなら言ってください!! 直せる事は直しますから!!!」
怒りの形相で迫って来た筈のミニーオだったが、いつの間にか半泣きになっている。
「いや、別にミニーオ先生の所為じゃ……」
問題はミニーオの受け持つ授業『実技』に有るのだ。
毎度の様に授業をサボる……と言っても、サボるのは実技だけで、他の授業には割とまともに取り組んでいるのだ。
魔法学園『メスィーア』
初 中 高等部から成る超規模の学園で、その広さは学園の敷地だけで一つの街と言える程である。
多くの地域から生徒が集まる名門で、特徴としては学園の規模の他に定期試験が挙げられるだろう。
他校と違い、全教科の総合得点で評価が決まる。
故に『一つ位教科落としても他で挽回できるし』という事ができるのだ。
できるのだが……
(俺の場合はな~)
スクイの場合は、少し事情が異なる。
「良いですか!?」
スクイは金髪翠眼。この世界では潜在的に得意な属性が身体的特徴として現れるのですが、金髪は珍しかったりします。
シュースは銀髪金眼。意図した訳ではありませんが対になった感じに…