お目覚めコールをお届けに
この主人公、結構いい性格してるかと。
「秋君、夢乃さん帰ってくる前に春ちゃん起こしておいでよ。その間に眠気覚ましのコーヒーでも入れておくからさ」
誉は私にそう言うとキッチンへと向かった。
私は思った。
昼近くなのに眠気覚まし。
春兄よ、君はいったいいつ寝たのかね。
それはそれとして、誉に言われたからではないが私は素直に春兄の部屋へと足を向けた。
どうせ母が帰ってきた時に春兄が起きていなければ同じことを頼まれる。
母の頼みを断る者は馬鹿である。
マザコン的な意味ではなく……ブルブル。
それに春兄は寝起きが悪い。
さっさと起こしに行った方が良いだろう。
春兄は普段目覚まし時計五つ使ってやっと起きている。
そのれでも駄目な時は親切心からエルボーという名の目覚ましコールをサービスしているが、何か?
部屋の入口から助走をつけて思いっきりジャンプして渾身の力で肘を叩き込むのがコツです。
妹の私は朝はきっちり目が覚めるのに、同じ母の胎から生まれた兄妹であるが不思議である。
今日は昼過ぎまで惰眠を貪っていたじゃないかって?
私は朝目が覚めるのではなく、この時間で目覚めようと思った時間で目が覚める体内時計が初期装備でついているのだよ。
つまりはうっかり惰眠を貪ってしまった、ではなく惰眠を貪ろうとして貪った、が正解である。
人間、時にはだらけることも大切なのですよ、うん。
春兄の部屋の前に着くと、ノックをしないでそのままドアを開ける。
ノックなど、聞いていない人間に対してしても無駄である。
因みに私の部屋に来る時にそれをしたらグーパンものだが。
しかし春兄は記憶装置に欠損でもあるのか、時々それをやらかしては私の渾身のグーパンをその身で受けている。
それでも痣一つこさえないので本当に頑丈な身体してるなと思うわマジで。
春兄の部屋のドアを開けると、そこにはカオスが待っていた。
いや別に不思議空間につながってるとかそんなんではない。
飲み散らかされたペットボトルやカップがあちこちに。
食い散らかした菓子の空袋やカスが散乱。
部屋中を埋め尽くす、人・人・野郎ども。
それらでうまって床が見えない。
暑苦しいむさ苦しいこ汚い。
まるで空気まで淀んでいるように思える。
早く換気をしなければ死んでしまう。
いや身体面ではなく精神面で。
こう見えて私、結構綺麗好きなのです。
換気をするには窓を開けるのが一番である。
しかし、窓はドアとは反対側、埋め尽くす野郎どもを越え、春兄が爆睡しているベッドの向こう側。
たどり着くには野郎を踏みつけて行くか、菓子袋を踏みつけて行くしかないわけなのだが……。
それなら選択肢がないも同じである。
ぐにっ。
「ぐえ!」
むにっ。
「げほ!」
ぎゅっ。
「がっ!」
げしっ。
「ごふっ!」
ガラッ!
私は勢いよく床に突っ伏して寝ていた野郎どもの腹や背を踏みつけるとベッドへとたどり着き、膝をベッドについて窓を開けた。
ふう。やっと新鮮な空気が肺に入ってくるね。
そして改めてベッドに腰をかけると、背後に視線をやった。
そこには腹や背を抱えうめいている野郎ども。
足から伝わる感触は、非常に軟らかいものであった。
私はふっと息を吐いて思った。
こいつら、軟弱にもほどがあるんじゃね、と。
次回兄登場なるか。