兄の親友
お待たせ致しました。
学校がない休日、私は昼近くまで惰眠を貪っていた。
いや、いつもの休日ならもう少し早く起きるのだけど、昨夜は久々オールナイトで志良以唯人シリーズのブルーレイの上映会をしていて寝たのが朝方になってしまったのだ。
この上映会、会場自室、主催者私、参加者私一人ですが、何か?
あくびをしながらぼさぼさ頭のままで部屋から出てリビングへ行くと、一人の男子がソファに座ってくつろいでいた。
まるで自分の家のようなくつろぎっぷりだが、兄ではない。男子と言っている以上、父でもない。
それは私に気がつくと、「やあ秋君。今お目覚めかい?」と微笑みつきで挨拶してきた。
その顔は私が今まで見てきたどの顔よりも整っている超美形。
イケメン三人衆も常々顔が良いとは思っているが、これは別格である。
そもそもタイプも違う。
池上は中身は三下子分のようだが見た目はスポーツ系イケメン。
篠倉はメンタル激弱ではあるが見た目はクール系インテリイケメン。
小原はあざとさ見え隠れ、というが隠してないが可愛い言動のアイドル系イケメン。
しかし、この男はイケメンというよりは、麗しいという表現がぴったりのミステリアス系の美形。その容姿にそのまま中身も比例しているのか、何を考えているのかわからない所がある。これでまだ高校生だなんて信じられない。まあ、容姿や体格自体は成年男子とは違う、少年らしさを残したところはもちろんあるのだが。
何か、身に纏う空気が普通とは違う。
まさに、魔性の男と言えばしっくりくるような。
仮に数十年後、伝説のホストとしてこいつの名前が語り継がれるようになったとしても私は決して驚かないだろう。
「どうしたの? 秋君。そんな所に立っていないでこっちへおいで?」
リビングの入り口で突っ立ったままの私に、まるで自分の家のようにそう甘い響きで声をかけてきた。
まあ確かに十年以上の付き合いでうちに入り浸っているこれからすると、自分の家とそう変わりはないのだろうが。
そして日常会話で声色にフェロモンバリバリの甘さを漂わせるのは本当になんとかしてほしい。
私は軽く溜息を吐くと、軽く視線を動かした。
ん? この部屋、こいつしかいない。
「あのところで春兄は?」
「ん? 春ちゃんかい? 春ちゃんはまだ寝てるよ」
何故我が家の住人である兄が寝ていてこれが普通にリビングにいるのか謎だが。
そしてこれはどうしてか男の春兄をちゃん付けで、女の私を君付けで呼んでくる。
昔理由を問いただしたところ、ものすごっく良い笑顔を浮かべるだけで答えてはくれなかった。
本当に何故だ。
「じゃあ母は」
「夢乃さんなら買い物へ出かけたよ。今日の昼はパスタだって。夢乃さん特製のパスタはすごくおいしいから、楽しみだね。もうすぐ帰ってくると思うけど、おなかすいたのかい? 我慢できないようなら何か簡単につくるけど、食べる? 夢乃さんにはかなわないけど、秋君の為なら腕を振るうよ」
「いやいいです結構です」
他人の家の母のことを名前呼びしたり、他人んちの台所を掌握していたりとツッコミどころ満載ではあるが、今更なので何も言うまい。
彼の名前は、二階堂誉。
私の兄、春の親友である。
兄より先に兄の親友登場。次回へ続く。