ボッチな私
お待たせしました。
私の高校生活を一言で表したら、ボッチである、の一言で尽きると思う。
しかし周囲が私をボッチと見るかは別物だとも思う。
まずは朝の登下校、人を兄貴呼ばわりする三人衆が常に、最低でも一人はへばりついている。
校内に入ると、あちらこちらから野太い男の「春先輩の妹さん、はよーっす」「春ちゃんの妹さん、おはようございます」「春っちの妹さん、おはよーござーす」「春君の妹の秋さんだ、おはよー」と声がかかる。
この春とはうちの兄の名前であるが、何故兄の呼び名がまちまちな割に私の呼び名が妹もしくは名前に「さん」付けなのかは解せない。
兄の友人や後輩という名の取り巻き・信者の数は非常に多く、あまりの慕いっぷりに妹である私への気遣いも半端なく正直うっとうしい。
声を返すのも面倒なので軽く手を上げるだけにとどめているが、それを見て三人衆が「あに…アキさんカッコいいっす!」「あ…アキさん、クールでしびれる!」「あに…いやアキさん、さすがスマートです!」と一々騒ぐのがやかましい。
ちなみに三人衆の「アキさん」は名前の秋のことではなく「兄貴」の略のことである。
校内兄貴呼ばわり厳禁にしたら、「そ、そんな! 兄貴を呼んではいけないだなんて!」「いや待て、兄貴と呼んではいけないなら最初のアと最後のキをとってアキさんと呼ぶのはどうだろう」「それは名案だ!」とわけのわからないことを頭を摺り寄せてうんうん頷きあっていた。
本当に一人でも煩わしいが、三人寄ると更に厄介なことこの上ない。
一度そんなに人を兄貴と呼びたいなら、いっそうちの兄に切り替えたらどうだと提案してみた。
実際に「兄」ではあるし、「男」でもあるし、他者よりの慕われっぷりも半端ない。
兄貴と呼び慕うにぴったりの人材であると思ったのだが……。
三人衆は真顔で「「「ガチなのはちょっと」」」と手を振った。
ガチって何だ。
閑話休題。
話は戻るが、私のボッチ高校生活だが、私に女友達はいない。
つか男友達もいない。三人衆以外は。
その三人衆の中で同じクラスなのは小原だけだが、基本こいつが常に私のそばから離れない。
移動教室などはもちろん、休憩時間ごとにおやつを持って寄ってくる。
下手をするとトイレまでついてこようとするのでその時はチョップで制裁を少々。
他二人も昼休憩には昼ご飯の誘いでマッハの速度で教室までやってくる。
こいつらのせいで私には他に友達が出来ない。
「池上―、今度サッカーの助っ人やってくれよ」「おー、暇だったらな」
「篠倉、今度の模試のポイントなんだけどさ」「後で要点まとめてやるよ」
「千鳥君、この間のお菓子すっごいおいしかったあ」「そ? じゃあレシピあげるねっ」
……私といるこいつらはめっさ話しかけられてはいるが……。
いややっぱりこいつらのせいだ。
男子三人に囲まれている女子など良い印象を持ってもらえるはずがない。
男を侍らせて悦に浸っている勘違い女だと思われていたらどうしよう……。
よし、あいつらしめるか。
など、そんなふうに考えていると、一人の女子のクラスメイトが近寄ってきた。
「あの、宮村さ……」
「はい何ですか何かごようですか」
「え、えと」
いけない、久々の女子からの呼びかけに興奮し過ぎ、勢いつけて反応し過ぎた。
私の食いつきっぷりに彼女がビビっている。
クールダウン、クールダウン、よし。
「で何か?」
「う、うん。あのね、現国のノートの提出なんだけど、私が回収する当番で……」
「ああ」
すっかり提出するの忘れていた。
私は慌てて鞄からノートを取り出した。
「申し訳ないすっかり忘れてしまっていて今からでも間に合いますかそうですか。お手を煩わせてしまって本当にすみませんではこれをお願いします以後は気をつけます。今回は声をかけて下さって本当にありがとうございます他には何かありませんか」
「う、うん。大丈夫。じゃあこれ、預かってくね」
女子クラスメートはにこりと笑うと私のノートを受け取ってそそくさと離れていった。
今日はクラスメートと交流が持てた。
これは数日振りの快挙ではないか。
しかも笑いかけてもらったし、本当にいい子だった。
名前わかんないけど。
うん、今日はいい日だった。
まだ一日終わってないけど。
これはそんな、私のボッチ(三人衆と兄関係者と教師陣除く)な高校生活の一幕である。
第三者の主人公への視点はまた別途。少なくとも主人公が心配している逆ハー女じゃないかと見ている人はいないのは確か。