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三人との出会い・その三

今回名前すら出てきませんが、三人目・池上登場。

「っ信じらんない! もうしらない! もう別れる! 次会っても声かけてこないでよね! バイバイ!」


 中学三年の心地良い秋の日のこと、公園で読書に夢中になっていた所、突然空気を切り裂くようなバシッという音と、完全にブチ切れモードのそんな女の子の声が耳に飛び込んできたので思わず顔を上げた。


 そこで目に入ってきたのは、肩を怒らせながら立ち去る女子と、頬を押え取り残される男子の姿だった。


 その様子から先ほどの音は女子が男子に向けて放った平手打ちのようだ。


 見た所どちらも私と同年配位の模様。


 それなのに真っ昼間公衆の面前で修羅場を演じるとはずいぶん進んでいらっしゃる。


 別の意味で感心していると、その男子は頬を押えたまま私の座るベンチにやってくると、腰を下ろして溜息を吐いた。


 え、何か嫌なんですけど。


 つか、普通そんな醜態見せたら恥ずかしくてすぐにその場から立ち去るもんじゃね?


 もしくはそれほどに慣れていらっしゃるのか。


 どちらにしてもここは公園のベンチで私の私物ではない。


 ベンチの端に座っている私の横には二、三人は座れるスペースはあるのだからその反対側の端に座られようとも私に文句を言う権利はそもそもない。


 嫌ならば私が席を移動すればいいだけの話なのであるが、ここにいるのにも理由がある。


 自宅は兄とその愉快な仲間達が煩すぎて出てきたので却下。


 あいつら部屋にまでおしかけてきやがるし。

 

 喫茶店やファーストフードの店は飲み物代が今財布に厳しいのでNG。


 わざわざ遠い図書館まで行く気力はない。


 そんな消去法でこの公園までやってきたのである。


 ベンチの数もそうたくさんあるわけでもなく、やっと空いてたここを見つけたのである。


(……まあ、そんなに長時間はいないだろうしな……)


 私はそう思いなおすと、隣の男子は無視して読書に集中しようとした。


 が。


「はあー、何がいけなかったのかなあ。……ねえ君、ちょっと話聞いてくれる?」


 こいつ、話かけてきやがった!


 これ以上ないほど思いっきり胡散臭いものを見るような目線を向けてやっても、その男子は顔を合わせた私に向けてにこっと笑った。


 ……駄目だこいつ、図太いか鈍いかのどちらかの人種に違いない。


「実はさ、さっきの俺の彼女……だったんだけど、怒らせちゃってさー」


 しかも是と言ってもないのに勝手に語り始めやがった!


「告ってきたのは向こうからだったんだけどなー。二週間前くらいだっけか」


 で、すでに破局って早っ。


「今俺彼女いないからオッケーしたわけなんだけど、女友達っているじゃん? 前からの約束だってあるし急に縁切りできるはずもねーし」


 ほうほう、彼女がいるのに他の女と遊ぶなんてって奴か。……テンプレだな。


「放課後はほとんどもう予約入れてたからさ、一緒に帰ったりとか遊び行ったりとか出来なくて。でもやっぱり先約は優先したいしさ。彼女できたからってそれ理由で断りたくねーし。友達も大事だし」


 まあ一理あるな。


「彼女もしぶしぶ了解くれたんだけどさ、じゃあ休みの日に初デートって決めたわけ」


 了承したんならよくね?


「だけどさー、その日の前日に好きなバンドのチケット直前で手に入ったからって女友達に誘われて。それすっげーレアなわけ。次行けるかわかんねーし、やっぱり自分な好きなものは譲れねーじゃん?」


 先約優先主義はどこいった。


「それ言ったら彼女超激怒! でも俺もそれは譲れなかったから必死で謝って何とか許してもらったんだけど、代わりに次の休みで誠意を見せろって言われたわけさ」


 ほうほう、それで?


「それが今日なんだけど、誠意っていっても何すればいいかわかんねーし。取りあえず、デートで定番の映画一緒に見て食事でもご馳走すればいいかって思ってさ」


 ほんと定番だな。


「映画チケットも前売りのが安いから、これ用意したんだけど」


 と言ってぺらりと見せたそれに私の目は釘づけとなった。


 それは、志良以唯人シリーズ新作の映画チケットだった。


 公開されたらぜひ速攻で行きたいと思っていたものの、ちょうど同時期に志良以唯人シリーズのブルーレイBOXが発売された。予約特典も魅力的だったが何分お値段が高い。しかし購入しないという選択肢はないのでもちろん手に入れたが、そのおかげでただいま金欠中。無理をすれば映画に行くことも可能ではあったが、一月の予算を遙かにオーバーしている現状に理性を総動員させ、映画は来月もやっているとのことで泣く泣く我慢していた。


 その映画のチケットが今目の前に。


「そしたら彼女、『お詫びがこれ? ふざけてるにもほどがある。何でこんなつまんないもの見せられなきゃいけないのよ。本当に悪いと思ってるの? 私のこと軽く見てるにもほどがある。もう信じられない』ってブチ切れて別れを宣言してきたわけ。なあ、これ俺が悪いって思う?」


 な・ん・で・す・と!?


 志良以唯人シリーズをつまらないもの呼ばわり!


 何て見る目のない彼女だ。


「彼女が悪い」


 私は断言した。


「だろっ!?」


 男子は嬉しそうに破顔したが、本当に本当だよ。






 志良以唯人シリーズをつまらんと評価する見る目のない奴だからこそ、男を見る目もなくてこんな男に引っかかるんだっつーの。

終わらないので三人との出会い・その四へ続きます。

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