どこでも生きていける男ども
今回も兄登場ならず。
ん? そういえば。
「昨晩そんな話をしていたのに春兄はともかくあの誉は何も言わなかったんですか? 普通に嫌味の一つや二つや十二十は言ってきそうなものですが」
そこ不思議だったんだ。
あの男、自分の話題で総スルーするはずがない。
もしスルーするとしたら、これ以上ないほどの威圧オーラ満載のキラキラ笑顔で相手の方がスルー出来なくなるってもんだ。
「あ、それはですねー」
「春先輩と誉先輩はその時にはもう寝てたんですよ」
「寝てたってここで?」
春兄のベッドはシングルでとても野郎二人が横になれるもんではない。まあギューギューにつめればいけるだろうが……。
「いやー、春っち先輩はまあ昨晩突然電池が切れたようにベッドで大の字になって横になったんスけど」
春兄は寝たら最後である。
呼んでも泣いても踏んでも叩いても滅多なことでは目を覚まさない。
イビキが煩い時は渾身の力で頭を殴ればいったんはおさまるが。
しかし大の字になったのであれば、なおスペースはないだろう。
「そしたら、誉先輩もじゃあ僕もそろそろ寝ようかなって言ってさー」
「そうそう、ベッドの端に腰かけて、優雅に腕と足を組んだ後目を閉じたと思ったら」
「ほんとにそのまま寝てるんだもんなー。目の前で本当に寝てんのかなって思って手をひらひらしても変化なかったし。その後俺達寝るまで微動だにもしなかったし。あの人、寝てる時まで乱れないんだよ、すげーよ」
「なー、超カッコいいよなー」
子分どもはキャッキャと乙女のようにはしゃぐが、私はげんなりとした。
あの男はきっと今後俳優だろうが医師だろうが警察だろうが弁護士だろが、どんな過酷な忙しい職についても飄々としてやっているけるんだろう。どんな場所でも眠れる図太い神経があればモーマンタイ。
そして狭い汚い部屋で雑魚寝が出来る目の前の子分らもどんな過酷なタコ部屋やドサまわり環境に放り込まれてもきっとモーマンタイ!
「……まあもういいですよ。それよりそろそろ昼食ですから下に下りてきてください。お帰りになるなら玄関へどーぞ」
「「「「「「ゴチになりまーす」」」」」」
…………誰一人帰る気はないらしい。
次回は兄お目覚めなるか、は未定。




