The loss of...
蹲る一人の10歳にも満たないであろう男の子。
罵詈雑言を浴びせかける周りの者達 。
毎日のように続くこの光景はその男の子の心を段々と磨り減らしていった。
中学に入れば改善されるのではないかと希望を持っていたことで、なんとかその精神を繋ぎ止めいていたものの、結局その行為がやめられるということはなく、
その男の子は、自己を守るために、いつしか心を喪っていた。
感情をなくした僕にはそういった行為をする気もなくなったのか、いつしか僕は孤独になっていた。
周りからの好奇や嫌悪といった視線もその時の僕は、全く意に介さず、ただただ日々を過ごしていた。
こんな日常は高校生まで続き、
高校2年生のある日、担任の先生から呼び出された。
「君の家が火災にあった。全焼だそうだ。君の母親は家の中で焼死体となって発見された」
僕は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
僕には父親がいなかった。
父は僕が幼いときに、事故にあい、不運なことにも母と僕を残して死んでしまったのだ。
しかし、母は、はじめは酷く悲しんだものの、直ぐに立ち直って何とか僕を育てようとした。
母はいじめにあっていたときの僕の唯一の心の支えであった。
僕がどんな傷を負って来ても、母は深く追及せず、そっと僕を抱きしめてくれた。
そのおかげか、いつも母にだけは笑顔を見せることができていた。
しかし、毎日のように繰り返され、希望を失った僕の心は、いとも簡単に折れてしまった。
その頃になると、母さえも僕から離れていってしまった。
毎日僕の姿をみているのは辛かったのかも知れない。
そして、遂に夫を失い、そして我が子をも失ってしまった母は堪えることができなくなったのだ。
母を失い、そしてその母と過ごしてきた家もなくなってしまった今、僕には何が残されているというのか。
家はなく、安心して頼ることのできるひともいない。
学校に行けば皆に疎まれるだけである。
そう暗澹たる気持ちで歩いていると、いつしか家の前についていた。
僕にはもう何もない。
何をしようとも思わない。
いや、最後に母の死を教えてくれた先生に挨拶をしてこよう。
そうして、僕は鉛のように重くなった足を学校へと向けた。
日はすでに沈みかけている。
早く行かねば、先生が帰ってしまう。
沈む気持ちをなんとか繋ぎ止め、歩いた先には職員室と書かれた札があった。
「失礼します。
先生、先程は、母の訃報を知らせていただき、ありがとうごさいます。
母を亡くした今、僕はここで生活していくことはできません。
今までお世話になりました」
そう先生に告げ、職員室をでた。
もうこの世には今や僕の係累となりうるものはない。
そして階段を上っていく。
最上階にたどり着き扉を開け、外に出る。
ふと、空の景色を眺めると、赤く、紅く染まった夕陽が今にも消えてしまいそうで、何処か儚さを、感じさせる。
最後にこの景色を見ることができてよかった。
屋上にある安全柵を乗り越える。
そして、その儚く美しい太陽を目に焼きつけて、僕の意識は暗転した。