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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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巌窟神父



整備された区画も通り過ぎ、再び溶かされ作り出された坑道の風景へと変わっていく。

音との距離は徐々に近づいていた。


「ハシン、距離と位置はどうです?」

「待て」


反響する足音からこの先の空間を認識する。小部屋が少々あるもののもうこの先は殆ど一本道だった。

小部屋は恐らく投薬兵を作り出すための作成部屋だろう。

最も奥に巨大な部屋があるものの、その前には扉があるため内部までは分からなかった。

戦闘の音はその一本道の中ほどで発生している。


「一本道、中間で戦闘………人数は投薬兵が二つか」


侵入してきた兵士たちの人数は細かくは分からなかった。乱れの少ない足音から、統率がしっかりととれているようだということだけは分かったが。

この通路が今までの場所とは違って一本道なのは、投薬兵を製造箇所からすぐさま出して迎撃させやすいようにするためだろう。

知能の低い投薬兵では、通路を複数に分けて戦力を分散された場合対処できない。

本来、戦場を動かす軍師等の立場にいるモノならばそういった扱いにくい兵士の使い方も熟知しているのだろうが、兵士ですらない人間ではそうはいかないだろう。

結果として、代り映えのなく戦わせやすい通路の形状が選択された。


「お?あは~、見えてきましたね~」

「やはりあの男だったか」


丸太のような腕が振るわれ、空気が揺れる。

しかし、竜巻のようにぐるりと周囲を巻き込んで振るわれたはずの腕は何に掠ることもなく、すぐさま距離を取った歩兵たちからの一斉射撃を受け、外部に露出している目や耳を始めとした重要器官に向けて弾丸の雨が降った。

投薬兵はその痛みに吼え、暴れた後にその痛みの発生源である歩兵たちに怒りの視線を向けるが―――その直後、首に鋭い刃物が当てられ、大量に出血する。


「おや、お二人とも。遅かったですね」


刃はカソックに仕込まれた、やや短めのエストック。具体的な刃渡りは一メートル程度であろう。

この武器は先端が細くなっている、刺突向きの刀剣だがもちろん斬撃も行える。

そんな武器をどうやら複数本服の下に仕込み、戦闘を行っているようだ。


「ははは、近道をしたあなたと違って私たちは普通に正面から乗り込みましたので」

「暗殺者が正面からとは、不思議なことをしますね」

「………あはは」


若干ではあるが、衛利がそう言葉を発した男………街で出会い、住む場所を貸してもらった神父へと警戒を強める。

敵対まではしていないが、背中を預けることはない程度の危険度は認識したというわけだ。


「王は俺の獲物だ。誰であろうと渡さない。いいな」

「ええ、結構。私は退役軍人ですから。気ままに神父をしていたというのに………久方ぶりに将軍より呼び出されたと思えば、命じられたのはくだらない土竜狩り。我が国の技術を流用していることと、臆病ゆえに無策で狩りに行くわけにもいかない………あなたたちが来てくれて助かりました」

「―――なに。パライアス王国からの指示だと?」

「というよりは情報と技術の流出を防ぐための口封じ、ですかねぇ。神父さん、元は軍隊の中でも結構な地位にいたんじゃないですか?」


それは確かに、十分にあり得る。

退役軍人でありながらパライアス王国の将軍と接点(コネ)があるというのは、余程の功績がないと成し得ない。

あの渓谷都市で一瞬だけ顔を合わせた、盾を持った大男を思い出す。

………”長老たち”に匹敵する戦力を持った、戦場の支配者。パライアス王国には三人の将軍がいるというが、あの盾男はそのうちの一人。それから指令を受けたのか、はたまた別の人間からの指令だったのかまでは俺にはわからないが。


「目的が被らないならば敵対する必要もない。余計な首を突っ込む気もない。俺たちは先を進み、お前たちは投薬兵を相手にする。それでいいだろう」

「あの男は逃げ足だけは速い。逃がせば罰としてあなたを殺しに行きますよ、暗殺者」

「そうか」


安心しろ、最初から逃がすつもりはない。


「そういえば、神父さん達はどこから入ってきたんですか?」

「ほほ、街の機密事項ですよ」

「ああ………そうですか~」


教える気がないことを悟り、速攻で顔を引っ込めた衛利。

無理に聞けば戦闘に発展するだろう。なにせ緊急の避難場所へ入るための誰も知らない特殊通路など、重要機密中の重要機密である。

防衛時にその情報が敵に漏れれば籠城など成立しないからな。


「どうでもいい話だ。行くぞ」

「は~い」


そう促し、老齢を感じさせない剣捌きで起き上がった投薬兵を切り刻む狸神父を置いて先へと向かう。

………背後から数人、こちらを銃で狙っているのには気が付いていたが、発砲するまでは敵とはみなさない。結局通路の奥、射程範囲外へと俺たちが出るまで、警戒はされていた。

ちなみに、神父たちが侵入してきたのはあの居住区の天井からだ。ああ、天井と言っても木の梁などによって巧妙に隠された出入口からである。

街の上では枯れた水路に見せかけてあるものや橋の下などに見えないように入り口が作られている。

先日、街を訪れた際によく見れば石の煉瓦の幅がおかしいものや、どこへつながっているかわからない、つまり存在するのがおかしい不使用の水路があった。

音の響きによって得られた内部の地図と街を歩いて己の頭の中に描いた地図を組み合わせれば、その不自然な箇所に音の先がつながるというわけだ。

もちろん、言わないが。知っているということを知られては、戦闘になる。

無駄な戦闘にまで付き合っていられない、俺は戦闘狂ではないからな。


「衛利、これから隠れて進む。いいな」

「え?難しいこと言いますね?」

「忍ぶものならそれくらいやれ」


走っていると、硝子も嵌められているしっかりとした造形の小部屋がいくつか見え始め、中に巨大な肉体を持った投薬兵が見えてきた。

先程神父たちが戦っていたものよりも一回りほど大きい図体は、投入された薬剤の量によって変化が生まれているのだろうか。もしもそう言った理由ならば、活動時間も少なそうだが、まあいい。

分かっていることは、相手をすると面倒臭いということだ。

主目的ではない投薬兵は後ろの神父たちにすべて任せ、俺たちは静かに、的確に王を仕留めに行く。それでいい。


「………む~、分かりました。でも、先にお手本見せてくださいます?」

「ああ。元より先に行くつもりだったが」


隠密が苦手な人間を先に行かせるものか………さて。

大きな広間、左右に小部屋。小部屋内からの視界は良好で、投薬兵が俺たちを確認したのであれば即座にこちらに向かってくるだろう。さながら狂犬の如く。

―――だが、上部、特に天井には意識は向かないだろう。幸い、この坑道は足りない阿片栽培所などがあった坑道前部よりも荒く、薬剤で無理矢理に溶かしたかのような出来で、上部は特にがたついていた。ならば、これはロッククライミングと似たようなものである。

天井に握力だけで張り付いていたハーサと似たことは出来る筈だ。


「………ッ」


足に力を入れ、飛び上がる。そのまま天井を掴むと、腕にも力を入れて重力に逆らって天井を這う。


「わぁお!あは、面白そうです♪」


見た目が面白ければ衛利も釣れる。精神的に苦手なだけで、技術技量は十分あるのが衛利だ、興味さえ持たせればいくらでも行動させられる。

小さく地面を蹴り砕きながら跳んだ衛利は、俺と同じく天井を掴んで這うと、重力に従って反対方向に垂れる髪も気にせずに俺に笑いかけたのだった。

………かくして、俺たちは静かに、投薬兵に気が付かれずに天井を進む。まあ、外から見た光景は相当間抜な二人組として映りそうだが。


「ふふ~ん♪」


衛利自身は楽しそうなので、放っておく。俺としてもこちらの方が効率的なのでな。


「さて。大扉が見えてきた」


”王”との戦いも近いだろう。












風邪が………皆さんもお気を付けください………

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