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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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狡狸侵入



***




「それにしても王はどこに行くんですかね。この奥って多分街の中でしょうけど」

「さてな。戦力を掻き集めに足掻いているのは間違いないが、投薬兵だけでは俺たちを止められないのは流石に理解しているだろう」


諦めている様子がないため、何かしら別の戦力の当てがあるのだろうが、それがなにかまでは分からない。

俺たちが走っている道はその多くがきっちりと、先程投薬兵と接敵した場所よりも精巧な装飾が施されており、居住区域として十分すぎるほどに整った部屋ばかりとなっていた。

それがどれほどかと言えば、土をくりぬいたなどというものではなく、木材を利用して梁が取り付けられていたり、鉄が打ち付けられた頑丈な扉が存在する部屋すらある。窓は流石にないが、小さな銃や弓を撃つための格子はあるため、この場所は恐らくは対人防衛戦を想定して作られているのだろうということだけは理解できた。

無論のことながら、投薬兵がその部屋の中に納まっている様子はないため、王が起動させるつもりの投薬兵はさらにこの奥にあるとみて間違いないだろう。

まあ、戦術的に間違ったことではない。街、或いは国として保有している戦力を防衛に回すのは基本の思考であり、あまり知能が高くない動物兵に近いあれらを効果的に防衛手段として運営するのならば、なるべく都市の奥の方に製造拠点を作り、そこから兵力を供給するのが正しい。

投薬兵の場合はそもそもとして防衛戦に向いていないという致命的な点はあるのだが、敵に製造拠点を奪われるよりはマシなのだろう。

戦闘教義(ドクトリン)は個々の国ごとに大きな差があるため断定はできないがな。


「む………」


嗅覚が土煙の匂いを感じる。

その瞬間衛利に合図をして、俺たちは急停止した。


「こんな場所で土煙の匂いだと………炭鉱でもなく、万物融解剤で無理矢理に貫通させ、硬質化した壁のこの坑道で」

「ハシン、空気の流れが少し変わりました。幾つか上へと空気が流れていっているようですね。多分そこから土が流れ込んでにおいが充満しているんでしょうけれど―――あは、いったいこれはどういうことでしょうね~?」


悪戯っぽい笑顔を浮かべているあたり、お前はもう何が起こっているのか理解しているだろうが。


「侵入者だ。俺たち以外のな」

「ですよね~♪ふふ、どうしますか?急がないと先を越されてしまいますよ」

「分かっている。………ふむ」


敵の敵は味方と言いたいところだが、多くの場合は敵の敵ごと敵として焼き尽くすのが戦争である。

しかし、だ。ただの侵入者としては少々気になる点もある………空気がいきなり上に逃げていったということは、新たなる侵入者はこの坑道の上部から入ってきたということに他ならない筈だ。

だが坑道の設計時にそんな侵入者が簡単に入ることのできる穴を不用意に作るだろうか。

答えは否だ。既に開いている空気穴では土煙の匂いがしないため、恐らくは普通の人間では近づけない箇所に作られているのだろうと推測できるが、それ故に今回の侵入孔は王がこの坑道を作ったうえでは想定もしていないものであることが理解できる。


「―――いや。そうか、成程」

「はい?どうしましたか、ハシン」

「いや。侵入者が何者か大体察した。敵対はするが殺し合いにはならないだろう。先に進むぞ」

「あ、はーい。ちなみに誰なんですか、侵入者って」

「会えばすぐにわかる。ふん、確かに利害は一致したな」


狸めが、どこかで俺たちの動向を監視していたな。

本人の視線ならばともかくとして、他人を介した殺気を持たない視線までは、現状の俺では気が付けない。変装時の姿を知られた状態で動いていたのだ、無数の目から動きや情報を盗むのは簡単だろう。

尤も、リスクにならないとして王以外の勢力は眼中になかったのも視線に気がつかなかった理由の一つではあるが。

再び走り出すと、周囲に視線を走らせた。さらに頭の中にこの街の地図と今まで歩いてきた地下坑道の道筋を描き、照らし合わせる。やはりそうか、既に坑道は街の中央部に近いところまで来ている。共同墓地が入り口であったというのにな。本当に蟻の巣のように張り巡らされているものだ。いや、街を家屋とした場合、この坑道は最早蟻ではなく真に土竜の巣穴と言えるだろうか。まあ、どうでもいいな。というよりどちらでもよい。

さて、坑道の移動から逆算した現在位置を、街の地図と照らし合わせるとこの坑道内の住居には別の意味合いが付加されるのが分かる。


「道理で部屋の中に投薬兵がいないわけだ」

「………ああ、なるほどです。ここ、地下に作られた戦争時の避難場所なんですね。王はそこから共同墓地に向かって新しく坑道を繋げた、と。道理で途中からきちんと建物として設計されていると思いました」

「先にあったものだから投薬兵を作り出す設備としては使えなかったのだろうがな。この地下避難場所の奥に別の部屋を作らせているはずだ」


先の研究区画よりも頑丈なつくりである、投薬兵が暴れてもこの部屋はしばらくは壊れないだろう。そうなれば貴重な活動時間を消費するだけである。

………そういった理由から投薬兵をここに配置していないのは納得できるのだが、恐らくは自分の住む部屋も、王はこの地下避難場所には用意していない。不思議なことに、な。

部下を住まわせなかったのは裏切りを恐れる小物さからだろう。これほど近い距離で反乱されれば即座に己が負けると理解しているのだ。己が住まないのは、避難場所に身をひそめるなど気に入らないというプライドからか。結果、無駄で非効率な新しい部屋を作るという行動をした。


「土の匂いが濃くなった。外の空気が流れてきているな」


侵入者が入ってきたのはこの付近ということか。走りながらも周囲環境に目を配る。

衛利が少し先の道を指さし、痕跡を発見したことを伝えた。


「ハシン、足跡です。一つは王のものでしょうが、それ以外にも複数の足跡が」

「これは軍用の靴だな」

「ですねー。………あ~、侵入者ってあの人ですか!確かにここが避難場所であるというのであれば、部外者である王が知らない、設計図にも載っていないような秘密の入り口を幾つか知っていてもおかしくないですもんねぇ」


衛利の言葉に頷く。そういうことだ。


「まあ、先にこの場所を見つけ、王を追い込んだのは俺たちだ。獲物を譲る必要はない」

「あは~、そうですねぇ。………見つけたら侵入者一団も殺しても?」

「時と場合だ。明らかに敵対行動をとったら殺せ、だが危機的状況なら助けてやれ」

「了解です」


恩を売れるならば売っておきたいのでな。

暗殺で相手にする者たちは、今回のように素直に演技や技術だけで潜入させてくれる優しい奴ばかりではない。細くとも楔を打ち込み、利用できる人間は増やしておきたい。


「避難区画も抜けた、もうすぐに―――む」


整備された避難用の住居群を抜け、再び無骨というよりは、区画だけが整えられた無装飾に近い道に入った瞬間、俺たちの耳に久方ぶりの轟音が響いた。

次いで、銃声。この世界では俺のいた時代から見ればかなり旧式に分類されるものとはいえ、すでに銃が発明されているのだが、多くは威力や精度が共に低く、戦争の主力には到底なり得るものではない。そもそも”暗殺教団”の”長老たち”を始めとして、人間をやめているのではないかという連中が多いため銃よりも剣の方がまだまだ圧倒的に強いのだ。

それでも、銃は牽制には使える。一般兵には明らかな脅威であり、運用法をきちんと考えればジャイアントキリングを可能とするれっきとした兵器なのだから。


「最初の音が投薬兵、次の音が侵入者でいいんですよね」

「ああ」

「それにしても銃ですか………まあ、細い道で対人なら効くでしょうけれど、投薬兵には効きますかねぇ」

「知らん。が、一斉射撃ならば別かもしれない。それに、だ………銃だけとは限らないだろう?俺たちも様々な武器、暗器を使うのだ。銃は攻撃手段の一つに過ぎない」


一応そうは言ったが、投薬兵に効果が在るかは俺自身も大いに疑問であるのだが、それはさておく。

さて、音が近くなってきたな。果たしてこの先………鬼が出るか蛇が出るか、というやつか。

何が出ても障害になるようであれば首を断つだけだが。王は俺が殺す、これは確定事項である。誰にも余計な真似はさせない。



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