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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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接触接敵




***





煙が抜けていく。様々なものが焼けこげる悪臭を背に俺たちは蟻の巣のような道を駆けていく。

この悪臭は空気を伝わり、そろそろあの王の鼻にも届いている頃か。

今頃は急いで状況を理解しようと躍起になっている頃だろう。


「分かれ道です、どっちでしょうか」

「左だ」


反響する音が向かうべき道筋を脳内に描き出す。盲目者は自身から出した音と反響し返ってきた音を聞くことで周囲に何が在るかを明確に理解することが出来るという。何度も俺がやってみせているのはそれだ、つまるところの蝙蝠やイルカと同じことというわけだな。

生物の行動というものは参考に出来ることが多い。人間に元から備わっていない器官であっても、音や感覚器を他の道具や技術で代用できるのであれば、問題なく使用できるのである。


「ほ、と、よっと」

「………先程から撒いているのは撒菱か」

「はい。こうして分かれ道に撒いておけばどちらに進んだかを誤魔化すことも出来ますからね。まあ内部構造を知っているのであれば当然こちらに来るとは思いますが」


念のためというやつか、確かに衛利は向かわない右の道にも撒菱を投擲し、あたかもあちらにも走っていったかのように偽造していた。

ふむ、成程。攪乱にも使えるのか、あれは。便利なものだ。

設置型の兵器は先も使用した地雷も含めて、暗殺者からしてもえげつないと言わしめるものが多い。

物理的に侵攻を遅らせ、精神的にも踏み入れがたい雰囲気を作り出す。実際に被害にあえば四肢を捥がれることだって普通にあるのだ、どうにも攻められなくなるのは当然だろう。

やはり忍者は中々にやり手だと思い直しながら進んでいると、いくつかの岩盤をくりぬかれて作られた石室が見えてきた。

石室と通路の間には鉄の棒が打ち付けられており、出入りは封じられていた。精々できて腕を伸ばすだけだ。


「また牢屋ですか。好きですねぇ」

「阿片中毒者の隔離施設のようだな。いや、一時施設か」


どちらも意味は変わらない気もするが。


「こちらには男しかいない。投薬兵の素材として扱われているのだろう」

「頭がスッカスカでもさらにスカスカの投薬兵になっちゃえば変わりませんしねぇ。そもそも投薬兵自体、麻薬並みの薬剤で脳みそぐちゃぐちゃにしますし。麻薬そのものじゃないですけどね~」

「………ふむ、そうなのか。俺は細かい製作法までは知らないが」


専用の薬剤までは学習外だった。

知ったところで使う必要のない技法ではあるがな。話を聞く限り廃人にするだけであり、拷問や尋問に仕えるわけではなさそうだ。


「だが、これだけの数の素材(・・)が閉じ込められているということは―――そろそろだろうな」

「作成施設も近いですよねぇ。………あは、ハシン。いいこと考えたんですが」

「なんだ」

「ここの囚人たち、全員解放してあげません?」


悪戯好き丸出しの表情で笑う衛利。

囚人ではないと思うがという心の中での突込みはさておき、その提案は一考の余地があるな。

この隔離部屋の中に押し込められているのは、投薬兵となる前の麻薬中毒者たちに他ならない。一人一部屋、俺の世界の牢屋よりも狭い部屋でこちらを見て呻いたり、頭を抱えているのは明らかに薬が切れたことを示している。

これらを解き放てばどうなるか。もちろん俺たちの方にも多少の害はあるだろうが、基本は嗅ぎなれている筈の麻薬の煙が漂うあちら側に向かうことだろう。

現在進行形で俺たちを追跡してきているであろう、追手の兵士たちの方へ。

一瞬目を閉じてそれらの思考を済ませ、衛利の意見を肯定するとナイフを取り出した。


「ハシンならおっけーしてくれると思っていましたよ♪」

「そうか。楽しそうで何よりだ………時間に余裕はない、走り様に斬っていくぞ」

「はーい!」


道の両側にある牢屋を高速で走りながら上部と下部、即ち天井と床に繋がっている棒の付け根部分を切り落とし、出入り口を量産していった。

まるでゾンビと称された中毒者たちは緩慢な動きで隔離部屋から出ると、しばらく周囲をだらだらと歩いた後に大体の数が煙のやってくる方角へと向かっていった。

中には見た目は少女相応の俺たちに襲い掛かろうとする阿呆もいたが、それらにはすぐさま永眠してもらう。


「あぁ………ぅ、ぁ………」

「呻き声がうるさい」

「ひぃふぅみぃ、えっと三十ほど牢屋があったんですね。閉じ込められている人数は十八人でしたが」

「残り十二人がただの欠員かどうかだな」


流石にそう甘い考えは許してはくれなさそうだが―――ガツ、ガツ………と重厚な足跡が奥の方から迫ってくる。

それも複数個だ。これだけ妨害工作を進めていれば最早隠密など出来る筈もないので対策をされるのは当然といえた。

それでも、隠密性を犠牲にしても通っただけですぐさま破壊しておかねばならないものが多すぎたのだ、後悔はしていない。面倒とは思っているが。

暗殺者は基本、暗殺対象を殺めればその時点で配下には気が付かれる。どれだけ隠密に徹しようとも、目的を達成した時点で賊がいるということはばれるのだ。

そうなれば内部に戻って破壊工作をやり直すということは出来ない。今、ここで壊す必要があった。


「衛利。身体は温まっているか?」

「とっくにですよ。ハシンこそ大丈夫ですか?」

「ああ―――問題、ない」


ナイフを取り出し、逆手で握る。直後………軋むような轟音を立てて坑道が破裂した。

破裂した箇所は隔離部屋エリアを超えた先、くり抜かれただけの洞窟から一転研究所のようにきちんと区画され、ある程度床や天井、壁に手が加えられて多少の装飾すらされている部屋であった。

もっとも、残念なことの装飾のために削られているからこそ、耐久性には若干の難があり、今こうやって巨大な腕によって穴があけられてしまったのだが。


「―――ァァァアアアアアAAAAAAAAA!!!!!!」

「あは!ようやく来ましたね!」

「ああ。さて………ここからは殺し合いの時間だ。存分に暴れるとしようか」


まず、影は二つ。腕や足に金属の鎧を取り付けた巨躯………戦争用にカスタマイズされた投薬兵が、口から黄色く濁った涎を垂らしながら俺たちを睨みつけていた。

首の後ろには折れた巨大な注射針の欠片が刺さっており、先程まで待機状態だったことを理解させる。

それももう既に落下し、傷口が修復されているが。


「あの、えーと………王サマが作り出したんでしょうか?」

「いや、侵入者の気配に応じて自動的に生成される門番的なものなのだろう。半覚醒状態であれば足音などにも反応して活性化する筈だ」

「ああ、前にもいたやつですね。あれは後続処理に役立たせてもらいましたが」

「残念なことに、今回はここで潰さないといけないな」

「そうですぇ、あは………残念です♪」


まったく残念そうに見えないが。まあ、いい。

活性化した理由は今回の場合、俺たちの足音ではなく煙や中毒者たちの足音が主な要因だろう。暗殺職に就いている人間は仕事の最中、基本的に足音を立てることはない。激しい戦闘中は別としてな。

それにしても鎧か。いや、不完全な籠手や具足に近い物であり、騎士が纏うような重装甲の鎧ではないにせよ、投薬兵という戦車のような存在に鎧を取り付けているというのは少しだけ厄介だ。


「………む」


眼前で首を揺らして威嚇を続ける二体の投薬兵、奴らとは別にきちんと人間の形をした気配を感じた。

それはその装飾がなされた部屋のさらに奥から現れ、一瞬―――視線が交わった。


「そこか。約束通り、殺しに来たぞ」

「―――ッ!?」


声の通じる距離ではない。しかし、殺気はきちんと伝わったらしい。

冷や汗を噴出させた男………王は、瞬時に踵を返し、奥の部屋へと逃げ去っていった。

ふん、逃がすか阿呆。すぐに追いつく。


「衛利。遊びすぎるなよ、殺さないとならない人間が逃走中だ」

「分かりました、つまりあれですね?どちらが先に倒せるか勝負ということですね?あは、やりましょう!」

「………お前。戦闘狂過ぎるな………まあ、いいが」


逃げた王の次の行動は、作成途中の投薬兵を起動させて戦力を増やすことだろう。

奴の凝り固まった奇妙なプライドが、単純にここから一目散に逃走することを許さないのだ。

無駄に力を誇示しようとする。しかしながら………基本の性根が小物だ。普通、自身で現状を確認しようとするか、阿呆。配下を使え、指示を出すべき人間が自身の都合のみで動くな。

暗殺云々はさておき、その他に関わることで色々と言いたいことは多いが溜息一つでそれらを忘れると、意識を集中させた。

さて、では殺しを始めよう。





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