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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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焼滅芥子




***




と、そんな風にして大仰にして見たところで俺のやることは変わらない。

ついでにこれらも壊しておくか、その程度だ。


「さて衛利。ここに先程の部屋から持ってきた火打石といくらかの火薬がある」

「あは、いいですね~。盛大に燃やしますか」

「ああ。………心配事といえば空気だが」


もちろん火を使えば酸素を消費する。そして酸素が無くなれば基本的に人間は死ぬ。

洞窟や炭鉱など密閉に近い空間で貴重な酸素を消費すれば全員共倒れという心配もある。

指先を舐めて空気に触れさせた。本来は風向きを調べるための方法だが、空気が流れているのさえ分かればいいからな。

流れていればどこからか供給されているということだ。そして流れが強ければ、流入量を計算し燃やしても良いかどうかが推測できる。


「十分か。この洞窟を作り出す際にどこかしらに空気穴を作っているな」

「洞窟の奥底になればどうしてもいりますからね、空気の通り道は」


人工の洞窟と天然の洞窟の最大の差はその空気穴だ。

自然に形成される洞窟は大体が浸食作用によって生成されるものなので、必ず自然に空気が入り込むだけの隙間がある。

しかし人工洞窟は無理やり岩盤を外側から一方向に向けて削ったものであるため、外へ通じる穴がそこしかないのだ。これでは空気が通らない。

よって、もしも地下で継続的に生活するつもりであるならば、空気穴も自分たちで作らなければならないというわけである。

流石にそれを作らずに勝手に死ぬほど阿呆ではなかったか、残念だ。


「では綺麗さっぱり燃やし尽くそう」

「手伝いまーす」


二人で規則的に火薬を撒いていき、炎が効率よくアヘン芥子を燃やせるようにした。火薬も無限にはない、ある程度燃え広がったらあとは放置するしかないが、一方から馬鹿の一つ覚えのように燃やすより計算して炎を配置した方がずっと広範囲を焼き尽くせる。

火打石を打ち金で弾き、火花を起こすと火薬に小さな火が灯り、徐々に巨大になっていく。

撒かれた火薬はつまるところ導火線だ。どこかのゲームでもあったような赤い石の粉に光が灯っていくのと同じように、火はそれを辿ってアヘン芥子の栽培畑を取り囲む。


「灯油かガソリンでもあればよかったのだが」

「灯をともすための鯨油をお求めならば、是非お祖母ちゃんの隊商までどうぞです」

「商売をするな。第一ここで買い求めても流石に今手に入れることはできないだろう」

「分かりませんよ?なにせ私のお祖母ちゃんですから」


………魔女、か。

一体魔術を扱うという彼女たちは、どれほどのことが出来るのか。


「まあいい。いくぞ―――これだけ大きな炎が発生すればあいつも静観はしないだろう」


これで動かないのであればあまりにも希望的観測に頼りすぎている。

そのきらいこそあるがな。それでも”秘薬の王”は科学研究を行う組織だ。現実的に考えるということは刷り込まれている筈。

ならば。あの女では止められなかった敵対存在がいる、ということを理解したのであれば、護衛や通常の兵士以外の戦力の用意を行うのが当然の行動というものだ。


「煙は流れていますしね。奥へと行ってるので………あの人の住居の近くにあるのは間違いないでしょう」

「自分第一の男だ。違和感はない」


寧ろ自分さえ生き残っていれば何とでもなると思い込んでいる、だが。意味に然したる差はない。


「………な、なんだこの炎は………?!」

「消せ、速く水を持ってこい!」


歩いていると畑の隅に木製の乱雑なつくりをした、しかし巨大な小屋があった。

中から声が聞こえてくるため、恐らくは畑の管理者たちの詰め所なのだろう。今更気が付いたところを見るに相当怠けていたようであるが、まあこれほど徹底的に隠された基地だ。

侵入者の想定を兵士たちがしていないというのは仕方のないことである。

後方でゆっくりと食事をすることが出来る兵士と前線に常にいて眠ることすら満足に時間の取れない兵士、どちらの練度が上かと問われれば後者である。

ある程度危険と隣り合わせの方が、戦の感覚は研ぎ澄まされる。どちらが健康かはさて置いて。

常在戦場の概念に辿りつける人間はそうはいない。やはり戦をするならば鉄火場にいるのが一番というわけだ。


「駄目だ、消火なんて想定してない………全然足りない!」

「クソ、こうなったら飲み水も全部だ!ここが火事になったなんて知られたら俺たちも素材送りだぞ!?」

「そう、だな―――わ、わかった!」


常在戦場以前の問題として兵士のモチベーション自体が最悪に思えるがな。

恐怖で縛り付けた兵士に最高のパフォーマンスを求める方が間違っている。

―――そういうわけで慌てふためいている兵士が炎の前に立った瞬間、後ろから近付いてナイフで喉を裂く。

そしてそのまま炎の中に放り込んだ。

パニック状態の人間では例え訓練されていても急に背後に現れた感覚には気が付けない。炎が光源となっているため影で発見することも出来ないしな。


「あれ、さっきのナイフと違いますね」

「これは通常の投げナイフだ。正確にはダガーと称されるものだが。先程のものはこれに改造を加えただけでしかない」

「ああ、そっちが元だったんですね」

「あれは隠し持つために色々と犠牲にしているからな。一度ナイフと打ち合えばそれだけでバラバラになってしまう」


なので既に髪の中に戻している。

スコットランドではダークと呼ばれる独特のダガーが存在しているが、俺の持っているダガーはそれに形状が似ている。

根本的にダガーには鍔がないので刺突には向かないが、ただの人間ならば薙いで切り裂くだけで死ぬので問題はない。

ちなみに言っておくとあくまでも似ているだけであり、細かな所では差異がある。もともとダークは日常使用されていたといわれている刃物だ。暗殺に用いられるものは見た目こそ日常でも使えるものに近いが、重心などに違いがあり、俺のものは安定して長距離を投げられるようになっている。


「おい、まだか!どんどん燃え広がって―――ッ!?な、なんだおまぇっ」


静かに投げられたそのナイフがバケツを持って出てきた兵士の首元に深々と突き刺さる。岩の床に崩れ落ちたその男性兵士は、少々濁った水の入ったバケツをひっくり返しながら絶命した。

このように、近距離でももちろん精度がいい。

両手では握ることが出来ないほどの柄の短さが欠点ではあるが、武器など基本一長一短なので仕方あるまい。

ナイフを抜くと兵士の服で血を拭って仕舞う。

如何に敵が来ないといえど、重要産業にするはずの芥子の畑に詰めている兵士が少ないな。これだけで終わりだとは思えないが………さて。


「あ、ハシン。後方から人が」

「そろそろ追いつかれる頃合いか」


足止めしているとはいえ限界はある。

ここでやり合ってもいいが、流石に面倒なので火に目線を奪われている間に俺たちは先に進むとしよう。

挟撃されるのは厄介だが、王があの戦法を繰り返すのであればどうにでもなる。

科学者ではあれど軍師ではなく、ましてや王ですらないのだ、取ってくる戦法も力任せのものが大半であり、それ故に扱いやすい。

………その科学技術だけは面倒と言えるほどのものなのは、ある意味驚くが。

小屋が巨大である理由はどうやら中で芥子をアルコールに浸けているからであるらしい。

あれは最早モルヒネの作り方だ。モルヒネそのものは薬として処方されるものではあるが、用法用量を超えればもちろん麻薬として作用する。

前に手に入れた阿片も異様に純度が高いとは思っていたが、やはりというべきか。

ここではすでに科学を利用した麻薬製造を開始しているらしい―――あまりにそれは、時代が早過ぎるだろうに。


「行きましょう」

「ああ………追手が炎に夢中のそのうちにな」


バケツを持った兵士も炎に放り込み、肉が焦げて発生し始めた異臭が大部屋を埋め尽くす前に俺たちは先へと進んだ。






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