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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
80/146

忍者同行


***





「ここでも、丸薬………」

「またですか。回る村々の全てにあるわけでは無いですけど、本当に出回っている場所が多いですねぇ」


今回の村でも、魔女の隊商の売り上げは振るわなかった。その理由は単純なもので、他に同じような薬が出回っているためである。


「………そう、だね」


先日よりさらに数日が経過した。俺が対象に加わってから訪れた村や街は既に二桁に上っている。

衛利の言う通り、訪れた村の全てに丸薬が出回っているわけでは無いのだが、その割合はとても大きく、八割がたの村や街には”秘薬の王”の薬品が流通していた。

しかし、だ。

隊商に混じり販売を手伝っていて理解したが、やはり流通量が違う。

この魔女の隊商の薬を求める人間が多い場所では丸薬が例え出回っていても、その数がとても少ないのである。

他の地域と何が違うのか、と言えば単純な話だ。


「距離が違う………」


パライアス王国から離れれば離れるほどに、丸薬の流通もまた減っていく。

やはり拠点はパライアス王国内部の都市であることは間違いがないな。

投薬兵そのものも、その材料となる人間も悪目立ちする―――となれば、無駄な移動は避け、国という生き物の内部へと身を隠し、じっと力を蓄えた方が効率がいい。

人を隠すのならば人の中、というやつだ。それに、移動はそれだけでリスクを伴う以上、必ずあの王は避ける。

地図の上のこの街にも、印をつける。

………さて、大分情報が集まってきたな。

描かれた地図の上の村々。記されているそれらには、同じように丸薬が出回っていた場所に印が施されている。

特に流通が多かった箇所にはさらに別の印も描かれている。

形状として絵は俯瞰した視点から見れば楕円の形になるだろうか。

指でなぞり、その中で自らの拠点をかく乱するために、あえて無理をして販路を広げているであろう場所を頭の中から取り除く。

そうした無理な場所こそが、極端に薬品の流通量が少ない場所というわけで、逆に立地的に恵まれている稼ぎ場所は必然的に流通量が増えていくわけだ。

戦力を維持するには兵站が必要。その兵站を滞りなく供給するためには今度は金が必要になってくる。

戦争と金は斬っても切り離せない関係にあり、高度な戦力を持つのであれば必ず大量の金をどこかしらから入手しているのである。

その法則がある以上、多少攪乱をしていても心理状況を推理すれば本当の勢力圏というものが見えてくるのだ。


「ハシン~、どうしたんですかー?」

「見つけた」

「………見つけた?なにをですか」


地図に落としていた顔を上げ、衛利を見つめる。


「”秘薬の王”の本拠地」


地図の情報から読み取れる流通と、心理的な要因による不自然な販路。

その双方を達成可能な距離圏にある、自らの組織が闇に身を隠せるほど大量の人がいる都市圏―――となれば選択肢は限られる。


「リマーハリシアからとても近くにある、大都市、メービス(・・・・)………多分、ここ」

「メービスですか。確かにあそこは天然城塞たるルーヴェルと肩を並べるほどの大都市ですね」


忍者である衛利は、当然のこととしてこの地域一帯の地形はすべて頭に叩き込んでいるのだな。

生来の雑さはあるが、やはり衛利は優秀な人間だ。戦闘能力の高さと言い、俺にはない層の知識といい、役に立つことが非常に多い。

………さて、それはさておき。このメービスについて調べる必要があるだろう。

名前は聞いたことがある。場所も大体は分かっている。

このメービスは、今回の任務において投薬兵を構築するための物資が運ばれる拠点の候補の一つに上がっていたものである。

結果としては天然要塞たるルーヴェルに資材は運ばれたわけだが、それが巡り巡って今度はメービスに行くとは面白いものだ。

現実的に考えれば納得できる点も多いがな。

まず一つ、奴ら”秘薬の王”は、パライアス王国内部に潜んではいるが当のパライアス王国側からしてみれば国を裏切った逆賊である。

そんな連中が王国内で商売をすれば即座に発覚してしまうだろう。如何に国だけが持っている投薬兵の製造方法を手中に収めていても、あくまでも地下組織である”秘薬の王”では今すぐに国と戦うのは不可能。

なるべく王国側に発覚するのは防ごうとするのである。

―――だが、金は欲しい。そして、金だけを求めるのであれば隣の国であるリマーハリシアでもいい。

その条件が重なった時、選ばれたのがルーヴェルに比べると近さという、時として欠点にもなり得る利点があるメービスだったというわけである。


「メービスについては………道中で調べよう、かな」


ようはこの演技による隊商生活も終わりという事だ。

偽りの仮面を外し、本来の姿に戻るとしよう。


「ローエングリン、は?」

「あっちの荷車ですよ。売り上げを数えています」

「わかった。ありがと」


丸めた地図を脇に抱えて、日暮れ時になり闇に覆われつつある村はずれを歩く。

隊商の長に別れを告げるために。






***






「ほう、ようやく突き止めたかい」

「ああ。………やはり、とは思っていたが知っていたな、ローエングリン」

「知っていたわけじゃない。あくまでも勘だよ」

「魔女の勘は舐めることはできないだろう」


薄暗闇を照らす橙の光を発する蝋燭がチリチリと音を出す中、地図を広げて老女ローエングリンの前で”秘薬の王”の本拠と思わしき場所を報告する。

返ってきた言葉は俺の想定の範囲内のものではあった。

………魔女の感性は、それが特に強力な力を持つ者であればあるほどに鋭敏になっていく。

伝説にすらなっているこの魔女の勘ならば、それは最早千里眼や未来視に近しい物だろう。

まあ、それは理解していたのだが、それでもこの老女に最初から頼る気はなかった。

いかに人に優しく見えても、それでも魔女は魔女―――適性値であれど、そんな情報に対して払うことのできる対価を俺は所持していない。

結局のところ、俺の公での身分は誰かの所有物である奴隷でしかないのだからな。


「………これを飲んでいきな」

「酒、か?」

「はん、もう発つんだろう?別れの(ワイン)さ。私らの隊商ではね、隊商から出ていくものにはこうして酒を振る舞うのが通例なんだよ」

「成程」


それならばありがたく貰っていこう。

玻璃のグラスを手に取り、中に注がれている赤色の葡萄酒を一気飲みする。

醸造酒特有の程よい酒精が喉を通り過ぎ、程よい酸味が舌を、強い香りが鼻を撫でていった。

………ふむ、俺の身体ではこの程度では酔わないのだが、道徳的な問題としてこの見た目、この身体で酒を飲むというのはもし日本であれば規制対象になるだろうな。

まあ、実際俺の詳細な年齢は知らない上に、葡萄酒は神の子の血だから問題ないだろう。

―――と。闇は闇のままに葬っておくことにした。


「美味かった。それではな」

「ああ。―――また、会うだろうけどねぇ」


そう小さくぼやいたローエングリンの言葉は、俺の耳には届かないほど小さなものであった。





***





「え~!?ハシンもう行っちゃうんですかー!?」

「放せ服を返せ纏わりつくな」


そんな話をローエングリンとした直後。

俺は衛利に貸し出されているこの服を着替えるために、別の荷車へと移動したのだが………残念なことに衛利に捕まってしまったのだった。

狐面を外し、服をはだけさせたところで話を聞いていたらしい衛利が乱入してきたのだ、邪魔なことこの上ない。

きっと俺の顔は今、渋面になっていることだろう。

………いつまでたっても衛利が腕を放さないので、関節を外して蛇のように軟体化して抜け出すことにした。


「あ、逃げられました」

「返す。それなりに着心地は良かった」

「わぶっ?」


完全に服を脱ぐと、衛利に放り投げ、今度は自分の服を纏う。

武装の確認………暗器類は問題なく入っているな。この短期間で身体が変化したという事もない。

いつも通りの身体の感覚だ。

最後に虚無的な表情の髑髏面を被ると、荷車の覆い布を潜り外へ出ようとして―――右足にぶら下がる重い荷物に対して冷たい声をかけた。


「衛利。放せ」

「うう………貴重な妹成分が………あ、足もすべすべですね。和服の間から覗いていた太もも、正直気になっていたんですよ。触ったら気持ちいいだろうなぁ………って」

「知るか、おい放せ」


ちなみにその視線には気が付いていた。

女性から感じる性的な視線というものはある意味新鮮ではあったが、それと同時に衛利はそういう気があるという事実まで分かってしまったため、何とも言えない感情になった。

………この先の暗殺では確かに、女性からの情欲対象となることも必要にはなるのだろうが、まだ俺には無用のものなのではないだろうか。まあ、いいが。


「あは、まあそれはともかくです。ハシン、ちょっと待ってください」

「………なんだ」


一応衛利がまじめな表情になったので、俺も一旦荷車の中に身体を引き戻して足を立てて座る。

おい、視線を胸や股座に向けるな―――全く、困ったやつだ。


「それで?」


軽く首をかしげて衛利に話を促す。


「はい。”秘薬の王”の所にですが………私も一緒に行きます。あ、ちなみにこれはお祖母ちゃんからの指示でもあります」

「………ローエングリンから?」

「いた方が便利だろう、と。その代わり、今度依頼するときは安くしろって言ってましたよ」

「あの魔女に殺したい相手がいるのか」


いや、方便か。衛利を同行させるための、な。

………正直に言えば衛利は戦力として申し分ない性能をしているため、素直な感情を述べるとすれば有り難いの一言に尽きる。

流石に巨大になりつつある組織を相手に単独で立ち回るというのはなるべく避けたいところではあるのだ。何せ面倒である。


「もし断ったら?」

「この隊商から生きて出られると思わないことです♪」

「物騒なことだ」


戦争になるぞ。

まあいい。もらえるものはもらっておく。使えるものは何でも使うようにな。


「仕度は」

「済んでいますよ」

「そうか。なら行くぞ」

「はい」


―――と。最初に衛利と出会ったときと同じように、奇妙な同行者として忍者が仲間に加わったのであった。

戦時と平時、活躍する場こそ違えど同じ役割を持つ二人の暗殺者は、完全に落ちた夜の帳の中を駆ける。

それを見つめる魔女は一人、何を思っ()ていたのか………それは、まだ分からないまま。



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