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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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地下発見

時はハーサとサヴァールの決着、その少し前に遡る―――。




さて。

……”長老たち”の一人である毒蛇が守護する門を超えたのはいいが、この先どうするかまでは決めていない。

そういう意味でのさて、であったが。


「成るほど」


走り回りつつ周囲を見分すると、様々な武器によって串刺しにされ、或いは切り裂かれて死んでいる兵士たちの残骸が無数に転がっていた。

既に死後硬直が発生し、奇妙な体制のまま固まっているさまを見るとそれなりに殺されてから時間が経っているのだろうという事が容易にわかる。

これを誰がやったかといえば、間違いなくミリィだろう。

ハーサならば首などの急所を一瞬一太刀で切断し、即座に命を終えさせる。

このような乱戦……否、仲間割れを発生させるのはミリィの方が得意そうだ。

走っているさなかにも何度かこういった仲間割れのような死に方が発生していた。

となると、ミリィは内部の兵士の悉くを殺すために動いているとみていいだろう。軍隊をすらただの獣の群れへと変えるかの”百面”の暗殺者ならば、成るほど確かに最適解の働き方といえる。

……そして、そのような烏合の衆を唯一元の軍隊へと戻すことのできる強烈なカリスマ性を持つ将。

その相手をハーサがしていると見ていい。

”長老たち”二人掛かりでこのキャラバンサライ内部のほぼすべての戦力を抑えきっているという事実。ただの人間であるはずのあの暗殺者たちにはほとほと驚嘆させられる。ハーサに関してはあきれの方が強いが。

あれはどうせ強者と戦いたいから将の元へと出向いただけだろう。

あいつの思考を上手く作戦の中に組み込んだ”風炉”とやらの手腕の方を褒めるべきなのだろうな。

―――戦力の抑えは既に済ませてある、となれば俺のやることは一つだけだ。

今回の主目標である、投薬兵の建築資材の強制廃棄。

資材の存在する場所を探し当て、粉々に壊すことが俺の仕事である。

そうと決まったのならば即座に動くとしよう。ただでさえ出遅れているからな。


「まずはこの建物の構造を調べる所からか」





***






「やれやれ、泥棒の様な事をする羽目になったが―――まあ、いいか」


怪盗も暗殺者も結局のところ法から外れた人間ども。

外部から見れば正直言って変わらないのだろうしな。

手に持った建物内の配置が記された地図を眺めながらそう考える。

キャラバンサライの中央通路をまっすぐ進んだ先で何やら楽しそうに演舞を始めている腐れ師匠と敵の将軍を尻目に、搬入口から隊商宿の場所へと進んだ俺は、中でも最も巨大な部屋に目をつけ、物品を漁っていた。

搬入口の先に、このキャラバンサライに詰めていた兵士の居住区があるのは半ば当たりを付けただけであったのだが、きちんと存在してくれていて助かった。

今から拷問をして兵士から聞き出すには時間がかかりすぎる。

こういう時の拷問はあまり正確な情報を聞き出すことはできないからな。

途中見張りの兵士を影から仕留めつつ、大体身分の高い人間は大きな部屋に住んでいるという大原則に従い大きな部屋を見つけ出し、そして部屋の大机に丸められていた地図を盗む―――ここまでで大凡四半刻と半分……まあ七分程度だ。

少々時間をかけすぎた。なので地図の通りに従い、急いで搬入物が存在しているはずの宿舎の奥へと走った。

……のだが。


「ッチ。まあこの地図を見れば、そう簡単にはいかないだろうとは思っていたが」


資材を覆う布を引っ張ってみれば、あるのは普通の食材や壺に酒、煙草といった通常の品々ばかり。

あの投薬兵を作り出すための、怪しげな薬品の数々はどこにも見当たらなかった。


「この軍も一枚岩ではないという事か。いや、違うな」


寧ろ、俺達が相対している軍の足を引っ張る―――いや、もしかしたらトップである人間を始末する、その意志すら籠めているものが存在しているのか?

有り得る。その可能性は十分すぎるほどに。

―――地図をもう一度見る。


「階層は一つだけ。だがその中でも何の情報もない箇所が幾つもある」


それに加えて、床から返ってくる感触。

間違いなく地下が存在していることが否応に分かるというものだ。

真に協力し合っているものが、自陣の姿を教えないなどと言うことがあるだろうか。

否。答えは間違いなく否である。

陣地を、構造を知らなければ守りようがなく、耐えようがない。

故に攻める側には構造を理解させないようにするのは籠城の定石であるのだ。

まあ、攻め込む側に偽の情報として、即ち罠として建物の構造を教えるという事ならば考えられる。

しかしだ。守る側にそれを教えないという事だけは絶対にありえないのである。

それを踏まえて考えれば、軍隊よりも先にいた者達は軍隊を、そしてついでに俺達暗殺者を一網打尽にするために動いているのではないかと、そういう思考に行きつくのは当然だろう。


「この黒塗りされたフロアのどこかに地下への入り口が存在しているはずだ。そして力を蓄えた、裏切り者の兵士たちが居るはずだ」


まったく、何を好き好んで戦争などしたがるのか。

戦争に戦争を上塗りするなど、狂気の沙汰としか言えないだろうに。

この世界には存外、戦闘狂が多いのかもしれない。

地図を確認し、構造を確認し、それに外部から見たこの建物の姿を照らし合わせ。

走り回った時に返ってきた、床からの感触も加味して黒塗りされたフロアの中身を推測していく。

さらにキャラバンサライに紛れ込んだもう一組の敵の思考までをも仮想的に想像し―――そして。


「見つけた」


地下への入り口を、発見した。

……最近地下にいることが多い気がするな。衛利と駆け、初めて投薬兵を見たのも地下だった。

いや、最後に敵として居る者が同じだからこそ、地下という場所が舞台に上がりやすいのか。

敵の敵は味方という言葉があったが、あれは常に正しいというわけではないな。

衛利は敵の敵でそして味方だったが、今から俺が相対するものは敵の敵であり、そして俺たちにとっての明確な敵なのだから。

さて。では行くか。

ナイフを使って、床として擬態している入り口を切り開いた。





***





落下していく。とはいえ、大した距離ではない。

数メートル程度といったところであり、暗殺者としてそれなりに訓練した者ならば特に問題もなく着地できる。

ふわりと地面に降り立った後に、周囲とついでに上を見渡した。


「もう一つ……人間用の出入り口があるな、これは」


地下の壁は土を溶かし、そして固めたもの。

あの教会の下にあったものとやはり同じ構造であった。

そこへの道を切り開いた入り口は、本来歯車と滑車、そして強靭な綱によってエレベーターのように上下するものであった。

恐らくは大きな物資を搬入するための場所であり、何度も頻繁に使うものではない。

見つかる危険性が増すからだ。ならば、他に人間が出入りする場所があるというのは当然のこと。

普段はそちらから運び、投薬兵の物資など特殊なものだけはこれを使ったという事だろうな。

……だが、これはキャラバンサライに詰める商人達全員にばれずに設置できるようなものではない。

買収したか、脅したかで黙認させたのだろう。もっとも、そのあと商人は命を落としたのだろうがな。


「帰りはどちらから行くか……まあ。どっちでもいいか」


隠されていた綱を切り落としたため、帰りはぶら下がるそれをよじ登らねばここから地上に出ることは叶わない。

とはいえ、人間用から出るのもそれはそれで戦闘になりそうで面倒だ。

結局どちらも面倒なのだから、どちらでもいいという結論だった。

五感を動員して、気配の濃い方へと進む。

ナイフを二つ、抜き放って―――この面倒極まる仕事を終わらせるために、走り出す。




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