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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
62/146

火融夜街

***





時に闇に潜み、時に無害な人間に化け。

様々な手を以て、街中に仕掛けを施していく。

時間はあまりないが、急いでもそれはそれで無駄なだけだ。慌てるという行為は最終的に無駄な時間を増やす。

必要なのは平常心。太々しいまでの、動じない心だ。


「さて」


火種を用意し、時限式の発火装置を手軽に作成する。

この時代に、などと思うかもしれないが、工夫次第で発火装置などいくらでも作れるのだ。当然その安定性や確実性は現代兵器に比べるべくもないが。

暗殺者たちはそのような装置に対しての工夫は怠ることがなく、知恵を存分に発揮して様々な道具を作り出す生き物だ。何せ、ただの森から人を殺すための罠や毒を作り上げるのだからな。

今回使用したものは、ゆっくりと一定の時間をかけて燃焼することによって仕掛けを発動させるもの。

イメージとしては蚊取り線香だ。あれは長さで燃える時間が設定されているが、つまりは同じ要領で時限発火装置を作っているわけである。

蚊取り線香の匂いは殺虫成分によるものであり、肝心な箇所であるあとの燃焼速度等は樹木の粉末やでんぷんに依るところ。

それらであれば、この時代に於いても手軽に作り出せる、という事だ。

全ての仕掛けを終え、しっかりと火が付いていることを確認すると事前に打ち合わせておいた合流場所へと戻る。

発案者として仕掛けの担当箇所は一番多いため、少々時間がかかったな。


「遅くなった。首尾は」

「お前で最後だ。……もう最初の仕掛けが発火を始める」

「理解している。では、ピークタイムの始まりだ」


―――直後、街の一角に大きな爆発が起こった。

初回の爆発が大きいのは、問題を知らしめるためである。音の割に炎の量は少ないが、市民の混乱を招くにはこれで十分だ。

そもそも俺たちは市民に危害を加える気はないのである。基本は、という言葉は頭につくが。

異常事態に先立って、街中に鐘の音が鳴り響く。警備兵の鳴らす警鐘だ。

合流場所は室内だが、それでもその騒ぎの声はよく聞こえる。窓が開いているから、というのも理由の一つであるが。


「道具を持ち各自警備兵を襲撃。―――行くぞ」


証拠を残さないように合流箇所に火を着けつつ、窓から別の建物へと飛び移る。

立て籠もりも考えたが、俺はこの後キャラバンサライへと侵入しなければならないので却下となった。

立て籠もるという事は非常に楽だが、自身のタイミングで脱出しなければならないとなるとどうも面倒になる。さらに一度脱出をすれば後に残った人間は出にくくなるという困った事態も発生する。

であれば、最初から身軽に立ち回る方が吉という物だ。

直近の発火箇所を脳内で展開し、その箇所周辺の地形を確認。

警備兵の道具と投入された人間の数から進行してきそうなルートを幾つか割り出し、そこからさらに他の暗殺者たちが向かいそうな箇所を削除。

そうして浮かび上がった妨害地点へと狙いをつけて………夜の街を駆けた。





***





「隊長!街の複数個所にて火災が!?」

「分かっとるわ!報告なぞいらん、さっさと消しにいけ!」


報告してきた部下を怒鳴りつけ消化に行かせる。

自分でも棒と近くに水源があった場合のバケツを持ち出し、警備隊の本部周辺の火災を止めに行く。

……本当は自身が動くことなどあってはならない。私は指示を出すのが仕事なのだから。

だが、これだけ街全体でばらばらに火事が起こってしまえばそうも言ってはいられないのだ。


「忌々しい……どこから情報が漏れたかは分からんが、暗殺者共だな……リマーハリシアから雇われたか?」


金で動く、どこの国にも属さない暗殺教団。

奴らは奴らのルールに基づいて仕事を遂行するというが、そのルールは国という生き物にとっては理解の及ばないもの。

利益だけであればどうにでもなる。

だが奴らは、利益だけでは動かない。特に国同士の大規模な戦争ともなれば特に。

あの伝説に名高き”山の長老(シャイフル・ジャバル)”を味方に付けられたのであればリマーハリシアとの戦争など一週間も掛からずに勝利を収められるであろうに。

―――事もあろうに奴らはどちらにも加担し、どちらにも協力しないのだ!

真に忌々しい暗殺者共よ……。

専門伝令は既にあの”御方”のいらっしゃるキャラバンサライや、周辺の村々へと送っている。

時間は少しかかるが、人手は増やせる。


「隊長!」

「ええい、今度はなんだ!?早くお前も消火を始めんか!!」


また新たな部下が飛び込んできた。

これで何度めか、全く自分で判断のできない愚か者どもめ!

これが終わったら再教育しなければならないか。


「……いえ、別件です!」

「なに?!これ以上の厄介事は御免だぞ、クソ!」

「それについてはご安心ください――――もう永遠に、厄介事に悩まされることは無いからな」


何を言っている、と言おうとして、口が動かないことに気が付いた。

……いや、口だけではない。身体がそもそも動かず―――そして、何故か。

報告をしてきた部下の顔。それが随分と上の方に在るではないか。部下の身長は私よりも随分と低い筈だが、どうしてこんなことになるのか。

―――そもそも、こんな部下。私に居ただろうか……?





***





「さて、これでより混乱は広がる。では仕事の続きといこう」


鈍い音を立てて足元に落ちた、警備兵の隊長の首を脇に抱える。

着火剤と爆発物を利用して、警備兵の本部を爆破しようとする。ついでに頭と体を中に放り込んでおき、一緒にばらばらになってもらうこととした。


「ああ、そうだ」


……もう一つ、背負った袋から頭を取り出す。

キャラバンサライへと向かっていた専門伝令兵の首だ。通行止めはされているらしいが、これを行かせては面倒事態になることも考えられるので、見かけた時に落としておいたのである。

これもついでに処分しておくか。

未だ血の滴る首と、変装のために頂戴した服を脱いで纏め、幾つかの爆発物と火種と一緒に放り込む。

再び街の影の中へと融け込んだ直ぐ後に、警備兵の本部は周辺の建物と一緒に崩壊したのであった。

それに目線を向けることもなく、次の目標箇所へと移動。

街の混乱という舞台の上を、踊るように歩む。

―――次はあの兵士たちがいい。

目線を向けたのは、火を消すために苦心している警備兵。……機を覗い、炎が爆ぜた瞬間に爆発物を放り投げる。

爆ぜた炎が導火線を焦がし、爆破。

周辺の建物と兵士たちを巻き込んで、無数の破片をまき散らした。ああ、破片の中には肉片も混じってはいたが。

足や腕に重度の裂傷を確認。目標を達したので再度別の場所へ。

炎は微弱な速度で広まりつつ、確実に兵を削る。もっとも混乱が長引く状況というわけだ。

やれやれ、何とも悲惨なことである。現代であればテロリスト扱いされて然るべきだろう。

本意ではないが、これも仕事。社会的弱者としてはこれらの手段を取らなければ待っているのは死なのでな。

もちろん、免罪符する気はないが。命を奪う選択をしたのは俺自身である。

まあ、言い訳と言えばその通りなのだろうが、言い訳とは己と他人を円満に動かす潤滑剤。自身の内心は兎も角として、言うだけは言っておかねばな。


「火災も随分と広がったか。そろそろ機は熟した、と言うべきか」


仮面に手をやりつつ、屋根の上から街を見渡す。

古事記ではこの状態を真具(まつぶさ)と呼んだというが。射干玉の黒き御衣を、というやつだ。

まあ、あれは大国主が正妻である須勢理比売に対して詠んだ詩なのだがな。


「熟したのであれば、ここに留まる道理はない。……次の場所へと向かうとしよう」


要らぬ知識を振り払い、本来の目的地であるキャラバンサライへと足を向ける。

さて、今はどんな状況になっているのか。いや、行けば分かるか。

火の明かりが照らす夜の街。人の叫び声と破裂音の中を走る。






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