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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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別道隊商


隊商が再び出立してからしばらくの時間が立った。

パライアス王国へと近づくほど、荒れてた大地が徐々に人間的な雰囲気を取り戻していく。

いや、文明的というべきか。パライアスはリマーハリシアよりも数段街道整備という点に置いては力を入れているらしい。

ここまで整備された場所ならば先日の盗賊共が猛威を振るうこともできなかっただろう。

街道整備が行われるという事はその地域の安全もある程度は保障しているという事に他ならない。なぜならば通りやすい道ほど商人たちが歩むからだ。

セカイに金という血液を循環させる役割を持つ商人、物流の流れ。それをいち早く構築し、数多くの商人を呼び込むことは国を豊かにすることにつながるのである。

そのためには先も言った通り、街道を整備し、治安を維持するために定期的に軍隊を動かし、敵性因子を排除、そしてまた破損個所を再整備……といったサイクルを繰り返す必要がある。

故に、まず一番初めにやることが道の整備なのだ。

それをこの時代から理解し、組み立てるとはパライアス王国にはなかなか先見の明がある人間がいるらしいな。


「やはり、街道、のほうが、進みやすい、のです、か?」

「あまり長距離を行かない、通常の行商ではな。隊商クラスとなると駄馬もラクダやら馬やら種類が増えるから一概には言えんかね」


荷を運ぶ獣も、得意な道と苦手な道がある。実際ラクダは砂漠などの乾燥地帯を歩むのは得意だが、湿地帯になると一気にその有用性が減少してしまうほどだ。


「さて、嬢ちゃん。そろそろ準備はいいかい?」

「はい、大丈夫、です」


この隊商を離れる刻限がきた、ということだ。

もともとほとんど存在しない荷物を纏め、ここまで運んでもらった対価である香辛料の袋だけを残す。

石畳を車輪が通る際の独特な音を聞き流しながら、これからの手順を確認する。

まず第一の目標として敵性目標であるキャラバンサライを攻略するために、それがあるルーヴェルへと移動を行う。

もう領地的にはパライアス王国領に入っているらしく、地図上では最も近いメービスの街よりも遠いといっても暗殺者の足で走り続ければ容易に到達できる場所だ。

時間的な問題はまあ、微妙といったところだが。

第二目標は俺を置いて行った師匠たちとの接触となる。集まらねば仕事がやり難いからな。

言葉にすれば簡単だが、実際は非常に面倒だろう。なにせ見つけなければいけないのは、変装の天才とそれに肩を並べる怪物だ。これはどうするかの算段を付けておかねばならないか……?

ともかく、重要な目標をこの程度だろう。どう攻略するか、などは実地を見なければ判断できないのだしな。ある程度の作戦はすでに立っているのだから、以降は戦地にて詰めるしかない。


「そのため、には」


一つ、武装と服装、変装のための道具の回収や再配置。

二つ、効率よくルーヴェルに辿り着くためのルートの思案。

……といったところか。

目的に至るための道筋と手段を幾つか予め把握し、順序立てておくことは効果的に行動するために非常に有用となる。特に急いでいる場合などに、だ。

焦りは禁物。昔から言う事に嘘はない、と言い切ることはできないにしてもこれに関しては事実といえる。

気の焦りは人間にとってありえないミスを誘発させるからな。俺のような身分の場合はそれが致命的だ。

故にどんな時も思考を止めてはならないのである。


「見えてきたぞ。あれがパライアス王国の中へ入る道と、周辺を回り他国へ行く道との分岐線だ」


そんな考え事を一旦ではあるが終わらせたときに、それは見えてきた。

ファンタジー世界の小説や漫画で見るような、石畳の道がY字に分かれている、そんな表現しかできない道。

中央には矢印付きの看板が設置されており、街道の大きさはパライアスへと入る道の方が巨大であった。


「ここまで、ということ、ですね」

「おう。滅茶苦茶助かったぜ」

「こちらこそ、ありがとう、ござい、ました」


ニィっと笑ったサクル老人は、笛を吹き、隊商の動きを止める命令を出した。

広い街道を歩む隊商が緩やかに止まっていく光景は、なかなか見られるものではないな、なども思いつつ。

完全に動きが停止した荷車から降り、同乗していたサクル老人に頭を下げる。

手で制され、気にするなという言葉を言外に発した。そのあと、ああ……という言葉を出したサクル老人は。


「ハバル!あれ持って来い!」


と、大声でハバルを呼びつけた。

はて、あれとはいったい何だろうか。


「嬢ちゃんはハバルを助けたよな。放っといたら確実に死んじまうような状況から」

「仕事、です、から」

「仕事以上の働きだ。だからよ、それに対してはきっちり給金を払わねぇと、商人としての意地に関わるんだわ。俺達は守銭奴ばかりだが、それでも払うべき時には金を出すもんなんだよ」

「これも、その一環ってね……おっとと」

「お二、方、それは……」


石畳を叩く蹄の音。

荷車から降りた俺の前にハバルが連れてきたのは、隊商の荷役獣でもあった馬であった。


「嬢ちゃんへの追加給金だ。また、機会があったら頼むぜ……つう恩の先売りってやつでもあるんだが」

「……ふふ、強か、ですね」

「そりゃ親爺だからなぁ」

「元はお前が油断してたせいだろうが」


見事に墓穴を掘ったハバルがサクル老人に小突かれていた。

流石に小さく笑いが零れる。口の形が少し緩む程度ではあったが。


「では、遠慮、なく」

「おう。ま、馬は要らなくなったら食えもするしな。自由に使ってくれや」


馬という物は本当に万能であり、移動にも使え荷を運ぶ為にも使え、そして最後には肉として食すことすら可能という便利な動物だ。

中世においては、馬一頭の値段の方が捕らえられた捕虜の身代金よりも高くついたことがあるほどに、馬というのは高価な動物でもある。

先行投資か。俺の腕にそれだけの価値を認めてくれたことは素直に嬉しく、また馬があれば移動時間を大きく短縮することができる……有り難いのも事実である。


「―――よし、じゃあ俺たちはもう出るぜ。商人にはしみったれた空気は似合わねぇ」

「また会う機会はあるだろうしね。じゃあね、お嬢ちゃん」

「はい、また」


再びサクル老人の笛が鳴り響き、隊商全体が緩やかに動き出していく。

隊商の外へ出た俺を置いて。即ち、今度は見送る側という事だ。


「じゃあな、助かったよ!」「飯旨かったぞ~」

「山賊頭の事は任せとけ、しっかり処理しとくからよ!」


荷車から顔を出す隊商メンバー達。

飯の事やら山賊達の襲撃の事やらで礼を言われつつ、手を振られた。

俺も馬に跨りつつ、軽く手を振り返す。


「まぁぁぁぁたぁぁぁぁねぇぇぇぇハシンちゃああああん!!!」


極一部やけにうるさい吟遊詩人もいるが……まあ一応手を振っておくか。

服はともかく、その踊りや詩の手法は勉強になったのだから。

そうして、やがて長大な隊商の、その最後の荷車が分岐街道を向こうへと消えたのを見送ってから、俺は跨っている馬に意識を向けた。

黒色の毛並みの馬。かなり大人しいというか、人に例えれば冷静な性格のようで隊商が通り過ぎるまで暴れ出すという事もなく、じっとしていた。


「いい子だ」


毛並みを撫でてから手綱を握る。

腹を蹴って、隊商とは別の道に進んで行った。

―――さて、やることは山積みだ。急がなければな。

被っていた演技という名の仮面を剥がし、ルーヴェルへの道を駆けていく。


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