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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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盗賊襲来

***




「深夜……も、程近い、です、か」


月を見上げる。このセカイの時で言えば、根の刻を終え、初の刻へと入る刻帯だ。

体内時計があるために、わざわざ空の様子を見て時間を確認する必要はないといえばないのだが、あくまでこれは身体に備わっている感覚的なものだ。

いつ衰え、狂うか分からないのが現実である以上、こういった万が一に備えるために確認は大事なのである


「……」


周りの隊商メンバー達も、眠りにつくものが多くなっている。

もちろん見張りはいるが、隊商のうち、今日だけで全員に見回りのローテーションが回ることはない。

それは逆に非効率だからな。無理に全員に見回りをさせれば、隊商全体の体力を奪ってしまう。

寝るときは眠り、動くときは働かせる。

この差が大切なのだ。


「とは、いえ。私、は、休んでいる、暇、なさそうです、が」


眠りにつけばすぐさま動くことができなくなる。

それは当然の帰結だ。生物であれば必ず発生する隙というものである。

必ず発生するくせに、最大の隙の一つでもあるが。

……まあ、いい。大事なのは、俺たちを獲物と捉えている者共は必ずこの時間帯を狙ってくるだろうということだ。


「戦える、人、は」


サクル老人ならば屈強な野盗だろうが十把一絡げで済ませられるだろう。

ハバルも、商人の中でも筋肉質な肉体をしていたため、わざわざ護衛に回る必要はない。

というか、若いのだから自分で頑張れという話だ。男であるのだし。

他の隊商メンバーも、身体の弱そうなものも幾人かいるが、それでも自分の身くらいは守れるだろう。

問題は―――。


「うぅーん……せめて髪……髪触らせて……」

「これ、ですね」


隣で寝ながらでも俺の髪に手を伸ばそうとしているイーリアと、それとは対照的に静かに寝ている夫のアレドロである。

アレドロは先に落ちたイーリアに、毛布をしっかりと掛けると、その隣で自分の身体を吹き付ける風の盾とした後にようやく眠りについていた。

全く持って良くできた男である。

……荷車に移動させようかと思ったが、敵が来る可能性があると考えると寧ろこの場所の方がいいかと思い、二人ともここで眠らせている。

まあ、歌と踊りを教えてもらった恩も一応ある。寒さで風邪をひかないように火の番くらいはしてやるか。


「お嬢ちゃんは眠らないのかい?」

「ハバル、さん。そちら、こそ」


焚火に追加の薪を()べつつ膝を抱えていると、煙草をふかしたハバルが声をかけてきた。


「俺は今回寝ずの番だよ。まー親爺と隊商組むとだいたい初日は俺が担当になるな」

「大変そう、ですね」

「いや、それがそうでもないよ。寝ずの番とか、深夜の見回りのやつらには飯が多めに貰えるからな」

「なる、ほど」

「昼間荷車の中で寝てても文句言われないし」

「それは、どう、かと」


まあ、冗談だろうが。危機意識はしっかりしているからな。


「お嬢ちゃんは別に寝ずの番じゃないんだから、何かあった時まで寝てていいんだぜ?」

「用心棒、です、ので」

「……成長期に寝ないと、背伸びないぜ?」

「―――ぅむう……」


背……か。

頭に手を置いてみる。

確かに、今の俺の身体はかなり小さいほうだ。

同程度の年齢層の中においても小さいと思われるだろうな。ついでにやや痩せ気味だとも。

せめて、ハーサ並みの身長があったのならば暗殺者としてもっと生きやすかっただろうが。

蜜の罠などに頼らずとも済んだかもしれないしな。


「ついでに、その服も変えた方がいいんじゃないか?かなりボロボロで際どいし」

「まだ、つかえ、ます。もったい、ない。それに、お金、ありません」


所々破けているのはサクル老人と一戦交えた時のせいだが。

一撃ももらわないというのは流石に不可能だったからな。

服に掠る程度の損傷は諦めた。


「金か……さて、ちょっと荷車さがしてみようかな。似合う服があるかもしれない。まあ、服はそんなに品揃えていないんだけどさ」

「売り物、ですよ、ね。ダメ、ですよ」

「親爺だっていいっていうさ。なに、用心棒に風邪ひかれちゃ敵わないってだけさ―――」


踵を反したハバルの元に、一人の男が走ってきた。

黒いスカーフを頭に大量に巻いた男だ。かなり汗まみれだが。

相当急いでいたのだろう。ハバルの前に辿り着くと、膝に手をついて息を吐いていた。

―――そっと、立ち上がる。


「隊長!大変です、盗賊が!盗賊がたくさん!向こう側、二キロ程度先に!」

「何だと?!」

「どうしますか?」

「迎撃に決まってるだろ!親爺起こせ、寝ている奴らも全員だ!」

「―――ええ、分かりやした」


カチッ……。

走ってきた男の腰あたりから、そんな音が聞こえた。

男の右手は、膝から腰へと移動している。……即ち。


「ハバル、さん。これ、敵です」


音が聞こえた瞬間にハバルとスカーフの男との狭間に移動し、剣を引き抜こうとしていた男の肘を抑える。

男の顔が驚きに染まる前に、引き抜いた俺の得物、クファンジャルで首を切り裂いた。

先手必勝。悪いが俺は肉体的にそんなに強くないのだ。

なので、遠慮なく殺させてもらう。

血が噴き出し、焚火の炎を僅かに翳らせた。


「変装……クソ、見回りのやつは大丈夫か!?」

「確認、させま、しょう」


目元辺りに飛び散った血を拭き取りつつ、進言する。

さて、盗賊共の首魁の思考は俺にはまだわからない。死んでいるのか生きているのかの判別は残念ながら付けられない。

それよりも今分かっていることは、もうすぐに盗賊が攻め込んでくるという事実だけだ。

この目の前の死体は、指揮官を先に殺すことで指揮系統を混乱させるために送られた、いわば工作兵のようなものなのだろう。

当然この男が言った二キロ程度先という言葉も嘘だろうな。

実際はもっと近くにいて、準備が間に合わないうちに奇襲を仕掛けてくるはずだ。


「お嬢ちゃん、助かったよ」

「仕事、ですので」

「――え、え。何、何?」


結構物音を立てたからな。

流石に寝ていた付近の者達も起き始めた。

その中には、当然夫婦の旅人もいた。


「イーリア、敵襲みたいだよ」


アレドロの方はこういったことにも慣れているのだろうか。

死体を見ても顔色一つ変えなかった。それはハバルも同じだが。

流石にこのセカイのように荒事が多い世の中では、死体一つでは特に何も思わないのかもしれないな。


「ここが、安全、です。ここにいて、ください」

「え、ええ……わかったわ」

「―――約束、です、よ?」


一応念を押しつつ、死体から武器を奪い、アレドロに渡す。

万が一だ。武器があるというだけでも攻撃を一方的に受けるということは無くなる。

反撃はいつだって怖いものだ。誰もが嫌がる。もしもの時睨み合いになってくれれば、生き残る確率も高まる。


「ハバルさん、行きま、しょう」

「ああ!―――皆、武器を持てよォ!!」

「おおお!!!!」

「何人かはここに残れ、戦えないやつを守るんだ」

「了解っす!」


やはり、ハバルも慣れている。

急な敵襲だというのに、的確に指示を飛ばし、迎撃態勢を整えている。

これは、あの工作兵がうまくやっていたら厄介なことになっていたな。

指示系統の混乱か。机上では理解していたが、ここまで効果的に働くという実感はなかった。いい勉強になった。


「ああ!?敵かよ……やっぱいたか」

「親爺!」


棍棒を持ち出したサクル老人が、嫌そうな顔をして荷車から降りてきた。

騒ぎを聞いて敵襲だと理解したのだろう。


「おう?ハバルも嬢ちゃんも血がついてんじゃねえか。何だ、もうここまで来てんのか?」

「いや、一人だけ俺を狙いに来たみたいですわ」

「斥候……いや、奇襲兵か。慣れてんなぁ奴さん。どうして気がついた?」

「ああ、確かに。お嬢ちゃん、なんで気がついた?」

「ハバル、さんのこと。隊長と、呼んだ、ので」


隊長とは隊商の長であるサクル老人を指すはずだ。実際には皆サクル老人のことを親爺と呼ぶので、この隊商内では隊長という言葉がほかの隊員から出ることはない。

だが、あの工作兵はハバルのことを隊長と呼んだ。そこが決定的だったのだ。

……まあ、他にも目深にスカーフを巻いていたり、ハバルの前で疲労の動作で顔をそれとなく隠していたりと怪しい行動も多かったのだが。


「嬢ちゃんの方が先に気がついたのかい。は、お前もまだまだ若いなァ!」

「ぐ、面目ない……」

「まあいい。その奇襲兵はどのくらい先に賊が見えたって言ってたんだ?」

「二キロとか言ってたな」

「なら一瞬だ。もう声が聞こえるくらいのところに居るだろうよ」


―――乱雑な殺気を感じる。

確かに、既に近くに大群がいるようだ。

俺の想定量よりもかなり多いな。やれ、全くもって思い通りにいかないものだな。

とにもかくにも、迎撃だ。用心棒である以上、隊商メンバーをしっかり守護しなければ。

まずは野営地の外側に出て、見回り担当の状態を確認しつつ盗賊に対応する。

向こうは奇襲が成功したと思っているだろう……なら、そこは狙い目か。


「行き、ます」


では、仕事の時間と行くか。

……踊るように。戦地へと走り出した。



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