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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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踊習賊躍

***




二人の演奏の余韻も冷めやらぬ中、焚火近くでじっと蹲っていると、後ろからイーリアの気配を感じた。

またもや足音を殺し、接近をしてきている……本職と接している俺にはバレバレだが。

そもそも、ここにはまだ談笑を続けている隊商の人間たちもいる。

視線が奇妙な行動をしているイーリアに向いてしまっている以上、素人でも何かあるとは分かってしまうだろう。


「―――えい!」

「…………。は、あ」


そんな中で自分ひとりだけその真実に気がついていないイーリアが、案の定飛び込んできた。

貸し与えられていた毛布を囮にして横に移動。

……イーリアの手の中には毛布だけしか残らなかった。


「もう、なんで気がつくのよ!」

「憤慨、されても、困り、ます」


なんでと問われれば下手だからと返すこともできるが、素人に技のキレを求めても無意味だろう。


「って、この毛布めちゃくちゃ薄いじゃない」

「そう、ですか?」


いつも山で使っている物に比べれば幾分かましだが。

マキシムのところではそもそもそんなものすらなかったしな。

俺からすれば上等なものだが。


「私お爺さんのところいって毛布貰ってくるわ!」

「無用、です。充分です、から」

「……いい道具を使うことは、結構大切なのよ?」

「そう、ですね」


それには一理ある。

……認識の差だ。俺にとってはその毛布でもいい道具という範疇に収まりきってしまうというだけの話。

当然殺しの時でも、良いナイフ、良い毒、良い暗器を持っていた方が安全性と確実性が増す。

故に武器にはこだわるようにしているのだが……結局、身体にまとうものなどは最低限の機能と身体機能の保護ができていれば何でもいいというのが実際のところなのだ。

ミリィに言わせれば、この思考は甘い(・・)らしいが……まだ何故甘いのか完全に理解できるほど学習が進んでいないので、俺の考えはこの通りである。

恐らく、潜入を行うものからすれば服は鎧であり、武器であるからなのだろうが。

実感として伴っていない以上、理解したとはいえまい。


「まあ、貴女がそう言うならいいけれど……よっと」

「……」


俺が必要としていないと理解すると、毛布の調達は諦めたようだ。

素直に毛布を返してくれた。

……だが、何故隣に座るのか。

そっと横に移動して距離を取る。


「あ、離れないでよ!」

「個人の、自由、です」

「く、手強い……」


……俺の感想はしつこいだが?


「こらこら、イーリア。あまり少女に迷惑をかけてはいけませんよ」

「アレドロぉ……この娘抱かれてくれないのよ!」

「いえ、だからね?」


少しだけほっとする。

男……アレドロの方は普通の常識が通用しそうだからな。

嫁であるイーリアの手綱を握れているかどうかは不明だが。


「よし、挟み込みましょ……反対側よろしくね!」

「ええと……」

「……私に、助け、求められて、も」


彷徨った目線が最終的に俺に落ち着いた。

……お前の嫁だろうに。

一つ、ため息を落とす。


「演奏。とても、良かった、です」

「ホント!?」


前のめりになってまで確認を求めてくるな……。


「ええ、本当、です」

「ならよかったわ!いや、遠目から見てくれていたのは分かったんだけれど」


世辞ではない。

本当に、心の底から思っていたことだ。

……話を逸らすための会話の切り口としては使いたくなかったがな。

称賛は与えるべき時に贈りたいものだ。


「それは、僕もうれしいです。……よいしょ、と」


俺に気を使ったのか、イーリアを挟んで座るアレドロ。

隊商の行軍を見る限り、かなり打ち解けるのがうまい性格の筈なので、単純に奴隷でありなおかつ女の姿である俺のことを考えてなのだろう。


「ふふん、今までハシンちゃんが見てきた中で、何番目に良かった?」

「一番、です」

「嬉しいこと言ってくれる!あ、もしかして抱きしめてもいいってこと?」

「…………」


冷たい目線だけ送っておく。

そもそもの話、ああいう芸を見たのは初めてだ。

つまり、正確には一番ではなく一度という方が正しい。

……訂正もしないが。

少なくとも―――心を震わせられたのは事実だ。


「……ん」


―――そうか。

そういうのも、ありか。

思いついたのは、この詩を、芸を教えてもらうということ。

恐らく、役に立つこともあるだろう。特に、暗殺のために各地を移動することになれば、旅をする機会も多くなる。

……今回分かったが、奴隷という身分はやはり目立つ。

何度も奴隷が隊商に混ざるなどして移動を繰り返せば――いずれ、正体がわかってしまうだろうからな。


「もし。もし、良ければ……詩、教えて、貰っても、いいです、か?」

「うん?もちろんいいわよ~」

「意外と、軽い、ですね」

「あはは、詩が一人一芸の秘儀だと思った?残念、私たちのこれは本当にただの(わざ)でしかないのよ」

「旅をしながら、周りの人たちと打ち解けながら……危ない目にもあいつつ、そんなことを面白おかしく話にする。それだけなんです」

「まー、コツは近くの街の出来事とか散りばめることね。ああいうのが話にしやすいのよ」


……確かに、あの演奏の歌詞も、歌と踊りと楽器がなければ、かのシェヘラザードが言い聞かせたという、寝物語に登場してもおかしくないものであった。

否、もしかしたらあれはかつてこの二人とともに旅をした男の物語だったのかもしれないが。

イーリアの言うように、街の情報を付けるのも大切か。

情報は重要性が高い。

そして、重要性が高ければ――聞いてもらえる可能性も高くなるわけだ。


「後は、その話に音と、たまに踊りを付けてあげるだけ。そこはもちろん自分らしさを与えないとだめだけどね?」

「楽器にこだわったり、異国情緒を加えてみたり……その土地、その時に合わせてやるんです」

「臨機応変、ですね」

「そーよ」


それはまた……楽しそうなことだ。


「さ、ちょっとやってみましょうか。まずはそうね……詩を教えてあげるわ」

「は、い。よろしく、お願い、します」

「それから踊り!あなた肌もきれいだし、手足も細いし……きっと綺麗に踊れるわ」

「……」


まあ、善しとする。

特段女性扱いを受けた訳ではないからな。

一歩離れた場所でアレドロが見守る中、イーリアから手取り足取り……やや近づきすぎるときは釘を刺しつつ、その技術を教わったのだった。





***





「おう、見えるか」

「へい、お頭」


夜の晴天。

月明りの中で、夜目と遠目の利く者が、目標(・・)を視認する。

……こんな国境近くで野宿とは、全く持って暢気な奴らだ。


「……私兵は、あるか?」

「いないようです」

「そうか。ならば、深夜――仕掛けるとするぞ」

「はい」


決行は素早く。

獲物に逃げる隙を与えず、準備する間を与えず、作物を収穫するがごとく当たり前のように奪い去る……それが賊の行うべき最適解。

まあ、農奴として生きていたころなどはるか遠く、土の香りなど覚えておらんがな。

今はむしろ血の匂いと奪い取った積み荷、金の匂いこそが全てだ。


「武器を集めろ!弓を持て!男は殺せ!女は犯せ!」

「おおお!!!!」


……ま、隊商に女などほとんどいないがな。

だが、このように言っておけば士気が上がる。

士気が上がれば、略奪が素早く行える―――頭を張るにはこういうことも必要っつうことだ。

盗賊、山賊の類いなど、所詮ごろつきの集まり。手綱握んのも大変だわ。

ましてや、齢50を超えたこの身……歳は取りたくないもんだわな。


「お頭……あいつら、結構いい荷もっていやがりますぜ」

「ほう……?そりゃあ……高く売れそうだなぁおい」


ずるり……思わず舌なめずりが出る……。

ああ、略奪っつうのはいいもんだねぇ。

幾つになってもこの快感は忘れられん。


「手前ら―――奪いてぇか?」

「応ッッ!」

「殺してえか?」

「応ッッッ!!」


この国境を通る隊商は多い。

それを狙う俺たちもまた、人数が多い。

荒事に慣れているとはいえ、所詮は一般人の集まりよ。

我ら人数をもって崩せば、脆い。

―――さあ、決戦よ。


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