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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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顕盾将軍

「さて、作戦の説明も終わったことだし―――寝るかね」

「そうですね。貴方はともかくハシンは疲れていますから」

「……まあな」


確かに、先までの訓練という名の殺し合いで、随分と体力を消費していた。

作戦会議が終わった瞬間に眠気が襲ってくる程度には。

小さく欠伸をする。

まったく、眠気とは毒のようなものだな。何とも耐えようがないというのが面倒だ。

尤も、眠りという三大欲求を我慢すること自体が異常。

生死にかかわる事態でもなければ最優先しなければいけないことなのだ、本来は。

最近は命にかかわる事態があまりにも多すぎるため、疎かにし過ぎだがな。

その分、寝れる時にはしっかり眠らなくては。


「いつここを出立するんだ」


包帯を解けないようにきつく結び直し、リネンを体に巻き付けつつ、体内時計を用いて時刻を確認する。

……陰の刻。いや、もう根の刻にはいるか。

存外話し込んでいたようだ。まあ、図面にかいたりもしていたし、それは時間を食うはずだろう。


「私たちは、初の三刻(・・・・)にここをでる」

「そうか」


微妙に気になる点があったような気がしたが―――。

眠気でぼやけた頭ではそれ以上難解な思考はできず。

微睡みに沈んでいったのだった。





***




「寝たか」

「寝付きが速いですよね、本当に。いいことです」


暗殺者によっては神経質すぎて、環境が少し変わっただけで眠れなくなるものもいる。

要はストレスというやつだ。

そういう輩は使えない。

なにせ、環境に適応できない暗殺者は十全な実力を発揮することは不可能だからだ。

足を引っ張るのが目に見えているため、もし本当に足手まといになるのならば、先にコンビを組んでいる暗殺者が始末してしまうことすらある。

暗殺者同士に元来仲間意識は薄く、あくまでも仕事仲間というサバサバした関係こそが好まれる。

中には常に同じコンビであることによってその能力を飛躍的に向上させるものもいるが、それは何をしても得られない運と偶然、そして才能があってこそのものだ。

私には得られず、また必要のないものである。

まあ―――そんな暗殺者たちでも、私とミリィのように、徒党を組んで仲良くすることも多いのだから、私たちという人種は愉快なのだがね。


「……で、ハーサ。何故嘘をついたのですか?」

「真実を話さなかっただけさね」

「同じことです。私たちは初の一刻にここを出るはずですが」


経験則からはじき出された、出立予定時刻。

私とミリィはその時間に出るのが最もいいと、そう感性が導き出した。

逆にハシンは私が三刻といい、それを許容した。

……いまのハシンには、移動ルートを踏まえてどの時刻に出ればいいのか、ということがわからないということだ。

それも当然である。

なにせ、この弟子は―――まだ、ほとんど実戦というものを経験していないのだから。


「経験の不足。それを補うには実際にやらせるしかないだろ?」

「……はあ。全く持って面倒な性格してますよね、ハーサって」

「うるさいさね」


ハシンに圧倒的に足りない経験。

今回の任務は、それを積むいい機会だろう。

故に―――できるだけ多くの試練を与えてやろうじゃないか、師匠としてな。


「ひん曲がってますねぇ……」

「それが暗殺者、だろ?」


私の返しに、ミリィは肩をすくめて返したのだった。





***





―――――ルーヴェル。キャラバンサライにて。


「地下に荷を運び入れろ!もたもたするな!」

「ハッ!閣下!」


巨大な荷が、馬や時には牛などに率いられて、奥屋の中に引き入れられる。

キャラバンサライという建物は、大量の荷が集まるために、盗賊などの格好の的だ。

故に、巨大なキャラバンサライは外殻に巨大な壁があり、一種の砦のような形になっていることが多い。

代わりに対城兵器などで攻められれば容易く陥落する、平地に建てざるを得ないという欠点もあるのだが……あくまでキャラバンサライというものは行商の拠点。

大型化する傾向こそあれ、デポ(商品の一時貯蔵庫)であることに変わりはない。

立地上の不安の種は消すことが不可能なのだ。


「閣下。……これで最後の荷です」

「そのようだな。これでようやく私も物資搬入などという子守をせずに済むというものだ」


腕を組み、大仰に頷くのは、日焼けした褐色肌に乱雑に整えられた顎鬚をもつ、筋骨隆々とした男であった。

全身にはチェーンメイルを着込み、その上からは真っ白に染め上げられたサーコート。

加護を受けた、サーコートと同じ色の巨大で分厚い盾を持つ男こそは、宗教国家パライアスの将軍―――サヴァール・ラクルその人である。


「閣下か。まあ、そう呼ばれるのも悪くはないが、俺はあいつのような地下で生きる土竜ではない。それに、閣下というのも少々恥ずかしいものだ!」

「……あちらの”閣下”は少々自己顕示欲が強すぎる気がしますが」

「ハッハッハ!その通り!聞けば傘下の組織に、自らを王と呼ばせている様ではないか!……まあ、あれの境遇を慮ればそれも止む無しだがな」


顎に手をやり、撫でまわしながら遠い地にいる同僚のことを思う。


「此度の物資。バシューン閣下によって手配されたものだと聞き及んでいます」

「うむ。あれの傘下組織は周辺国家にまで蜘蛛の巣のように張り巡らされているからな。全く持って用意周到だ。俺には一生真似できんだろう」

「そもそも、閣下には必要ありません」

「そう言うな。時には必要になることもある。フ……あいつが土竜ならば、俺は猪といったところか。猪突猛進が取り柄だからな。細かい作業はどうにも好かん。今回の搬送指揮すら面倒で投げ出したくなったほどだからな。――そもそもだが、今回の侵攻作戦、俺でなくともよいのではないか?」


パライアス王国の三将軍の一人であるとはいえ、別に他にこれを任せられる人材ならいる。

わざわざ細かい作業が苦手な自分が出張る必要などない筈だ、という思考だった。


「否です、閣下。……この後、すぐさま開戦となりましょう。その時に道を切り開くには、やはり将軍でなければなりますまい。まして、他の将軍様はほとんど前線には出られません故」

「俺のような一代貴族が、栄えある先方を務めるとはなぁ……大丈夫か、この国」


サヴァールは、圧倒的武勲によって一代のみ、限定的な貴族として取り立てられた男だ。

本来ならば、高貴な血筋などではなく……開戦の狼煙が上がった時に、我こそはと突撃するような格があるわけではない。

まあ、最近の高級貴族はあまり戦地へ行くことを好まなくなってきているということもあり、英雄同士の争いなど滅多に起こらなくなってきているのだが。


「国の身分制度が危ぶまれても、この国の物資調達機構……兵站は消え失せません。兵の物資の滞りさえなければ、閣下が負けることはありません」

「ふぅむ、さすがに国の輸送環境を一から整備した男はいうことが違うな、サイル」


サイル……かつてあまりにも悲惨であった、パライアス王国の輸送ルートを、類まれなる先見の明によって改良、組織化した、兵站の鬼。

少々学者肌な所こそあるが、実に頭の良く回る―――サヴァールの右腕である。


「は、しかし王にたて付き、左遷された程度の男です」

「なにを言うか、王も見る目がないだけだ!……だが、サイル。一つ言っておこう」

「は!」

「いかに兵站を用い、常に十全で戦おうと負けるときはあるのだ。……特に、我らの知る戦争にならないような時はな」

「……我らの知る戦争に、ならない?」

「うむ。まあ、いずれ分かろう。いや、もしかしたら直ぐかもしれんな」


圧倒的な経験。

それを積んだこの将軍は、これから厄介な嵐が来ることを―――薄らと認識していたのだった。




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