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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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作戦人員

俺の言葉にミリィはうなずくと、胸元からびっしりと文書が書き込まれた小さな書類を取り出した。

軽く目を通してみても全く読めない……ということは、あれすべてが暗号で書かれているのだろう。


「まず第一に。今回の任務、規模の割に投入できる人員は非常に少ないということをご理解ください。……確かに、この地域一帯の暗殺者を動員して、情報を集めましたが―――」

「それは仕事の片手間にできる程度の事だから、さね。本格的な殺しを行なえるか、と問われたら答えは否ということになる」

「まあ、他の暗殺者にもそれぞれの仕事があるだろうしな」


物流のすべてを辿った、というのも、簡単にいえば情報屋のようなものということなのだろう。

……正確には、ひどく正確な、プロフェッショナルの情報屋、だが。

まあ、たいして変わらないか。


「ええ。ただ、暗殺者に仕事がある、という以外にも理由はあります」

「……どんなものだ?」

「力量不足。唯それだけです」


少しだけ驚く。

ハーサなら、確かに参戦する暗殺者たちに対して三下だの未熟者だの当たり前のように言うだろうとは思っていたが、ミリィも似た意味合いのことを言うとは。


「……私がこんなことを言うのは意外ですか?」


苦笑しつつ、ミリィが俺に聞いてきた。

……表情で悟られた?そこまで俺は表情に出やすかったか……?

否。……それは否、だ。

ミリィは、”長老たち”の一人。それも潜入を専門的に行う”百面”の名を与えられた、変装のプロフェッショナル。

俺程度……いや、俺でなくとも、その表情、仕草、まばたきの一つから相手の心情を汲み取ることなど容易のはずなのだから。


「いや。”長老たち(エルダー)”ならば、当たり前のことだろう」

「ミリィはああ見えて暗殺者の中でも冷酷だからな」

「貴方には及びませんよ、ハーサ」

「冷酷……か?」

「お前には特別甘いだけだ、ハシン。ミリィは潜入任務の時に、一緒に潜入するはずだった暗殺者を技能不足という理由で殺して、”風炉”の王女様に突っ返した伝説を持つ女だぜ?」

「あ、ハーサ!ハシンが怖がったらどうするんですか!」

「ま、そこは問題ないさね。こいつの考え方はお前や……何より私と似ているからな」

「黙れ」


うるさいぞ、ハーサ。

お前と似ているなどということは、あまり嬉しく無いことなのだ。

……だが、俺がミリィを怖がるということはない。それは事実だ。


「ほんとですか……?本当に怖がってませんか?」

「ああ。安心してくれ」

「ちなみにミリィの逸話のことをどう思うさね?」

「――どうもこうも、当たり前ことだろう?」


技能が足りない半端者を運用して……それが足を引っ張れば、結局死ぬことになるのは自分なのだ。

ならば、自分のために技能のない邪魔ものを排除するのは、当たり前のこと。

なにせ―――俺たち暗殺者という生き物は、究極のエゴイストなのだから。


「……な?」

「……はい」

「む?」


少しだけ困ったような……でもうれしそうな顔で、ミリィが笑っていた。

―――俺にはまだ、その真意を読み取る技能は無い。

不思議なことだ、とそれだけ感じ、思考するのを止めた。


「不要な話をしてしまいましたね。では、作戦概要の説明に戻りましょう」

「確か……投入人員の話だったか」

「はい。今回の任務をやり遂げられると”風炉”が判断したものの内、戦争が始まってしまう前に駆けつけられる者―――この地域周辺に居を構える十数人の暗殺者のみが、今回の任務の構成人員となります」

「名前上げてみろ。王女様がどんな判断したのか、知りたいさね」

「……まず、この山にいる私たち三人(・・)

「ハッ、既に王女様はハシンのことまでお見通しかよ。どこで知ったんだかね」

「……あの方の心情を推し量ることは、私にもできませんので」

「人間じゃないやつの思考回路なんて、人間じゃないやつにしか分からないさ。―――で?」


手に持ったメモに、目を落とさずに、さらに名前を列挙する。

……一応暗号で描かれたメモを持ってはいるものの、ミリィは頭の中にすべての情報をすでに収納しきっているのだろう。

こういう所を見ると、本当に達人なのだということを理解する。

ミリィの暗殺、か。一度この目でしっかり見てみたいものだ。

まだおれはお目にかかったことがないからな。本気のミリィを。暗殺者としてのミリィを、この目に焼き付けたい。


「”長老たち”の一人、”毒蛇”とその弟子」

「お?弟子もか。相当いい才能を持っているようさね」

「当代最高クラスの潜在能力あり、と巷では言われているようですね」

「さて。……どうかね」

「―――なんだ?こっちを見るな」


含みを持たせた言い方の後に、同じく含みを持った視線で俺を射るハーサ。

言いたいことがあるのならはっきり言え。

……そういっても、無駄だろうがな。


「”長老たち”は、今あげた者……つまり、私たちだけですね」

「三人もいるんだ。相当だろ。さらに、私もいるしな」

「……まあ、そうですね」


ハーサやミリィクラスの暗殺者が、もう一人、か。

……どんな暗殺者なのか、気になるな。

”毒蛇”か。名を覚えておこう。弟子もいるようだし、何か機会があれば会うかもしれないからな。


「後は”石像面”のヴェビ、”猟犬面”のラージに……」


二人新たにあげて、「あ」と何かに気付いたミリィ。

俺に視線を向けると、情報を補足で提供してくれた。


「暗殺者の中でも、”長老たち”以外……また、”長老たち”の弟子以外で暗殺者を表現するときは、その者がつけている面の特徴を上げるのが一般的なのです」

「弟子がたくさんいる場合とかでも、面の名前で上げられることが多いさね。お前には関係ないけどな」

「なるほど、理解した。……クソ師匠とは違い、本当に気が利く。ありがとう、ミリィ」

「いえいえ。当たり前のことですから」


その”当たり前”を、まったくやらない、師匠もいるがな。

―――全く、どうして片方の師匠はこれほどに親切なのに、もう片方はどうしようもないほどに適当なのか。

……ん。そういえば、そうか。

今ごく自然に考えたが―――ミリィも、俺の師匠に当たるのか。

確かに、二人の暗殺者から、それも得意分野の全く違う二人から教えを授かる、ということは珍しいのかもしれないな。

だからどうしたという話だが。珍しかったとしても、これが事実である訳だし、そんな理由で俺が何か変わるというわけでもないが。


「後ほかには―――」

「まあいいだろ。ほかの面子は実際別働隊みたいなもんさね」

「それはそうですが、だからハーサ。なんで会議に出ていないのにわかるのですか。というか名前上げろと言ったのはあなたですよね?」

「推理ってやつさ」

「……探偵にでも転身するのですか?」

「はっはっは、私が探偵になったら、そこらに犯人の死体が転がることになるぜ?」

「成れないとは言わない辺り、随分な自信だな」

「あん?この私が、成れないと思うか?」

「……ふん」


思うものか。こいつになれないものなんて、人外以外無いのだろう。

だが、ハーサが暗殺者以外の職についているという光景を、一切想像することはできなかった。

……つまり、こいつの天職は、これということなのだ。

才能というべきものは、全て殺しのために存在している―――とは、本当に難儀な人間なことだな。


「……あの、ハシン。ハーサがなれるか云々より、犯人の死体が転がっていることを追求するべきでは?」

「…………ん?」

「いえ、何でもないです……」


はぁ…とため息をついたあとに、ミリィは地図の上にテキパキと幾つかの棒と、羽ペンではなく、ガラスペンを取り出した。

……ガラスペンの方が羽ペンよりも多くの文字が書けるのだ。

つまり、侵攻図を描く、ということである。

さて、具体的な攻め立て方の説明、その始まりだ。

……暗殺者の戦争の仕方、というものを、十分学ばせてもらおう。





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