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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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決戦中戦 ”試練”

「―――ほう」


その言葉はハーサの口から。

単純に、明快に。ただ驚嘆している口調であった。

無意識かに動いた俺の動きとは、刺突。

……全く同位置、同じ力を直線的に、ハーサのナイフに掛けたのだ。

即ち、刺突を刺突で鍔競り合うという、曲芸じみた行為。

点の攻撃である刺す動作に対して、全く同じ力の入れ角で対応するという、極限状態でなければできない芸当。

無意識だったが――いや、無意識だからこそ、できたのだろう。

そして、もう一つのナイフには、指による白刃取り(・・・・)

本来両手で行う白刃取りだが、ナイフであるのならば、俺の筋力でも指だけで抑えられる。

こちらも、実戦では終ぞ見ることの方が稀な技。

仮面の内側から、汗が垂れる……”死”を、なんとか塞き止められたか。


「……」


口の中がカラカラに乾いている。

当然か、なにせこれほどまでに集中状態であったことなど、今まで一度もない。

確実に防いだことを確認し、後ろへ下がる。

ハーサの動きに警戒しながら、身体の調子を確認する。

左腕はまだ鈍い痛みがある。これは数日おかなければ治らないか。

足は、先ほどの曲芸を無理な態勢で受けたため、少しだけ痛みがあるが、すぐ収まるものだ。

こちらは問題ないな。


「いや、今のを無傷で防ぐとは思わなかったさね」

「そうか」


自分でやっておきながら、自分自身でもそう思っているからな。


「ふむ……仕切り直しか」

「いや。次で終わりにする」


ここまで無理な動きを連続して行ったのだ。

俺の体力もそろそろ限界に近付いている。

曲芸行為のおかげで気が緩み掛け……集中力もそろそろ切れそうなほどだ。

大凡暗殺者としては失格と呼べるような状態にまで落ちている。体調も、集中力も。

――だが、ここまでして無理に踊ったのも、ただ悪戯に体力を削るためではない。


「一つ。お前の手の内、持つ武器は今――全部見た」


俺の驚愕した、気付かぬように巻かれた仕掛け足鎧。

二本目のナイフ。あとは暗器の類はいくつかあるだろうが、先ほどのとどめとして使わなかったことから、俺の知らない、特殊なものは持っていないと判断する。

また、ハーサの動き……それを再び見ることができた。どんな動きをするかを把握できれば、対応も可能。

大きな一歩である。


「二つ。俺は、奥の手(・・・)を見せずに済んだ」


俺の持つ、ハーサに届く一刺し。

相手の手を打ちを探りつつ、自分の手の内を晒さない……基本ながらも、難しいこれを、俺は体力と集中力の大幅な消費と引き換えに達成することができた。

これもまた、大きな一歩だ。

…………僅からながら一歩二歩と積み重ね。やがて三歩目にはハーサにも届き得る刃となる。


「三つ。まあ、これは補助的なものだが……ここは、俺が決戦に選んだ場所だ。意味は分かるな?」


この場に置いては、全ての地形が俺の味方となる。

……そうなる場所を、俺が選んだ。


「―――理解しろ。ここは俺の領域だ」




「ッハ!面白いさね!やってみろ!」


ハーサの身体が低く下がる。

膝の伸縮性までをも利用した加速、その準備態勢。

針の一本を迷いなく使い捨てる。

左腕で太もものポーチから抜き去り、流れるように顔面に投げつける。

これもまた、動きを見たことによって、さらに洗練されたようだ。


「ッ!」


二ィッと笑いながら、口で噛み取る。

ああ、ちなみに、あの針には毒が塗ってある。

効いていないようだがな。そんなのは最初から分かりきったことだが。

ハーサは俺に毒入りの食物を食わせている。

つまり、俺が得ている毒への耐性など、ハーサはとっくに持っているだろう。

それどころか、もっと多様な種類の毒への耐性を得ているに決まっている。

おそらく……この山からとれる毒ではこいつを殺すことはできない。

一歩間違えば針が喉に突き刺さるというのに、何の迷いもなく動きを継続させるハーサ。

いつも思うがこいつの精神はどうなっているのか。

こんなのと俺が似ているなどと、そんな評価はやめてほしい。


「さて」


俺も、決めに行くとするか。

退路はもはやない、背水の陣。

逃げの手段を用意する時間を全て攻撃の手段のために費やした。

ここでやらなければ、俺は死ぬということだ。

まあ、そのくらいの覚悟ができる方がいい。


「行くか」


俺も深く腰をかがめて、加速する。

借りるぞ、衛利。

ハーサのとは違う……どちらかといえば、衛利の加速方法に近いもの。

もちろん完全に同じなわけではない。自己流にアレンジは加えている。

――ハーサよりも先に、仕掛ける。

互いに近づくために、距離が一瞬で縮まる。

俺は、駆け出した勢いそのままに、右切り上げ――下から上に切り上げ、空中への逃げ場をふさぐ。

ハーサの持つ右のナイフで防がれた。

直後、地面の草木を踏む、微かな音……寸打による肘打ちか。

腕で肘打ちを払い、なお進む。

攻めろ、攻めろ。どこまでも!


「チッ……」


なおもナイフによる斬りつけは止まらない。

この一瞬に気力も体力も注ぎ込む!

右へ左へ。縦横無尽に駆け回り、全方向から斬りかかり続ける。

相手はナイフ二本だが、腕の反対側までには二本目の射程は及ばない。

常に位置取りを考えれば、ナイフ一本のデメリットは打ち消せる。


「いい加減鬱陶しい!」

「おっと」


ナイフを弾かれた。

続いて膝蹴り……これは受け止められないな。

素直に後ろに下がろうとして……嫌な予感がした。

直感を信じて、背後ではなく左横に全力で避ける。

先ほどまでいた場所を見れば、ハーサの纏っていた足鎧が俺の避けようとしていた位置に深く突き刺さっていた。

膝蹴りをしつつ鎧を外し、それを蹴飛ばしたのだろう。あのまま下がっていたら腹が破けていたか。

いや、後ろばかり見ていられない。

ハーサはすでに次の攻撃の態勢に入っている。

蹴飛ばした足を引き戻さず(・・・・・)、残った足を軸にしての回転蹴り。

鎧こそないが、俺も着ているこの暗殺者の服は、その強靭な繊維によりただ受け止めただけのナイフでは皮膚まで届ききらない。

ハーサも足部にそれを纏っている以上、ナイフで受けても意味がない。

むしろ蹴り折られる。

仕方ない、両腕でガードすることとする。


「重……い!」

「ッハ、当然さね!場数が違う!」


自身でも後ろに飛んでいたというのに、腕が痺れる。

……俺の蹴りにここまで威力はない。それこそ、ハーサの言う通り場数か。

だが、俺は死ぬわけにはいかない。

場数は努力でごまかす。

この地形、どこならば簡単に受け身が取れるかは把握済みだ。

背中で着地、後転して立ち上がる。少し距離が開いたか?それを確認しようと顔をあげた瞬間。

―――目の前に、既にハーサがいた。


「―――ッ!!」

「殺し合いの最中に相手の気配を追い忘れるなよ?阿呆」


集中力の低下、それがこんなところで解れを産むとは……!

目視のみでしかハーサを捉えていなかった証拠だ。目が離れた瞬間に、ハーサに距離を一方的に詰められた。


「終わりさね」

「―――まだだ」


まだ……終わらない。

振り下ろされる二本のナイフ。

左右への回避は不可能後方へも無意味。

チェックメイト、完全な詰み。

即ち、俺の……死。



いや。


―――巫山戯るな。俺はこんなところで死んでやらない。

いきなりこのセカイに飛ばされて、意味もなく奴隷へと落とされて。

此の侭では無価値だ。無意味だ。だから……俺は死ねない。なんとしても。

生き残る――死んでもいいと、そう想えるその時まで!


―――迷わず一歩を踏み出した。


「……!」


ナイフはハーサの両腕をすり抜け、眼前へ。

左右も後ろもだめならば、前しかないだろう?

だが、無理な姿勢、拙い突き……当然の如く、避けられて再度ハーサは切り落としの態勢に入る。

……終わらない。死から抜け出したのだ―――ここから。持ち直す!


「はああああああああああ!!!!!」

「な――ッ!?!」


裂帛の気合を込めて咆哮する。

降ろされる二対のナイフ、片方を左腕で跳ね除け、もう片方は撥ねたスペースに身体を潜り込ませ、無理やりに避ける!

ナイフが頬を深く削った。

血が飛び散る……それがどうした?

今ので持ち直した、これが最後の好奇。

奔れ、速く、攻めろ―――!!

ハーサのナイフを悉く叩き落とし、自身の裂傷を気にせずに突き進む。

急所に突き刺さるもののみを防御し、どうしようもない時は腕で振り払う。

―――傷などいくらでも治せる。死にさえしなければ。


「こいつ――ハハ!面白い!」


ナイフを、奪う……。

そして、そこを起点に攻め立てる。

ハーサの攻撃を弾き、腕を狙い続けること数十檄。

金属のぶつかる甲高い音がなり続けている。


「……届け」


額を薄く切られる。

血か目に垂れて視界を圧迫する。

もう少し。あと少し。


「行け――――ッ!!!」


訪れたチャンス。

ハーサの右手のナイフを体術で逸らす。そして、左のナイフを俺の得物で弾きながら、即座に腰を屈める。

虎の子の針。残っている三本すべてを投げつけ、ハーサの胴体にナイフを突き立てようとするが……!

パシっ!

ハーサは左腕を、ナイフを手放すことによってフリーにし、俺の右手首を掴み取った。

そのまま、ぐるりと放り投げられる。



「……は。ようやく、だ」


―――投げられる軌道さえ、自分で把握できているのなら。

その風景は捕えられなくとも、次の一手を打つことはできる。

痛みに耐えながら、肩の関節を外す。

投げられながら、ナイフの位置だけは目を離さずに……手を伸ばす。

その手はハーサから得物を一本、奪い取った。


「そこまでして武器が欲しいか?」

「まあ…な」


手を掴んだままでは奪い取られたナイフで切り付けられると警戒したのか、途中で手を放し、俺を蹴り捨てるハーサ。

地面を転がりつつ、肩を嵌め、睨みつける。

息も絶え絶え、全身は切り傷に打ち身だらけで、身体を動かすだけで痛みがあるほどだ。

だが、ここから。

死力を賭して、最後の一刺しを突きつける……!!




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