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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
32/146

決戦準備

***



「………む」


目が覚める。

体内時計では、今は初の五刻をちょっと回ったところだ。

かなり長い時間を眠りに割いたワケだが、そのかいあって体の調子は絶好調に近い。

昨日斬られた太ももも、傷はほとんど治っていた。

糸を取り外して、確認をする。

これを再利用できればと思ったが、さて。


「この長さではな……」


微妙だ。

何をするにも足りない。

無言で背中の袋に収納する。

これで暗器から糸はなくなり、残りは針四本にナイフが一つ。

あとは昨日背中に収納したものだけだ。


「心もとないな」


だが仕方ない。

足りないものは起点と努力でどうにかするしかないのだ。

努力だけで何でも解決できるなどという根性論は信奉するに値しないが、努力しなければ何も為せないというのは事実。

せいぜいあがくさ。

何はともあれ、食事だ。

ハーサの攻略法を考えながら、周囲の食物を漁るとするか。




***




「初の五刻過ぎか」


目が覚めたのはその時間だった。

さて、今日も狩を始めようか。

その前に朝飯さね。


「――む、食材置き場も場所が違う……どこだ?」


酒を探したときにも思ったが、自分以外の人間も暮らしていると、置き場がないのは地味に面倒だ。

ミリィは毎回決まったところに置くが、ハシンのやつはその置き場にはおかない……というか知らない。

それに、ミリィの置き場も、あくまでミリィが決めた置き場であって、私が決めた場所ではない。

これが終わったら棚でも作るか……面倒だな、ハシンのやつにやらせよう。

あいつは私の弟子でもあるが、私が回収した奴隷でもあるわけだし、雑用は任せるに限る。


「お、あったあった」


干し肉に林檎。

雑に食い終わり、水瓶からのどを潤す一杯の水を飲んで、今度は暗器を漁りに行く。

これは試練の体をした真剣勝負だ。当然、私の方は準備万端にしていく。

昨日ハシンを追撃しないで屋敷に戻ってきたのも、あいつに武器を補給させないためだ。

今頃あいつは私をどう倒すか考えていることだろう。

楽しみだ。


「適当に罠を仕掛けて、さあ行くか」


今日が最後。

あいつが生きるか死ぬか、決める時だ。




***




山を移動しながら果実を口に含む。

見つけたものは大量になっているサクランボのような木の実だ。

甘味はなく、ほとんどが酸味。

朝食べるにはちょうどいい。

思考も大体まとまったところだからな。


「まず。あいつは俺を攻め立ててくるか」


それは間違いなくイエスだ。

ハーサはただ待っているだけでも、刻限が来たら俺を本気で殺しにかかればいいだけだが、あいつの性格的にそれはないと言い切れる。

猟犬の如き思考回路をしているハーサは、俺を効率的に攻めることを楽しんでもいるはずだ。

そして、その予想を裏切る一手を俺が打つことに期待もしている。

簡単にいえば戦闘狂のようなもの。それがただ待っているなんてことはあり得ない。

そもそも、これはあくまで戦闘技術を学ぶための殺し合い(くんれん)だ。

あいつが攻めてこなければ何の意味もない。


「そろそろしたら本格的に俺を探しに来るだろう」


思考から、行動から。

様々な糸を辿ってあいつは俺に辿り着く。

今の状態では、その時点で俺の一生の詰み。

つまり、その前に起死回生の一手となるモノを打たなければいけない。

―――それは、すでに決まっているが。

昨日回収しておいた、背中に収まるそれ(・・)を確認する。

先ほどそれ(・・)にちょっとした加工も済ませている。

後は、ハーサを待つだけだ。


「作戦はただの受けだがな」


昨日と同じ、後の先。

しかし、今回は“対々の先”と呼ばれるものだ。

宮本武蔵の執筆した五輪の書曰く、三つの先の一つ。自らも攻撃をしつつ、相手の攻撃にも対応を行うという先。

通常の手合いにおいては、相手の行動が起こるその前に相手の行動に対応した動きを行うものだが、今回はそれを一種の作戦として行う。

まあ、面倒な言葉を全て廃して言えば―――攻撃し、誘って最後に討つ、それだけだ。

カウンターも取れない、先を伸ばすこともできないとすれば、相手の行動のその先を打ち続けるしかない。

本来格上の相手には行えないようなものだが……ハーサの動きを制限させ続けられるようにすれば、あるいは。


「まあ、ここで考えてもらちが明かないな」


なにせ、実際の戦闘は計算だけでどうにかできるようなものではない。

俺のミス、相手の計算外の行動、現場の環境等、変数が大きすぎる。

ただ言えることは、できる最善の準備を決して怠らないこと、ただそれだけだ。

そうと決まったら、決戦の場所を選定するとしよう。

なるべく日が当たるところがいい。

そして、草木が生い茂る場所だ。

―――ついでに、使えそうな道具を散策しておくか。






***




「あ?」


ハシンを探してもうすでに三刻が経過しようとしている。

思考と行動の捜索からうまく逃れているようだな。

優秀優秀。

そう思いながら山を走り回っていたわけだが……。

さて、これはどうだろうか。


「獣道のなかに、もぎ取られた果実……か」


ま、考えるまでもなく罠だな。

というか、考える考えない以前の話だ。これはもはや直感である。

あいつの思考はなんとなく読める。

私と同じ人種だ。

だが―――まさか、私に対して「かかってこい」などという挑発を掛けるとは、流石に驚いたさね。


「確実な勝算がある……わけじゃない。ほお、腹を括ったか」


背水の陣、決死の覚悟。

つまりは、ここで決めに来ているのだろう。

どちらにしても、私がこの調子で追いかければ根の四刻を待つまでもなくあいつは死ぬ。

その前に片付けようとしているのだ。

しかし――だ。

私に一撃を与えるなにかを隠し持っていなければ、そもそも決死の覚悟すら決まらない。

つまり……あいつは何かしら私を倒すに足る一刺しを手に入れているということでもある。


「――クク。楽しみだなぁ!」


弟子の成長がここまで面白いとは!

次は何をする?私はあいつに何を教えよう!

全て、全てだ!

あいつには私のすべてを見せ、全てを覚えさせる!

――――たとえ私自身がその成長の結果を見れなくても。


「…………ッケ。いやな予言を思い出した。気分が台無しさね」


一流の強敵を暗殺したときですら感じなかった高揚感が台無しだ。

あの怪物ババアめ。

けったいな予言なんぞを残しやがって。

―――ふん。

別にいい。せいぜいこの一瞬を楽しむさ。

再び気分を引き上げ、自ら罠にはまりに行く。


「ッハッハ~どんな手が飛んでくるかな?」


油断なく、慢心なく、手加減なく。

しかしこの生を最大限楽しんで―――。

私は生きている。




***





「随分と愉快そうだ」


決戦場所に選んだ、山の森の中にぽっかりと空いた空き地で、巨木を背に思考を重ねながら、ハーサが近づいてきたのを認識する。

最近は俺も、離れていても普通に人の気配を認識できるようになったのはうれしい限りだ。

必須スキルだからな。

本気で隠されたら見つけにくいのはまだまだ未熟な証だが。

今回のハーサは隠れることなくわざと見つかりに来ているため、そう言った警戒をする必要はない。

それは好都合だ。

まあ、半分計算通りでもあるが。

あれだけあからさまなもの、ハーサの性格ならわざとひっかりに来るだろう。

それに対し、俺も今できる準備は完全に終わらせている。

あとはハーサを待つだけだ。

それまでは、昨日のハーサの動きを脳内でシュミレートしていた。

身体の動き、それに対応する地面などの動き。

それらを分解して、どうやるのかを学習する。

身体を動かして勉強するのも手だが、これから戦闘するというのに無駄に体力は使えない。

頭の中で訓練するのが一番だ。


「――まあ、昨日の動きはだいたいものにできたか」


思考だけでは勉強にならない……などということはあり得ない。

人の動きを見て学習するということは、それは頭の中で動きを再現し、分解して学習していることと同義だ。

故に、思考を繰り返すことでも学習は可能である――と俺は結論付ける。

まあ、結局は素人の考えで、理論があるわけでもない。

俺は思考でもできるが、ほかの人間がどうなのかまでは分からない。

結局他人は他人だから。

俺とハーサの思考が似ている、と指摘されても、ハーサの思考を完全に理解しているわけではないのと一緒だ。

そんなことを考えていると、ハーサの気配がもう近くまで来ていた。


―――さあ、決戦だ。


ここで、確実に獲る。




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