表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
31/146

寝床確保

***




「……雨か、ちょうどいい」


しばらく逃走を続けることすでに数十分。

暗くなり始めていた空は、夕立ちによってさらに暗さを増していた。

雨はいい、血の匂いも痕跡も消し去ってくれるからだ。

これで万が一にでも止血した場所から血が零れていても追ってくることはできないだろう。


「今日はもう無理だな」


暗闇は褐色肌である俺の姿をよく隠してくれるが……それでも、夜目が利く暗殺者の視界をごまかすには至らない。

熟練度の差から、むしろ俺が相手を見失って獲られる可能性の方が高い。

故に、夜は攻めない。反撃など最悪だ。


「英気を養うとしよう」


まずは飯だ。

次に寝床。

周囲を確認する。

雨とはいえ、獣を解体すれば臭気が漏れる。

ここにいるといっているようなものだ、動物を狩ることはできない。

自然、食べ物は山に自生している木の実や山菜に限定される。

最悪土でも食べれるには食べれるが、身体を激しく動かすにはエネルギーが足りない。

このセカイにはいろいろな植物があって助かるな、本当に。

まだすべてを覚えきれているわけではないが、役に立ちそうな植物はいくつか頭に入っている。

その記憶を引っ張り出し、食用可能な植物を探し出す。


「……林檎のような果実、茸、栗……こんなものか」


探し出しても、好き勝手獲るわけにもいかない。

不自然にもがれた木の実などは、俺の痕跡だ。

見つかればどのくらい前に訪れたのかが丸わかりになってしまう。

そのため、収穫できるものはなくなっても自然な場所のみに限定される。

そうなると、あまり数が取れないのが現状だが、あまり獲りすぎてもそれはそれで困るためこれでちょうどいい。

暗殺者の服、その背中側にある隠し(ポケット)にもぎ取ったものを収納しておく。

隠し袋はマントの下にあり、道具収納ができるとともに背中の防御にもなっているものだ。

意外と伸び縮みするため、思った以上に物を入れておくことができる。

とはいえあくまで隠し袋。

大量に収納しておくには不向きなのだが。


「―――む」


……灯葛だ。

既に日が沈んでいるため発熱はしなくなっているが、この形状は間違いない。

次いでだ、一緒に持っていくとしよう。

解体して、仕組みを知っておきたい。




***




ちょうどいい木の洞を見つけた。

俺の身体は小柄なため、どこにでも身を隠せるというのは数少ない利点の一つである。

密閉空間に閉じこもるということは利点ばかりではないが……雨に当たって体温を持っていかれるよりはましだ。

どちらしても、寝るときはどこかしらに隠れなければならないのだ。

地面に直に坐り込み、背中の袋から食料を取り出して、さっさと食べる。

……基本的に早食いする、ということが習慣になりつつあるな。

まあ仕方ない。

急いで食わなければいけない事情の方が多いためだ。


「ふむ。意外と快適か」


地面に草などを敷くわけにもいかないため、地面に直座りだが……。

森の地面は人が踏みしめた市街近くの土地よりもずっと柔らかい。

これなら問題もないだろう。


「さて、調べるとするか」


ナイフを取り出し、灯葛を解体する。

肉厚の葉を刻んで、開く。

通常のウツボカズラは、袋の中に消化液が入っているものだが、これには肉厚の葉に沿うようにして、電熱線のような器官が張り巡らされている。

なるほど、光合成によってつくられたエネルギーがここに集められているのか。

発生した熱は、耐熱性の高い葉によって保温されているので冷めない。

そうして熱は蓄積され続け……最後にはガラスも溶かせる熱になるわけか。

熱を求める動物なり虫なりはたくさんいる。そうして熱に引き寄せられた得物を捕食しているのだろうな。


「……まだ熱が残っているのか」


電熱線に当たる器官を切り取り、持ってみると、すでに太陽がほとんど沈み、光合成も行われていないというのにまだ熱を保っていた。

かなりの発熱量を持っている証なのだろう。

これ一本で車備え付けのライターと同じくらいか。それが葉の内側に張り巡らされているのだ、相当の熱になるだろう。

おそらくだが、この電熱線器官に燃えやすいものを当てれば発火するだろうな。


「さて、調べるのはこれで終わりだな。分厚い耐熱肉に発熱能力の高い電熱線。……ああ、屋敷においてあるような炉はこれに手を加えてあるのか」


葉肉の上部の方に穴を空けてあるのだろう。

溜まった玻璃の液体はそこから溢れ、それを受け皿か何かに落とすことで造形する、と。

実に効率的だ。

まあ、常時熱を持っているわけではないというのが残念だが、自然界に存在する植物。それは仕方ないだろう。

分解した電熱線器官のいくつかを背中の袋にしまい、洞の中に深くもたれかかる。

今日はもうここで眠ることにしよう。

あまり不用意に出歩くことは死につながる。狩猟側(ハンター)がハーサである以上、慎重でいつづけることにデメリットは存在しない。


「―――ふん。尤もあいつは今頃屋敷に戻っているだろうがな」


図太い奴だ。こちらにプレッシャーだけかけておいて本人は当然のようにゆっくりと休息するのだろう。

そうとわかっていても、暗闇であいつに出くわせば死が待っている以上は、俺は夜に活動することはできない。

厄介なものだ。単純戦力差で劣っているということがこれほど面倒だとはな。

……ゆえに、今生死を賭けて訓練を行っているということでもあるが。

投薬兵のような化け物がいる戦場になるかもしれないのだ。

今のままでは犬死する。


「なんにせよ睡眠だ。……記憶の定着は、一間おいてから行われる……だったか」


レミニセンス効果、というやつだ。

知識、あるいは運動能力、身体技能も含め、学習してからしばらく経ってからこの身に定着するというもの。

一度眠りについて翌日の方が物事をよく思い出すことができる、というあれだ。

誰しも経験があるだろう。

今日だけでハーサの動きを随分と観察し、また戦闘を行うことで随分と実践も行われたからな。

眠りにつき、あの動きに身体を慣らさなければいけない。

あの技、動きを完全にものにすることはできなくても、ついていき、対応はできるように――。


「………………」


ああ……根の刻までにケリを付けなければ、な……。

スイッチを一時的に切り、一瞬で睡眠に落ちていった。




***




「む、酒が見当たらない……。あいつどこに仕舞ったさね」


元の配置というものもないため、片付ける奴に応じて仕舞う場所が毎回変わる。

探すのも面倒だし、そこまで酒を飲みたい気分でもないので放置。

適当に飯だけ引っ張り出し、口に入れた。


「……あ?」


食べ物の中に少し違和感を感じた。

……これは毒だな。


「当然のように毒入りの食い物を紛れ込ませておくとは、あいつもどんどん暗殺者の思考に染まってきているな」


甘えが抜けてきているのはいい兆候だ。

シビアでなければこのセカイは生きていけないからな。

毒入りの食い物をそのまま食べ、何の毒かを吟味する。

……蛙の毒か。

矢毒――矢に塗られる毒だな。

血液毒に分類されるものだが、私にはもう抗体が存在している。これでは死なん。


「―――ふぅむ、意趣返しかね」


毎日微量に飯に毒を盛っていたのに気がついていたのだろう。

まあ、気付いて当然だが。自身の体調に気を配れないのでは三流もいいところだ。

あいつはまだ弟子だが、三流ではない。

自分がどの程度、どの毒に抵抗力があるのかも把握できているだろうさ。

さて、ハシン。次はどんな攻めを用意してくる?

トラップはほとんど効かないことはわかっただろう。ならば次は毒などか?

戦法としてはあり得るが、この山からとれる毒では私の動きを止めることすらできん。

だが、手としては打ってくる可能性が高いか。一応留意しておくか。


「ほかには何があるか……」


正直、あいつは弟子だが……私も完全に気を抜いて取り掛かれるような相手ではない。

まだ根幹に甘えがあるから芽吹いてはいないが、あいつは天性の暗殺者だ。……さて、そうなると。

―――正面突破か?

ハシンの学習能力は私ですら脅威と認識するレベルだ。

簡単な技であれば二度見れば学習する。

複雑な動きも、多時間見て、一度整理すればものにしてくる。

毒の抗体なども驚くべきスピードで作られていた。

ならば、正面からの一撃もあり得る。

あり得るが―――それではつまらん。


「ク……。私が思いもしないような手を期待するぞ、ハシン?」


弟子の成長(一手)に期待して。

明日も愉しむとしよう……!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ