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TS転生奴隷の異世界暗殺者生活  作者: 黒姫双葉
第一章 Who are kill……?
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実戦訓練

―――気持ちよく寝ていると、不意に殺気が襲ってきた。

……殺気、といってもその下には幼稚ともいえるいたずら心が混ざっているのだが。

意識が一瞬で浮上し、その時(・・・)に備える。

空気の風鳴り、振動。息遣い、行動するときに発生してしまう熱量。

それらを感知し、どう相手が動いているのかを把握する。


「(ナイフによる斬撃)」


心の中でそう当たりを付けて、確実に反撃できるであろう場所にナイフが来るのを待つ。

眼前―――まだだ。

鼻から口へ―――まだ。

絶対的な急所、首の上―――これでもまだである。

そして、ナイフが首のすぐ近くにまで接近。

その瞬間、ナイフを持つ腕の内側に転がり込み、相手の手の内側に入り込むことで必殺の距離から離脱する。

相手――ハーサの腕と背中が当たっている床との反動を利用して、膝蹴り。顔面を狙う。

―――が、難なく残った左腕で受け止められた。


「上出来さね」

「寝込みを襲うとは卑怯だな。……いずれ返してやる」

「期待して待ってるよ」


寝起きのあいさつを済ませ、外を見る。

体内時間では、陰の二刻。日本で表せばだいたい午後二時ほどの時間だ。

帰ってきたのは朝方であったため、意外と長く寝ていたらしい。


「……というより酒臭いが」

「呑んだからな」

「酔って死んでもしらないぞ」

「あり得んな。まあ、死んだらその時だろうさ」


……まあ、実際にはアルコール程度を多量に摂取したくらいではこいつは殺されないだろう。

適当に見えるこんな調子だが、こいつの死生観や、仕事への姿勢は非常にストイックだ。

というかシビア……という方が正しいか。


「……む。ミリィは」

「打ち合わせで出て行ったさね。やっぱり”獣奏”の鳥は速いな」


机を見ると、酒のグラスなどの隣に、封の開かれた書簡が置いてあった。


「――ミリィも飲んだのか」

「意外とザルだぜ?あいつ」


確かに意外だ。

酒に弱そうなイメージがあるのだが。

だがまあ、潜入のプロフェッショナルである彼女が酒に弱かったら、確かに話にならないのも事実。

ならば、酒に強いということは当たり前か。


「帰ってくるまで二日。準備に半日。移動に一日と半分。そして攻略開始といったところだ。ということでハシン」

「なんだ」

「これからお前を最低限今回の任務で生き残れるよう鍛える。少しばかり本気で訓練してやるさね」

「―――そうか。ならば、先に机を片付けるとしよう」


立ち上がり、呑んだ後の酒瓶などが置いたままの机をまず片付け始める。

ハーサは、あののっぺりとした表情のない仮面を付け、先に庭に出る。

……その仮面の理由は、身内としてではなく、一人の暗殺者、それも”長老たち”として鍛えるという象徴であろうか。

――本気、だということだ。

では俺も殺す気でやらなければいけないだろう……。

未熟な身。刃が届くほど生易しいくは無いだろうが、絶対に喰らい付く。

性格はクソッ垂れだが、その暗殺の技量は目標とするべきモノである。

一流の暗殺者に相対する……そう心にとどめ、奪える技術はすべて奪い尽くさなければいけない。


「こんなものか」


酒の空き瓶は一か所へまとめ、空のグラスは台所へ。中身の残っているものは、蓋で閉じ、置き場へ戻しておいた。

グラスを軽く濯ぎ、乾燥台においておく。

それらを終えると、最後に確認をして、服を戦闘衣に変更する。

頼りない刃の欠けたナイフを抜き、俺も庭に出た。

ついでに、俺も面を付ける。


「今回の依頼は、隠密術、潜入術、戦闘術、暗殺術……通常の暗殺者が持ちうる技術、そのすべてが高い水準で必要だ。お前は隠密と潜入に関してはまあ、できる方だが――戦闘。これがまるっきりだめだ」

「ああ。身に染みている」


思い出すのは投薬兵との戦い。

手元のナイフは立った一撃で欠けたものだ。

あまりに―――未熟。


「隠密も私から見れば雛っ子同然だが―――時間がないからな。体調の調整も含め、今日と明日ですべては不可能。今回の鍵になる戦闘を重点的におこなうさね」

「また、斬りあえばいいのか」

「まさか。この山すべてが戦場さね。さあ、好きに動け。お前の勝つ条件は前と同じ、私に一撃入れること。―――だが、気をつけろ?今回は、お前の敗北条件もある」

「…………」


嫌な、予感がした。

じっとりと汗が背中を伝う。……この緊張感は。


「山を出れば殺す(・・)。明日の根の四刻までにお前が勝てなかったのなら、お前を殺す(・・)。そして―――私に殺されても、お前の敗北だ」

「――――ッ!」


予備動作はほぼ一瞬。

無警戒状態から投擲されたナイフは、正確に俺の眉間を狙っていた。

後方に飛びつつ、刺さる直前に左腕でつかみ取り、ハーサの足元へ右手にある欠けたナイフを投げつける。

スッと、一歩にも満たない距離、足を移動させただけで避けられた。

それなりの速度での投擲だったはずだが、難なくか。

まあいい。距離は、とれた。


「自分の飯、武器に至るまで、すべて自己調達さね。―――さぁ、踊ってみろ」


集中しているからか、今度はしっかりと予備動作を読み取れた。

筋肉の膨張――前方方向への突進。

全てをこなす、”無芸”。一流の暗殺者たるハーサの突進への対処など、現状の俺では不可能―――。

まだ行動とならないそのうちに、全力で山の森へと飛び込んだ。

巨大に育った樹木、その枝の上をなるべく反動を消しながら移動し、ハーサから遠ざかる。

背後を見れば、あいつは追ってはこなかった。……山へは入ってきてはいたがな。

ある程度離れたことを確認して、自分の痕跡がないことも確認してから、樹にもたれかかり、息を整える。


「…………はぁ……いいだろう」


踊れ―――そう言われたからには、狂うほどに踊ってやろう。

現在は陰の二刻と半分。タイムリミットは明日の根の四刻。

時間的には、おおよそ二十時間といったところか。

……それまでに、あいつに一撃を与えなければ、俺は死ぬ。

あの緊張感は生死の次元に踏み込んだ時に生まれるものだ。あいつは本気で、俺を殺すだろう。

――故に。

面白くなってきた(・・・・・・・・)


「せいぜい、貴様が踊り疲れないようにすることだな」


さて……まず、どう攻めるか。

思案を巡らせる。





***




「さて。どう出る」


効率よく技術を育てるならば、やはり実地が最適だ。

特に、異様ともいえる学習能力をもつハシンならばなおさら。

あの地下坑道から帰ってきただけでも、あいつはすでに成長していたのだから。

故に、私も本気で挑む。

殺す気で――いや、実際に失敗すれば殺すのだが。

戦闘に重きを置いているとはいえ、此度の訓練はあいつの持ちうるすべての技能を扱わねばならない。

そうなれば、全体的な訓練になり得るだろう。

……さてさて、この訓練は一度きりしか、成長の役には立たない。

今はまだ早いと思っていたのだが――世情が絡む以上、どうしようもないことだ。


「――ほう」


途中から、ハシンに関しての物理的な痕跡がすべて失せていた。

これでは正規の手段では追えないだろう。

……面白い。

しばらく鼻は摘んで(・・・・・)おくが……私も本当に本気でやらなければいけないようだ。

周囲のすべてを見る。

逃げている状態では、痕跡を残さず、消すということも完璧にこなすのは難しい。

どこかに粗がある可能性もあるが―――今回はだめだな。

ならば……心理的なものからの捜索に移るか。


「訓練――鬼ごっこ。さあ、楽しめよ……我が愛弟子」


仮面の下でにやりと笑い、私自身もこの訓練を楽しむことにした。

―――さぁ、せいぜい殺されるなよ?






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[気になる点] 過変換: 手元のナイフは立った一撃で欠けたものだ。
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